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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お前のために誰が生きてやるものか

作者: ぽちゃこ

 ねえ、もういいでしょう?

 私は頑張ったでしょう?


 貴方の居ない世界で生きることに疲れたの。


 歪んだ笑顔を張り付けて、偽りの言葉を口から吐いて、いったい私には何が手に入ったのかしら?




 王妃の身分かしら?

 そんなもの、貴方の代わりにはならないわ


 王の異常な愛情かしら?

 そんなもの、貴方のくれた無償の愛に比べたら、何の役にもたたないわ


 それとも、この憎い憎い愛の結晶とやらかしら?

 そんなもの、欲しくはなかったのに。貴方の子であってくれていさえすれば、私は......




 ねえ、もういいでしょう?

 私は頑張ったでしょう?


 だから、死んでもいいでしょう?

 貴方の元へと、今行くわ、ユリウス


 その時は、どうか私を......














 私は、ただの男爵家の2番目の娘として産まれた。

 愛情をたっぷりと注がれ、贅沢はそんなには出来なかったけど、民の暮らしよりかは、よっぽど恵まれて生きてこれた。


 男爵家の領地の隣には、これまたよくある子爵の領地があって、似たような気候と風土から昔から仲良くしていたらしいわ。


 そこの私と同じく2番目の息子ユリウスは、私と同じ年で王宮に勤める騎士を目指していたのよ?


 将来設計もばっちりで、見た目も美しく線の細い美男子のユリウスに、私は好きになったの。

 まとわりついて、どうにか私を見てほしくて我が儘をねだって。


 けど、ユリウスはそんな私を受け入れてくれて、少しずつ少しずつ、二人の愛は育っていたの。



「ねえ、ユリウス。私、貴方が好きよ」


「僕もだよ、可愛い可愛い金糸雀ちゃん」

 

「ユリウスったら!」



 ユリウスが騎士になったら、私は貴方のお嫁さんになるの。


 世界で一番、幸せな花嫁になるのよ?


 ユリウス、だから、待っているわ。














 ユリウスが騎士に任命されるその日。私は王都にお忍びで来ていたの。おめでとうユリウス、って一番に言いたかったから。


 王都にある我が男爵家の屋敷に向かっている途中、私は馬車の窓から王都をぼんやりと眺めていたの。


 領地では見られない都独特の華やかさと、喧騒が物珍しかったのかもしれないわ。


 流行のドレスを纏う女達の賑やかな声は、馬車の中にまで聞こえて来て、後で絶対にユリウスとこの王都を見て回ろうって、心に決めたの。


 だからかしら、熱心に窓の外を眺めていた私の目に、一人の男性に寄ってたかって幾人もの人々が殴ったりだとか、蹴っているのを目撃したのは。



「!! っ、と、止めなさい!早くっ」



 御者が驚いて馬の進行を止めた途端、私は馬車から転がり降りるように飛び出して、その男の所へと考えもなく走ったの。


 一瞬だったから、着いてきていた側仕えのメルサは私を引き留める間もなくて。


 私は暴行の現場を目の当たりにして、悲鳴を上げたわ。 



「キャァァァァァ」



 女の甲高い悲鳴に乱暴していた男達が、私を睨み付け、下劣な笑みを浮かべてこちらににじりよる。


 良く良く見やれば、乱暴していた男達はそこそこの衣服を身に纏っていることから、貴族の子息だろうと察しがついた。


 しまった!


 私はへたへたとその場に崩れ落ち、為す術もなく蹂躙されるのを待つしかないと思ったわ。


 助けてユリウス、何度も何度も貴方の名前を呼んだの。けど、今貴方は王宮で晴れて騎士に任命される式典に出席しているから。


 どんなに貴方を願っても、私はこのまま、って思った矢先だったの。


 馬の駆ける音がこちらに近づいていることに気がついたのは。




「何をやっている! 貴様らはそれでも、王に仕えし貴族の子息か!」




 凛とした冷たい男の声。


 はっと顔を上げれば、王族のみが着用を許されている白に金糸の刺繍が施された衣服を纏った男が、栗色の馬に跨がりこちらを睨み付けていた。


 あっと声を上げて子息達は逃げて行き、その場には乱暴されていた哀れな男と、私と、王族の男のみ。


 そのまま呆然と地面に座り込んでいると、王族の男は馬からひらりと降りてくると、私に駆け寄りマントをかけてくれたの。


 花の甘い香りがする。



「大丈夫か? そなたのように、か弱い姫が何故このような事を......いや、まあいい、あの者を助けようとしたのだな? すまなかった」



 銀色の冷たい色の髪がさらりと流れ落ちる。頭を私に、下げているの?


