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(白石先輩には気をつけろ!)か…………
考えているうちに家の玄関まで来てしまっていたようだ。
「ただいま………………って! なんだよ! その格好は!!」
玄関の扉を開けて真っ先に俺の目に飛び込んできたのは凛先輩の水着姿である。
ブルーに黒のラインが入ったビキニで胸元と腰のあたりにワンポイントでリボンが付いている。細身なのにささやかながらしっかり胸の谷間もあるし、腰からお尻にかけてのラインなんて……って何を説明してるんだ! 俺!
「どう? 徹君! 似合う?」
凛先輩は屈託の無い笑顔で俺に聞いてくる。
ここは完全スルーしたいところだが敢えてツッコミを入れてみる。
「なんでこんな所で水着なんか着てるんだよ!」
「なんでって、ほら、もうすぐ夏でしょう。だから新しい水着を買ったの」
「いや、新しい水着を買ったのはいいんだよ。そうじゃ無くて俺が言ってるのは何でそれをここで着ているのかって事だよ!!」
「それは…………」
凛先輩は頬を少し赤く染めてもじもじしながら口ごもっている。
「それは?」
「新しい水着の着ている姿を徹君に一番最初に見せたかったから」
本当にこの人はどうしてこうも学校と家とでイメージが違うんだろう。確かに、姉弟として早く馴染んで欲しくて頑張ってくれているのは分かるんだけど流石にこれはね。
「あのさ、水着は似合ってていいと思うんだけど、世間一般的に弟に水着を見せるために玄関で待っている姉は殆どいないと思うよ。それに何より凛先輩も恥ずかしいだろう!」
「ん? 私は恥かしくなんて無いわよ。なんなら、この水着を取ろうか?」
そう言って水着の紐に手を掛ける。
「いや! しなくていい!」
俺は慌てて制止して思った。
前言撤回! この人はただ脱ぎたいだけだ!
「とりあえず、早く服を着てきてご飯にしてよ」
「そうね。分かったわ」
その日の夕食は和風メニューだった。とり五目の炊き込みご飯、アサリの味噌汁、カレイの煮付け、肉じゃがとどれもものすごく美味しくて凛先輩が本当に料理が上手なんだと再認識してしまうと同時にさっきの昌の言葉が脳裏に浮かんでくる。
(白石先輩には気をつけろ!)
「えーと、ちょっと聞いていいかな?」
夕食が終わってクマさんの絵が描いてあるマグカップでお茶を飲んでいる凛先輩に話しかけた。
「えっ? 何?」
「もしも……、もしもだよ。俺と凛先輩が意見の違いから対立することになったらどうする?」
凛先輩はお茶を飲む手を止めて不思議そうな顔で俺を見ながら答えた。
「そうね……、互いに納得出来るまでとことんぶつかり合うかな」
「でも、ぶつかり合っている間ってしんどくない?」
「うん。そうなんだけど、そうしないと分かり合えないじゃない。私と徹君は自分自身の意思を持っているわけだし、それが常に同一なものとも限らない、ましてや、人の心を力によって強制的に従わせるなんて事は不可能だと思うから。でも、これって、私たちの間だけじゃ無くて親子、兄弟、友達、恋人とかの場合も同じだと思うんだけどね」
凛先輩の真面目な表情と気負いのない言葉使いに俺も心を落ち着かせて考えることができる。
とことんぶつかり合うか……そうだよな……いくら表面上は納得した顔をしていても心が納得していないとずっとわだかまりを残したままになって、それが積み重なっていつか爆発してしまうんだろうから……。
「分かったよ! でも、そんな時が来たら俺は凛先輩に容赦無くぶつかっていくから!」
そんな俺の言葉に凛先輩はいっそう不思議そうに笑いながら聞いてきた。
「どうしたの? 急にこんな事言うなんて?」
「ううん。なんでもない」
テーブルの向かい側でしきりに小首を傾げている凛先輩を見ながら俺は思った。
昌の言った事は合っているかもしれないし間違っているかもしれない。でも、凛先輩が考えも無しで岡田生徒会長に従うとはとても思えない。もし、凛先輩がそうしているとするなら、しなければならない理由があっての事だろう。
その時が来るならば、さっき話したみたいに俺は正々堂々と凛先輩にぶつかっていけばいいんだ。




