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"生徒会長岡田の 不正を暴け"
「その岡田生徒会長なんだけど、何か不正を行なっているって事はないかな」
「えっ?何の事?」
凛先輩は不思議そうに俺に聞き返した。
「生徒会室でパソコンを………………」
俺は生徒会室で起きた不可思議な事柄を凛先輩に話した。
「"生徒会長岡田の不正を暴け"か」
凛先輩は眉間にしわを寄せながら真剣な表情で考えている。
「俺も初めは見間違いかと思ったんだけど、どうも見間違いじゃ無かったみたいで」
「となると、誰がどんな方法で徹くんのパソコンにアクセスしたのか?」
「うん。それと俺がパソコンを使っているのを知っていて、俺にそのメッセージを読ませたくて送ったのか?」
「あとは岡田生徒会長が実際に不正を行なっているかどうかね?」
凛先輩はテーブルの上の皿を片付けて二人の前に置かれたマグカップにコーヒーを注ぎながら続けた。
「まずは誰がって事ね。私が知る限りだと生徒会役員の中に岡田生徒会長に対抗しようとする人はいないと思うのだけど」
「岡田生徒会長に不平不満を持っている人もいないの?」
「いいえ、いるとは思うけど、圧倒的な人気とカリスマがある彼に逆らうと今後の学園生活に影響を及ぼしかねないので言いなりになっているんじゃないかしら」
「だとすると、外部の人間か……。凛先輩、生徒会室のパソコンに学園の外部からアクセスすることって可能なのかな?」
「無理ね。学園内にある全てのパソコンは学園のホストコンピュータが管理しているの。外部の人間がアクセスするためには、ホストコンピュータのパスコードを持っていることと生徒会室のパソコンにアクセス権限を持っていることの二つが必要になるの。その二つを持ち合わせているとなると学園内の人間、それも限られた人物ってことになるのよね」
凛先輩は相変わらずインスタントコーヒーをちびちびと飲みながら話している。その光景を見てて俺はふとあることに気づいて凛先輩に聞いてみた。
「凛先輩、もしかしてコーヒー苦手なの?」
「な、な、な、何言ってるの! 大好きよ!」
凛先輩は明らかに動揺している。
「だって、いつもちびちび飲んでいるじゃない」
「ちびちびなんて飲んでないわよ! 何よこんなもの!」
マグカップを手に一気にコーヒーを飲み干した。
「うっ!」
顔色がたちまち青ざめていく。
「う、うっ、さ、砂糖! 砂糖!」
凛先輩は小さいスプーンで砂糖をすくい口の中に入れる。
「んんっ」
スプーンを咥えながら幸せそうな顔をしている凛先輩を見て俺は笑いをこらえながら言った。
「なんでブラックのコーヒーが好きだなんて言ったんだよ」
「だって、なんか大人って感じでかっこいいじゃない?」
凛先輩はまだ口にスプーンを持ったまま恥ずかしそうに視線を横にそらしもごもご話している。
「で、本当に好きな飲み物は?」
「えっと……ココア……かな……」
「ったく、今入れ直すから」
俺は凛先輩のマグカップを持ってココアを作りにキッチンの方に移った。
「さっきの話の続きだけどメッセージを送ってきた人って、俺だってことを知っていて送ったと思う?」
「うーん、微妙なところなのよね」
「どういうこと?」
淹れたてのココアを凛先輩に手渡して僕は向かいの席に座った。凛先輩は両手でマグカップを持ちカップのふちに桜色のこじんまりして形の整った唇をつけてこくりと一口ココアを飲んで満面の笑みを浮かべている。
「私は徹くんに生徒会室でパソコンの打ち込み作業を手伝ってもらうことを誰にも話して無いの。だから徹くんに意図してメッセージを送ったとかどうかは…………」
「それじゃあ、あのメッセージは生徒会役員の誰かに読んでもらいたかったのを偶然俺が読んでしまったって事になるのかな?」
