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陰の黒城

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月光が世界を照らす第三の面、人々は其処を〝暗世〟と呼ぶ。


大きな争いが起こる度に一体何の縁なのか、毎度の如く戦場と成り果て、復興しては戦争復興しては戦争を幾度と無く繰り返した殺戮の面であった。

其れ故、文化や宗教などは地域によって異なる事が多い。

よって、面同士の争いだけでなく面内での争いも最早日常と化していた。

経済も天候も全く安定しないため、政治は進まず経済成長の気配も無い。

白世でいう〝スラム街〟がそのまま世界になったようなものだった。




――――――――だが、其れはもう遠の昔の惨状。


現在、其の暗世は一つの組織によって見事に立て直されていた。


日常茶飯事だった戦争は様々な条約で制限され、面全体の公衆衛生から社会保障、公的扶助が万遍に施された。

それによって住民の生活が安定し始め、政治が進み、唐突な経済発達によって景気も波に乗ったのである。

皆、年相応の仕事に勤しみ、様々な感情を溢れさせるまさに天国の日々。

天の光よりも住民が輝く世界が其処にはあった。


……だが、世界は均等ではない。嘗ての習慣に染まったままの住人は年々減少しているものの、家系内での伝統として受け継がれているのか、未だに〝0〟には達していなかった。


数が少ないといえど、その過激な思考は現在の面内では珍しい分類となったためか、好奇心で手を出す若者は少なく無い。


光在る所に闇在り。


大部分が笑って過ごしている中、泣いて過ごす者も居る。

だからこそ、自分の価値を自分で定められた嘗ての時代の思想は、一部にとってある意味救済であった。


他人に自分を定められない。真の自我を持つ事が当たり前だった時代。


争いは犠牲を生む。だが希望でもある。大規模なギャンブルでもある。

望んだ希望が光とは限らない。

歪んだ闇にこそある魅力に手を伸ばすものもいる。

そんな彼らの手を包むのは、いつも一色の彼ら自身だった。


「貴方の希望は何?」


陰は問う。

彼らの理想を、欲望を、未来を、鏡写しの彼らの姿で。

笑わない奴が笑い転げ。明るい奴が無に落ちる。強い者は絶望を見。軟弱は武器を得た。


住民は其れを〝禁術〟と呼んだ。

だが、禁術なんて甘いものではない。

虎の意を借りた狐の強さを、住民は知っているだろうか。

狐は、己の身が蝕まれようと、傷付こうと、今まで触れた事も無い〝強さ〟を過信し荒れ狂う。


荒れて、荒れて、荒れて―――…

気付けば何も無い、闇の中に送られる。

全ての始まりに。

輪廻の始点に。

揺れて揺られて行き着く先。

其処に一体何があるのかも知らず、知ろうとせず、

生物はいつも、〝強さ〟を羨んでいた。


___そんな面の住民が唯一、口を揃えて言う事がある。

始点は一体何時なのか、一体誰が発祥なのかは最早泡沫と成り果てたが、其の言い伝えはある意味好奇心旺盛な子供への脅し文句の様な形で残った。


「悪い事をすると、陰に連れ去られるんだよ」


〝陰〟


嘗て、この世界が血に塗れていた頃

何時もの様に気狂う人々が溢れていた頃

とある面と面の合戦中、世界が捻じ曲がった時に生まれた黒の者。

住民は畏敬を表して其れを〝陰〟と呼んだ。

何故畏敬なのか、それは、この暗世という世界を立て直したのは紛れも無い其の”陰”であったからだ。


枯れた土地に恵みを与え、枯れた人々に希望を与えた。


面の中心には底なし沼で囲まれ八つの巨大な塔で形成された城の様なものが住民の知らぬ間に佇んでいた。

何も知らずに其を初めて見たとある老婆は、その城が放つ威圧感に気を失ったとか。という噂もちらほらと出てきていた。



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