 何故、と、考えている内に男は頭を上げて、にっこりと微笑む。冷たい印象の顔立ちは、甘くなり、サファイアの冷たい眼差しが、熱を持って私を見つめる。



「あの者はな、私の唯一無二の親友であり臣下でもあるのだが、妾腹の生まれが高く取り立てられているのを、貴族の子息らは気に食わないのだよ。都の人間も、貴族の争いには手を出して来なくてな。こうして、そなたのように優しい姫が助けてくれたのは、本当に嬉しかったのだよ」


「あ、や、そんな、ただ......私は、たまたま見かけただけで、助けるなんてそんな......私が助けて頂きましたから」


「謙遜をするな、まあいい、そなたは名前はなんと言う?」


「アイリーンと、申します」


「アイリーン、か、そうか、すまなかった」









 王族の男との会話は何となくしか覚えていなくて、気がつけば馬車の中で、男に掛けられたマントにくるまって、メルサに抱き抱えられていたの。


 屋敷に着いた時にはすっかり私は疲れきってきて、ユリウスのもとへ向かう元気もなくて。


 けど、このときに無理にでも貴方に会いに行くべきであったと私は後悔したわ。


 ドレスを億劫に脱ぎ捨てて、ベッドに横になるのが精一杯で、何も考えたくなくて、そのまま眠りについたわ。


 それが間違いだったとは、思いもしなかったの。













 翌朝、私は目が覚めて、幾分すっきりした気持ちで、昨日入れなかったお風呂や、身仕度を整えて、食事を取ったのだけれど。


 何故か家の人間達が落ち着かない様子で、ひっきりなしにあちらこちらを歩いていたの。



「メルサ、ねえ、何かあったの? これから、私はユリウスのもとへ行きたいのだけど」


「っ!? いけませんお嬢様、昨日あんな事件に巻き込まれたばかりではありませんか! 今日は屋敷から一歩も出てはいけません」


「そんなっ、では、手紙は良いでしょう? メルサ、ユリウス様に手紙を出したいの」


「なりません、お嬢様。お嬢様はもう、...」



 メルサは悲しげに顔を歪めて、そのまま走り去ってしまった。


 私はどうして手紙まで禁止されてしまうのか訳がわからなくて、困惑気味に周りの人間に視線を向ける。


 けれど彼らは私と視線を合わせることなく、押し黙ったままで。


 居心地の悪さに私は逃げるようにして自室に戻ったわ。


 けどそこには、てっきり先に戻っているとばかり思っていたメルサはいなくて。


 昨日、私を助けてくれた王族の男がそこにいたの。



「ど、どうして貴方がここにいるの? ここは、私の部屋よ?」



 困惑ぎみに問い掛ける私に、王族の男はただ微笑む。


 年頃の娘の部屋には、本人の他は側仕えや母親、兄弟姉妹の他は、婚約者しか入室は許されていないはず。


 だから、こうして寛いでいる姿に、私はますます混乱してしまい、はしたないけれど大きな声でメルサを呼んだの。



「メルサ、メルサ、来てちょうだい!」


「怖がらなくても良いのだよ、アイリーン。君は私の妃になるのだから」


「嫌よ、私には既に婚約者がいるわ、質の悪い冗談はやめてください!」



 叫ぶ私を、男はただ黙って見つめていて。


 このままでは居られないと、形振り構わずに部屋を飛び出す、が、腕を捕まれてそのまま抱き締められる。



「アイリーン、子爵の二男より、王である私の妻になった方が身のためだ。あんなつまらぬ男より、私を選べ」


「いやっ、いやぁぁ、ユリウスっ、ユリウス助けてぇ」


「そのユリウスは、憧れの騎士に任命されたようだが、私の一言でどうにでもなることを忘れるな」



 暴れて逃げ出そうとする私の耳元で悪魔が囁いた。













 私は、ユリウスという愛する人を人質に取られ、この男...ルシウスの妃にならざるを得なかった。


 誰もが私を羨み、嫉妬し、羨望の眼差しで見つめる。


 私は王妃なんてなりたくない、ただ貴方の妻になりたかっただけなの。


