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俺の平穏な日常を壊すのは誰だ  作者: 土原和正
10/36

 ⑩

三 事件は降りかかってくるもの


 翌日

 いつもの様に授業が終わり、帰り支度をする者、部活に行く者、友達と話をする者、クラスのみんなが思い思いに放課後の時間を使っている時に、その声がクラスに響き渡った。

「羽多野徹くんはどこにいますか?」

 この声は…………

 俺は昨日感じたイヤな予感を思い出しつつ声のした教室の入り口の方に目をやると、やっぱりそこにはにこやかな笑顔をした凛先輩の姿があった。

 同じように凛先輩の姿を確認したクラスのみんなが徐々にどよめき始めた。

「白石先輩じゃないか」

「相変わらず綺麗だよなぁ」

「今、羽多野徹くんって言ったわよね」

「羽多野くんに何かようかな?」

「羽多野の奴何やらかしたんだ?」

 クラスのみんなのひそひそ声が聞こえてくる。そして、みんなの視線が徐々に俺のところに集まってくる。そんな中俺を見つけた凛先輩は俺のところに来て腕を取り

「いっしょに来てちょうだい」

 と言って俺を引きずるように教室の外に連れ出した。

「ちょ、ちょっと待って! 何なんだよ! いったい?」

 俺の言葉を気にもせずに凛先輩は俺の手を取ったまま、目的地であろう場所に向かって廊下をどんどん進んでいく。

「徹くん、昨日、放課後は暇だって言っていたわよね」

「言ったは言ったけど、放課後に俺のクラスに来るなんて聞いて無いぞ!」

 廊下を凛先輩に手を引かれながら歩く俺の姿に回りの生徒から好奇な目が注がれる。

「ちょっと手伝ってもらいたい事があったのと、徹くんのクラスがどんな感じなのか興味もあったしね」

「興味って……凛先輩のクラスと変わらないよ!」

「いえ、違うわよ。各クラス別の生徒が居るのだから各クラスの雰囲気とか特色がね。で、姉としてはその中で徹くんがどういうふうに生活しているか見たかったのよ」

「そんなの見てどうするんだよ! って言うか本当に普通だから、出来れば何事も起こらずに平穏な日常を過ごしたいと思っているのに……みんなの注目の的になったじゃないか! こうして歩いてる今もみんなの視線が痛いし!!」

「あら、私は気にならないわよ」

「俺が気にするんだよ!」

 のん気な凛先輩の受け答えにかりかりしながら俺が言い返したところで、凛先輩が立ち止まった。

「ここよ」

「ここって…………」

 目の前の扉のプレートに生徒会室と書いてある。

「生徒会室?」

「そうよ。さあ入って」

 凛先輩は扉を開けて俺の背中に両手を当てて生徒会室の中に押し入れた。

 生徒会室の中は正面に机があってその後ろに大型のプロジェクター、正面を囲むようにして机がUの字に並べてあり、数台のノートパソコンと膨大な量のファイルが山積みになっている。その中で数人の生徒会役員が休む間もなく働いている。

 その正面の机にいた人物が俺の方に歩み寄ってきて声をかけてきた。

 生徒会長の岡田先輩である。

「ようこそ、羽多野君だったかな、我が生徒会室へ! 君が自ら進んで生徒会の雑務をしてくれようだなんて心から歓迎するよ」

 ライトブラウンの程よくウェーブした髪が両眼を薄っすら隠し色白の顔には満面の笑みが張り付いているのだが話す声は抑揚の無い心身が冷え込みそうなくらいに冷たい声だ。

 あれ? 岡田生徒会長ってこんな感じの人だったけ? 

 いつもみんなの前に立っている岡田生徒会長って柔和で温かみがあって、それでいて冷静かつ大胆なイメージしか無いんだけどなあ。

「生徒会長、彼に手伝ってもらってよろしいでしょうか?」

「白石くんが選んできたんだ。なんの問題があるでしょう?  僕は君の能力を高く評価しているのですよ」

 生徒会長は凛先輩の肩に手を置き耳元に顔を近づけ小声で続けた。

「ただし、僕の笑顔が消えない範囲でお願いしますよ」

 そう言って生徒会長は正面の机に戻った。

 その姿を刺すような目で睨んでいる凛先輩に恐る恐る話しかけてみる。

「えっと、俺はここで何をすれば……」

「あ、そ、そうね。とりあえず、ここに座って」

 凛先輩は気を取り直した笑顔で、俺をUの字に配列されている机の所にある席までつれていかれ座らされる。目の前にはワードの画面が開かれているノートパソコンが置いてある。そこに凛先輩が30センチの厚さはあるであろうファイルをノートパソコンの横に置いた。

「えーと凛先輩、これはいったい何でしょうか?」

 だいたいの想像はついているのだが、あえて聞いてみた。

「当然、このファイルをパソコンに打ち込む作業よ」

「帰らせていただきます!」

「ちょっと待ちなさい」

 凛先輩は俺の肩を上から押さえて椅子から立ち上がれ無いようにして小声で言った。

「私が姉であることをみんなに言っていいのかしら?」

天使の微笑みをたたえて悪魔の一言を俺に囁いた。

「わ、分かったよ! やればいいんだろ!」

 俺は仕方なく分厚いファイルを開きノートパソコンに向かう。ファイルに書いてある文字をパソコンに落としていくという単純作業だ。初めはたどたどしくキーボードを叩いていたが慣れてくると少しづつ速くなってくる。そうなると少し周りの様子を伺える余裕も出てきて辺りを見回してみるのだが、これが全く面白くもない。

 生徒会室は役員どうしの会話も無く、静寂の中パソコンのキーを叩く音だけが辺りに響いているだけなのだ。

 俺が再び集中してパソコンの入力作業を始めてしばらくした時、ノートパソコンの画面に異変が生じた。

ん? 何だ?

生徒会議事録の打ち込みを終えた所だったのだが、その中の幾つかの文字が点滅しているように見えるのだ。

 俺は点滅している文字を目で追ってみる。

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