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変化

私の予言は少なからず当たっていたようだった。


あの日から数日経ち、昼食の時は一緒だったり一緒じゃなかったりまちまちだったけれど、帰る時は完全に別々になっていた。

別に前からめいは他のグループ、"そういうタイプの女子たち"とも交流があって、その人たちと一緒に帰ることも少なくなかったから、そこまで変わらない、といえば変わらないのだけれど。

とはいえやはり、一番変わったのは私だった。


めいは私の友人だ。

初めて出会ったのはこの高校に入った時、入学式のことだった。

地元から離れた高校を受験した為、同じクラスに知った顔は居なかった。

中学までに築いてきた友人関係をリセットして、また1から猫を被り直さなければならないのかと思うと気が引ける。1年生だからって新鮮味なんて1つもない。

高校なんて、大学へ行く為の、ただただ面倒な作業でしかない。そう思っていた。

そんな中で、私はめいと出会ったのだ。

「皆さんおはよう。今日はいよいよ入学式……ってあれ?1人休みかな…?」

「ふあぁ!!昨日そわそわして眠れなくて!!遅刻しちゃいましたぁ。すいません!!!」

前日の流れ確認の為の練習も終わり、無事に本番を迎えたその日、彼女は激しく息を切らしてガラガラと大きな音を立て、豪快に扉を開けて教室に入って来たのだった。

「初日から遅刻?まぁ休みじゃないので安心しました。早く座って。」

担任は想定内とでもいう様に、落ち着いた声でめいを諭したが、生徒たちはあまりにも突拍子の無い出来事に、めいを知っている者はもちろん、知らない者も声を出して笑っていた。

私は静かに苦笑いを浮かべていた。同時に、入学式前の緊張した空気を一瞬のうちに和らげた彼女の行動に、少なからず私は驚いてもいた。

「はぁーい……。」

入学式に間に合ってほっとしたのか気が抜けたような返事をした彼女は、予想した通り私の前の席へ座った。そして後ろを振り返り、

「うしろさんよろしく!私座高高いから前見にくいだろうけど我慢してね!」

小声で呟いて、私が目を丸くしているのも気にせず担任の話へと耳を傾けたのだった。

予想出来なかったその一言に、私は小さく笑ってしまった。

第一印象、「変な奴」

だけど今までに会ったことのないそのキャラクターに、珍しく私は興味を持っていた。

それが彼女の持って生まれた才能だと後々になって気付くのだが、その時の私には不思議でならなかった。


こんな私と一緒にいてくれる誰かに優劣なんてとてもつけられたもんじゃないんだけれど、だけどめいは他のみんなとは違った。なんというか、一緒に居て気が楽だった。

ふざけたことも言えるし、少し位なら悩みも話したりしていた。

ほんの少し。

だけどその少しは、私にとっては大きな少しで、私が彼女を信頼しているという確かな証でもあった。

私は彼女が好きだった。

だからこそ余計に私は彼女が……。私が……。


「今日はどっちー?」

昼休憩が始まってすぐ、きあらは隣に居ためいに尋ねた。

「ん、わかんない。誘われてないから今日もこっちかなー?」

めいは曖昧な返事で答えた。

面倒臭いな。

そう思ったのはきっと、私だけ。

「そう?じゃあ外行こうか」

のんはいつものまとめ口調で言った。

展開早いよ。

いつも鈍感な私だが、何故かその時はこの後に起こることがなんとなくわかっていた。

ほら、ね。

私の視線はこっちを見る彼の姿を捕らえた。

「竹永見てるよ?食べたいんじゃないの?」

そして私はめいを見ずに無機質に言うのだった。

いつもと同じ様に。

「え、嘘ー。勘違いだよー。だったら誘ってくるじゃん?ていうか面倒臭い。今日はこっちで食べるって決めたし。」

どうやらそれは本音の様だった。

というか、さばさばとして飾らない性格故に顔の広い彼女にとって、それが本音でないはずがなかったのだ。私は誰にも気づかれない様に苦笑いを浮かべた。

「じゃあ早く食べに行こうよー。場所なくなっちゃう。」

相当お腹がすいているのか単に何も考えていないのか、きあらは能天気に言ってのけた。

私は苦笑いを隠す様にきあらを笑った。

「きあらが腹減りすぎて死にそうだってさ。」

「な、そんなこと言ってないしー。それはめいの方だよー。」

「うん!私死にそう!早く食べに行こうよ!!」

「めいは相変わらずだねー。じゃ、行こうか。」

私たちはそれぞれのポジションに合ったそれぞれの発言をし、移動を開始した。

教室を出る際に、後ろで"そういうタイプの女子たち"と弁当を広げる竹永を細めた目でちらっと見たことは、誰にも気づかれなかった。

そんな感じの日常が、あれから続いている。

一見したら何も変わらない。いつもと同じ、平凡な毎日。

だけどそれぞれの心の中でそれぞれの気持ちが微妙に変わっていっているのは確かだった。

そしてそれを起こしているは一つの小さな出来事と、私の狭い器であることも、それぞれはなんとなく理解していた。


「ごめんね、みんな」

その日の一人で下校する道の途中で、私は心の中で謝った。


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