「んー、そこが微妙だって思う由縁なのよね。生徒会役員の誰かがメッセージを読んだとしても現状それに応えれる人は存在しないと思うし、最悪そのメッセージ自体が岡田生徒会長の手に渡った場合、送り主のあぶり出しが始まるかもしれない。そんなリスクのある事をメッセージを送った人物がするとは思えない」
「そう考えると生徒会室のパソコンにアクセスできて僕があの時間にあの場所にいてパソコンを見ている事を知っている人物って考えるのが一番可能性が高いって事になるのかな?」
「そうなるわね」
「いったい誰なんだろう?」
俺はマグカップに残っているコーヒーを一気に飲み干した。
「凛先輩、もう一つの疑問なんだけど、岡田生徒会長は本当に不正をしているの?」
「うーん、それも曖昧なのよね。私も噂話でしか聞いたことが無いから真実かどうかは……」
「どんな噂なの?」
「去年のミスコンで岡田生徒会長が何か不正な事をやっていたっていう噂なんだけど、実際に何をやっていたかはわからないわ」
「ミスコンか……そういえば、今年のミスコンももうすぐだよね」
「そうね。はぁ~、ミスコンか……イヤな思い出しかないわね」
「どうして? 優勝したんじゃないの?」
「それなのよね……ね、徹くん、私ってミスコンで優勝できる顔だちだと思う?」
凛先輩は俺に顔を近づけてくる。
真っ白な肌に猫のように少しつり上がった目、まん丸で大きい瞳、絶妙な曲線を描く鼻すじ、初々しい苺のような小さな唇、どこからどう見たって美人だと思う。
俺は近づいてきた顔に照れながら言った。
「学園のみんなが綺麗だって言っているじゃない」
「でも、それって私がミスコンで優勝したからでしょう。……胸なんて大きく無いし…………」
凛先輩は自分の胸を見てつぶやく。
わーっ! やっぱり気にしていたんだ!
「え、えーと、大丈夫だと思うよ。これから大きくなるよ」
なにが大丈夫なのか自分でもわからないけどとりあえずフォローしてみた。
「そうだったらいいのだけど……」
「で、話しを戻して岡田先輩の不正の件だけど、僕の親友の昌に聞いてみようと思うんだ。彼なら何か情報を持っているかもしれないしね」
「昌くんって、木崎昌くんのこと?」
俺は凛先輩の口から自分の親友のフルネームが出たことに驚いた。
「えっ! 凛先輩、昌のこと知っているの?」
「そうね。でも、知っているって言っても岡田生徒会長が要注意人物としてのチェックリストに名前が入っていたくらいで詳しくは知らないわ」
「要注意人物のチェックリストって?」
「岡田生徒会長が言うには生徒会にとって不利益をもたらす可能性がある人物をリストアップしたものだそうよ」
へーっ、あの昌がね……生徒会に不利益をね……
俺の不思議で納得いかなそうな顔を見て凛先輩は続けた。
「備考欄に情報収集能力と情報操作能力って書いてあったわよ」
「あぁ、それなら納得出来るかな。昌の情報収集能力はすごいから」
「そんなにすごいの?」
「うん。情報って色々なところから入ってくるじゃない? 学園の事だとウワサとか、ラインとか、サイトとか、その中には真実もあれば嘘もある。昌はその情報を検証して真実、嘘、グレー、というふうに分けているんだよ」
「情報操作能力っていうのは?」
「それはちょっとわからないけれど、明日、昌に聞いてみるよ。まぁとりあえず今日は色々あって疲れたからお風呂に入って寝ることにするよ」
「わかったわ」
「しっかし、昌のやつすごいなぁ、岡田生徒会長に一目置かれるなんて」
僕はそうつぶやきながらリビングから風呂場に向かった。
その後ろ姿を見ていた凛先輩が発した言葉は俺の耳に届かなかった。
「徹くん、あなたも要注意人物リストの一人なのよ」
「備考欄はかなめ」




