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そして放課後になった今も授業が終わった瞬間に教室を飛び出して行って居ない。
昌がいない以外はいつもと変わらない放課後の光景かと思いきや、珍しいことに徳井を取り囲む輪が出来ていない。
徳井の奴、今日は早く帰ったのか。女の子たちさぞかしがっかりしただろうなあ。
さらに見渡すともう一ついつもと違う光景があった。
「あれ? 真美ちゃん、ひとりなの? 今日子は?」
俺はひとりで帰りじたくをしている真美ちゃんに声をかけた。
「そうなんですぅ。今日子ちゃんは用事があるみたいなので今日はひとりで下校ですぅ。ぐすん」
焼きたてのプチクッキーの様なほんわかした顔に、口に入れると一瞬で溶けてしまうチョコの様な甘い声の話し方は非常にマッチしてかわいいんだけど、ぐすんは要らないよね、真美ちゃん。
「あはは……そうなんだ。俺も昌がちょっと用事でいないんでひとりなんだ。いっしょだね」
その言葉を聞いた真美ちゃんは寂しそうにうつむき加減にしていた顔を上げて、少し頬を赤らめながら俺に近づいてきた。
「え~っとぉ、あの~ぉ、あの~ぉ……」
「はい?」
真美ちゃんはいったん目をぎゅっとつむり、意を決した様に大きく見開いた。
「わ、わ、わたしといっしょに……帰ってくれまへっ…………」
えっ? 真美ちゃん、今、噛んだの?
真美ちゃんは赤らめていた顔をゆで上がった様に真っ赤にして慌てて言い直す。
「いっしょに帰ってくれませんかぁ!」
「うん。いいよ。俺も真美ちゃんに話しがあったんだ」
「本当ですかぁ? じゃあ急いで用意しますぅ」
そう言って鞄の中に教科書や筆記用具を入れていく。真美ちゃんは慌てていたせいか、鞄に入れようと手にした物を落とし拾い上げて鞄に入れるということが何度かあって俺たちが学校を出たのは授業が終わって三十分以上たってからだった。
「すみません。わたしがトロいせいで遅くなっちゃいましたぁ」
俺の横で鞄を両手で抱えながら歩いている真美ちゃんは申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。
「気にしないで、急いでいる訳じゃないし、俺もどちらかって言ったらのんびりしているタイプだから」
微笑みながら言った言葉に真美ちゃんは少し恥じらった表情で答えた。
「羽多野くんはいつも優しいですねぇ」
「そう?」
「そうですよぉ。中学二年生の夏休みの事、憶えてますぅ?」
えーっと、中二の夏休みって言ったら……。
あぁ、あの時の事か。