 私の愛する人、ユリウス。どんなに貴方を思って泣いても、この声は届かない。


 泣いて泣いて泣いて。


 王宮の奥深く、囚われの身になった私は、ただひたすら貴方を想うの。



「大丈夫だよ、アイリーン、僕の可愛い金糸雀。きっと君を鳥籠から解き放ってみせる」


「......ゆ、り、うす?」


「さあ逃げよう、僕と二人、この国を出て幸せになろう?」


「ユリウス、ええ、ユリウス、私は貴方のものよ」



 きつく抱き締められ、私はユリウスの腕の中で泣くしかなくて。そうやって泣いていたら、涙をさらりと拭われ、ユリウスに口付けられて。


 びっくりしてユリウスを見つめると、そのまま抱き上げられて...私はユリウスと共にバルコニーから外へ抜け出し、王宮から外へと走り出したの。



「王妃様が、誘拐されたぞ!」


「誘拐したのは、ユリウスだ、王妃様を守れっ」



 けれど、あと一歩、あの塀を越えれば王宮から逃れられる、といった所まで逃げた時に、私が居なくなったことがバレてしまい、王宮に勤める全ての人間が私達を探し始めたのです。



「仕方ない、アイリーン、そのドレスを脱いでくれるかい?」


「ええ、待ってすぐに脱ぐわ」



 さらりと脱ぎ捨てたドレスを、ユリウスはそこを通りかかった下働きの娘に無理矢理に着せて、何事か耳元で囁いていた。


 娘は隠れ隠れ走りながら王宮の奥深くにかけていった。



「少しは時間稼ぎになるだろうから、今のうちだ、アイリーン、行くよっ」


「そうはさせるか、私のアイリーンを返してもらおうか」



 再び抱き上げられ、逃げようとした私達を鋭い声が牽制する。


 振り向けば、冷たい眼差しでこちらを睨み付けるルシウスが立っていた。



「さあ、アイリーン、こっちへおいで?」


「いやぁっ! ユリウス、ユリウスっ」



 私だけには蕩けるような甘い笑みで微笑むルシウスに、私は恐ろしくなりユリウスに抱きつく。


 しっかりと抱き抱えたユリウスは、バッと身を翻しそのまま逃げようとした。



 ザシュッ



 何かが切れる音。一瞬遅れて、私はユリウスごと倒れた。


 鉄錆の匂いが鼻をつく。いや、どうして。ユリウス?



「アイリーン、怖がらなくても良い。お前を拐う不届者は倒したよ、さあおいで」


「いやっ、ユリウス、ユリウス死んではいやぁっ!」


「......ア......イ、リーン、僕は君を、あ、い......して......っ」



 私はユリウスを抱き締め、私ルシウスを睨み付ける。


 けれど、甘い微笑みのまま、彼はゆっくりと近づいてきて。


 私はユリウスのか細くなる吐息に、このままでは死んでしまうと、泣きながら、死んではダメと抱き締める力を強くする。


 けれど、ユリウスは段々と血の気をなくしていき、身体がどんどん冷たくなって。


 最後の力を振り絞って、血濡れた手で私の頬をなで、そのまま動かなくなった。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」















 私はあまりのショックで気を失ったみたいでしたの。その間に、ルシウスは淡々と王として事後処理を行っていましたわ。


 ユリウスは王妃を誘拐した罪で、死んだあとにも関わらず首を切られ、その首を王宮の門の前に晒されてしまった。


 一族にも罪が及ぼうとしましたが、私の父がなんとか庇い、なんとか助かったらしい。



「これで君は私のものだ、さあ、アイリーン、おいで」



 私はと言えば、誘拐された可哀想な王妃として、なんの罪に問われることもなく、今まで通りに、なった。


 けれど。王妃としての公務以外は、王宮の奥深くに自由もなく囚われ、与えられた部屋で過ごすしかなくて。


 どんなに綺麗な調度品で飾り立てられても、美しい花をこれでもかと生けられても、眩い光を放つ宝石や装飾品を与えられても、流行の目新しいドレスを積まれても、私からすればただの牢獄でしかないの。


