⑦
「どうして私を無視して足早に去ったのか教えてもらえる?」
俺、帰っていきなりの正座です。
どういう状況かを説明すると、俺が家に帰ってリビングの扉を開くとそこに超美形で黒い長髪の艶やかなあの女が胸の前で腕組みして(えーと、今日子みたいな感じにならないって事はあまり大きくは無いって事ですね)両眼を閉じて怒りの表情で立っていた。俺が中に入るとくわっと眼を開き「ちょっとそこに座りなさい!」と言い、俺がソファーに座ると「ちがーう! こっち!」と床を指差した。
と言うことで、正座なうです。
「それはあんたが有名人だったからだろう。あんたと知り合いなだけでもいろいろな事に巻き込まれそうなのに、血の繋がってない姉弟だなんて知れたらどうなる事か……。あんたにも分かるだろ?」
「それは分かるけれど…………って言うか、そのあんたって言うのやめてもらえないかしら?」
「じゃあ、なんて呼べばいいんだよ」
「そうね…………私があなたの姉になるのだから、姉さんとか、お姉さまとか、姉貴とか…………」
「わかった、わかった。じゃあ、先輩って呼ぶことにする」
「えぇーーーっ! なんで先輩なのよ!」
凛先輩は俺の言葉に思いっきり頬を膨らませて怒っている。いつもは冷静な美人って感じだけど、こういう感情が表に出たときの凛先輩は無邪気でかわいい感じになる。
「いや、それはこっちのセリフだよ。なんで姉さんなわけ? さっきも言ったよね。みんなに知れると厄介な事になるって、俺が凛先輩のことを姉さんなんて呼んだらモロバレじゃない?」
「ううぅぅ…………そうだけど……」
凛先輩は唸っていたが、ちょっと間をおいて、
「それじゃあ、私はあなたの事を徹くんって呼ぶわね」
「えっと、羽多野くんにしてもらえないかな。そのほうが他の人にもバレにくいような気がするし」
「いやよ。私はひとりっ子だったから弟が出来るの楽しみにしていたんだから。せっかく弟が出来たのにそこは絶対に譲れないわ」
俺はその凛先輩の嬉しそうに話している姿を見ていて少し自己嫌悪に陥った。俺は父親から再婚話を聞いたとき正直言うとあまり祝福しようという気持ちにはならなかったし、相手の女の人(香織さん)とその娘(凛先輩)には少し嫌悪感すら抱いていたくらいだった。なのに、凛先輩は弟(俺)が出来たことを素直に喜んでくれている。そういう凛先輩の姿を見ていると自分が小さい事を気にするつまらない人間に思えてくる。
「徹くんって呼んでいいかしら?」
少し間があったせいで不安そうな声で凛先輩は聞いてきた。
「いいよ。こっちこそわがまま言ってごめん。そのうちに姉さんと言えると思うから気持ちの整理がつくまで少し待っていて欲しい」
「うん。わかった」
凛先輩はちょっと顔を赤らめてあのかわいい無邪気な笑顔で俺の言葉に答えた。