③
俺は手紙を読み終えてゆっくり二つに閉じる。そんな俺の姿をコーヒーをちびちび飲みながら(そんなまずいなら飲まなきゃいいのに)待っていた彼女が口を開いた。
「どう? これで分かってもらえたかしら?」
「分かる訳ねえだろうがあぁぁーーーー!!」
「え? こんな簡単な日本語で書いてある手紙も読めないの? あなた頭大丈夫?」
彼女は俺の顔を哀れみを持った目で覗き込む。
「いやいや、手紙に書いてある事は分かる。分かるからそんな目で俺を見るんじゃねえ! そうじゃなくて俺が分からないって言ってるのは何で俺とあんたが一緒に暮らさなくちゃいけないのかって事だよ!」
「あっ、そういうこと……ねえ、あなたは私の事をお父様から聞いて知っているわよね?」
「……ああ」
父親から彼女が出来たと聞かされた時に彼女には俺より一歳年上の娘がいるって事も聞かされた。正直、いきなり母親と姉が出来ましたって言われてもそんな簡単に割り切れるものでもない。
「それなら私の今の状況を理解してもらえるかしら? 私の母があなたのお父様の海外赴任に着いて行くことになり、私はひとり日本に残ることになった。それを心配したあなたのお父様があなたの所に行って一緒に暮らすのはどうかと提案してくださったの。いずれ私達は姉弟になるのだからって」
「……それはまあ、言ってることは分かるけど、何か納得いかないと言うか、何と言うか……」
くそぉ~、親父のやつ、好き勝手言ってくれちゃって、これじゃあ断れないじゃないか。
「まさか! あなた、わたしみたいな美人でか弱い女の子を家から放り出して勝手にしろなんて言うんじゃないでしょうね」
自分で美人でか弱いなんて言うなよ。まあ……たしかに美人ではあるが、絶対にか弱くは無い。断言できる。
「しょうがねーなぁ……分かったよ」
俺はため息を吐きながら答えた。
「それって、ここでいっしょに暮らす事を了承してくれたと理解していいの?」
彼女は不安げな面持ちで俺に聞いてくる。
「ああ、確かに女の子の一人暮らしは物騒な気がするからな」
俺のその言葉を聞いた瞬間、彼女の顔が満面の笑みに変わっていく。こ、これって反則じゃね。さっきまでのちょっときつめの美人な顔がまるで年下のような無邪気な笑顔に変わった。
不覚にもかわいいなんて思ってしまったのは俺の勘違いだと思う。
「よかった。それじゃあ、私は身の回りの物を持ってくる準備をしなきゃならないから今日は帰るわ」
「……お、おう」
「もしかして、あなた、今、私のことをかわいいって思った?」
彼女の表情は無邪気な笑顔から一転、俺の心を見透かすような微笑に変わっていた。
「んなわけねーだろう」
「ふぅ~ん、まあいいわ。じゃあ、また明日」
彼女は軽い足取りで俺の家を後にした。