 貴方がいない、それだけで目に写る全ての物が色褪せて見えるの。



「ああ、アイリーン、そんなところにいては身体に悪い、さあ、もっとこちらへおいで」


「けど、あなたここから見える空が綺麗なの。もう少し見ていたいわ」



 格子のついた窓からぼんやりと空を眺めていれば、ルシウスの声が聞こえた。


 ちらりと視線をやれば、手を広げて朗らかに笑っているルシウスの姿が見えた。


 ルシウス自体に嫌悪感があるため、とてもじゃないがその腕に抱かれたくはなくて、ふるふると首を振り、また空を見上げた。


 しばらく、空を見上げていれば、ふわりと甘い花の香りがして、私を後ろから抱き締めるルシウスの腕が身体に巻き付いて、その温もりがとても気持ち悪くて。


 抵抗する気力もなくて、何も見たくなくて、目を閉じて貴方を想った。


















「おめでとうございます、王妃様! ご懐妊にてございます」



 気分が優れなくて、いつにもまして気分が悪かった。


 ご飯もまともに食べれず、ベッドに横になっていた私が、うつらうつらとしていた時だった。


 音もなくするりと近づいて来た誰かが、私の腕をとり脈をはかる。


 あちこち身体の様子を調べられ、その煩わしさに微睡みから目を覚ますと、嬉しそうに笑う王族専属の医師の姿があった。



 懐妊して......る?


 誰の?



 お腹に手をやり、医師を見つめると、医師は嬉しそうに叫んだ。



「お世継ぎをご懐妊されました、王妃様! お慶び申し上げます!」


「......っ」



 唇を噛み締める。嫌だと叫びたくても、叫ぶことなんて出来なくて。


 ただ、無理矢理に笑みを浮かべて、頷くことしか出来なかった。










「アイリーン、よくやってくれた! 私達の愛の結晶がここに宿っているのだね!」


「ええ、そうみたいね」


「嬉しくないのかい? こんなにも君を愛して、愛して、愛して、愛して、愛して、愛し抜いた証が、ようやく君に宿ったというのに。そうか、まだ産まれるまで時間があるからね。産まれたら嫌でも実感するだろうね。ああ、大丈夫、もちろん何人でも作ろう、私達の愛の証をね」


 っ、嬉しくないなんて、そんなことないわ、ただ悪阻があって、気分が優れなくて、少し一人にさせてちょうだい」


「ああ、そうだね。これで君もようやく私だけのものだ、安心して公務に励めるよ。ゆっくりお休みアイリーン、また、夜に」



 医師の訪れのあと、ルシウスが嬉しそうに笑いながらやってきて、私のお腹に顔を埋めた。


 ゆるゆるとお腹を撫でながら、ほの暗い笑みを浮かべて、私を見上げた顔は、悪阻が原因じゃない、込み上げてくる何かがあった。



 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!


 私はユリウスだけのものなのに、どうして、私はこんなところにいるの?



 これ以上ルシウスが側にいることが我慢できなくて、悪阻を理由に部屋の外へ追い出した。


 姿が見えなくなると、何度も何度も何度もお腹を殴り付ける。


 こんなもの要らない、ユリウスの子でないなら、私は要らない。 


 でも、この子が居なくなったところで、ルシウスによって、また子供が出来るまで好きなようにされることは目に見えている。


 私に残されたただひとつの自由。それしか、方法はないわ。
















 ルシウスが城を空ける日を選び、私は持っている中でも特に質素なドレスを選び、装飾品は着けず化粧もせずにベッドに横たわった。


 見回りの側仕えが一時間に一回、何かしらの理由をつけてやってくるのをやり過ごすためだ。


 悪阻のために、床に臥せっている。そんなスタンスを見せていれば、見回りの時間が長くなり、一時間に一回の見回りが、二時間に一回、そして三時間に一回に、延びた。



 カタン



 側仕えが私の狸寝入りに気づくことなく、部屋の外へと出て行きました。


 私は横目でそれを確認すると、するりとベッドから抜け出して、窓の側に立ちましたの。


 空は青くて、どこまでも続いているような気がして、その向こうでユリウスが待っている。そう思うと、早く早くと焦る気持ちが沸き上がる。




 ねえ、もういいでしょう?

