⑧
「話はここまでにして、徹くん、夕食にしない?」
窓の外を見ると既に真っ暗になっていた。それと同じくしてなんだかいい匂いがしているのに気がついた。
「凛先輩、もしかしてカレー作ってくれたの?」
「ええ、徹くんのお父様からカレーが大好物だって聞いていたから、私、料理は得意なのよ」
凛先輩は胸を張って(小さい胸だけど)自慢げに言った。
このパターンは!
俺は思った。カレーは大好きだから大喜びしたいところなのだが、非の打ち所の無い美人なのだが残念なことに料理だけは壮絶にまずいってよくあるパターンだよな。それもその事に本人が気が付いてないってパターンも定番だよな。
「今、用意するから徹くんはテーブルに座って待っていて」
俺はテーブルに着きしばらくすると、目の前にカレー皿に盛られたカレーライスとスプーンと水の入ったコップが並べられた。
「今日は時間が無かったから市販のカレールーを使ったのだけれど、徹くんの口に合うかどうか……」
俺はカレーを見た。暖かいご飯の上にとろりとかかっているなめらかで表面がキラキラ輝いている様子はすごくおいしそうである。またなんともいえないスパイシーな匂いが食欲を刺激させられる。
待てよ!
このスパイシーな匂いこそが罠なのではないだろうか? 私は普通のカレーですみたいに平静を装っていて実は心臓が止まるくらいの超激辛なカレーって事はないだろうか。
俺は恐る恐るスプーンでカレーを口に運んだ。
「うっ! これは……!」
う、うまい! カレーソースはコクがあり深い味なのにすごくなめらか、肉はとろける様に柔らかだけど旨みがぎゅっとつまっている。これが市販のルーで作ったものとは思えないくらいだ。
「凛先輩、すっごくうまい!」
「そう。よかったわ」
凛先輩はテーブルの向かいで俺の食べている姿を見てにこにこしている。
「これが市販のカレールーだなんて! 何か魔法でも使ったのか?」
「魔法なんて大げさなものじゃないけど、野菜は摩り下ろしたものと普通に切ったものの二種類使って、お肉は昨日の夜に表面を焼いてブイヨンスープに一晩漬け込んだものを、出来上がり直前にガラムマサラを加えたのよ」
「昨日の夜からって……」
「だから言ったでしょう。料理には自信があるって。もしかして徹くん、私の料理がとんでも無くマズイいんじゃないかって疑ってた?」
「えっと、それは……あははは……」
俺は結局カレーを三杯お代わりして、その姿を食べながら見ていた凛先輩はそんなに食べて大丈夫? って驚きながら笑っていた。