 私は頑張ったでしょう?


 貴方の居ない世界で生きることに疲れたの。


 歪んだ笑顔を張り付けて、偽りの言葉を口から吐いて、いったい私には何が手に入ったのかしら?




 王妃の身分かしら?

 そんなもの、貴方の代わりにはならないわ

 私は、貴方の妻になりたかったのに


 王の異常な愛情かしら?

 そんなもの、貴方のくれた無償の愛に比べたら、何の役にもたたないわ

 私はただ貴方を愛していたのに


 それとも、この憎い憎い愛の結晶とやらかしら?

 そんなもの、欲しくはなかったのに。貴方の子であってくれていさえすれば、私は...この子だけを愛して、貴方との愛の証であることを証明したのに。




 ねえ、もういいでしょう?

 私は頑張ったでしょう?


 だから、死んでもいいでしょう?

 貴方の元へと、今行くわ、ユリウス


 その時は、どうか私を......


 もう一度、貴方のものにしてくださいませ、ユリウス




 護身用にと渡されていた短剣を、心臓に当てる。


 もう一度空を見上げ、短剣を思い切り胸に突き刺した。












「王妃様、失礼します、お食事の......っ、誰か!誰かぁぁぁぁ」



 見回りの側仕えが目にしたのは、窓に寄りかかって胸に短剣を刺して死んでいる、王妃アイリーンの姿だった。


 胸に突き刺された短剣と、おびただしい血痕がなければ、眠っているようにしか思えないその顔は、とても幸せそうで、嬉しそうで、側仕えはただひたすら誰か他の人を呼んだ。

















 私の死体を抱いて咽び泣くルシウスの姿が見えるけれど、自業自得よ。


 私はユリウスだけのものだったのに、お前が私とユリウスを無理矢理引き裂いたのよ。


 子供も出来て幸せの真っ只中だったでしょうね?


 赤ちゃんがいれば、女は逃げないとでも思ったのかしら?


 けどね、ルシウス、それはちょっと甘いわね。


 憎くて憎くて憎くて、存在に嫌悪感を抱き、側にいることが苦痛でしかない人間の赤ちゃんを宿す女の気持ち、分かるかしら?


 日ごと大きくなるのは、貴方の血を引いた赤ちゃん。


 身体の中から貴方に蹂躙され、全てを貴方に奪われるなんて、嫌よ。


 さよなら、ルシウス。私の身体は好きにすれば良いわ。けれど心までは、貴方に渡せないわ。




 お前のために誰が生きてやるものか




































 私はいったいどうしたのかしら?こんなところで寝るなんて、ユリウスに見つかったら怒られてしまうわ


 それにしても、本当に良い天気だわ。ポカポカして、気持ちいいわ


 そのまま寝転んで陽射しに微睡んでいれば、隣に誰かが寝転んだ。



「アイリーン、迎えにきたよ?」


「ユリウス、ええ、待っていたわ」



 ずっとずっと会いたかったユリウスが目の前にいて、私を抱き寄せて、きつく抱き締めた。



「すまなかった、アイリーン。君を、守れなくて」


「いいえ、私はそんな言葉なんていらないわ。貴方が迎えに来てくれた、それだけで充分よ。もう一度私を貴方のものにしてくださいませ」


「もちろんだよ、アイリーン。君は僕のものだ」



 ああ、ユリウス。愛しているわ









.

こんなダークな物語もたまには読みたくなります。





 


ところで、アイリーン、ユリウス、ルシウスの3人もそれぞれ可哀想なのですけど


一番可哀想なのは、名前の出てこない、ルシウスの親友兼臣下の男の子ですよね?


出番あるのか?って思った読者様にはごめんなさい


長くなりそうで、カットしました


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― 新着の感想 ―
[一言] 結局王様とヤってんのキモ
[良い点] 悲しい最後ですが、いい話だと思いました。 [一言] アイリーンとユリウスが可哀想というのは分かるが、ルシウスのどこが可哀想なんでしょうか? 恋人同士を己の欲望のために引き裂き、挙句に恋敵を…
[一言] >ところで、アイリーン、ユリウス、ルシウスの3人もそれぞれ可哀想なのですけど  とのことですが、ルシウスについては「え?どこが?」と心から思いました。  何やら咽び泣いているようですが、何が…
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