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はじまり

別にわかってるんだ。

私は影の部分だってことくらい。

誰よりも秀でた才能があるわけでもないし、それを超えるような努力をすることもない。

なんなら少しでも楽な道をと言って怠ける方法を探している程だ。

適当に勉強して、適当に愛想振りまいて、家族とは碌に会話もしない。

社交性なんてない。友達は決して多くない。

親友と思われているだろう相手も、きっと居ない。


わかってるんだ。

私は影の部分だってことくらい。

それでも学校の教師からは「真面目」で通っているらしい。

そんな話を聞くと、なんだかんだ言っても生きていくのは簡単だな、というか、私とは違って一生懸命頑張ってる人が可哀想っていうか。

やっぱりこんな自分が惨めになるっていうか……。


私の立ち位置を物語で例えるなら、完全に脇役なんだ。

あぁ、でも「主人公の幼馴染」とかいう地味に人気を得るような格好良い脇役とかではなくて。

もっと地味で意地悪くて、「こんな奴実際いねーよ」とかネタにしえ笑う様な「女子生徒B」みたいな立ち位置なんだ。


よく、駅に貼ってあるポスターなんかに「あなたの人生を決めるのはあなたです」とか、「この世界の主役は自分」なんていうもっともらしいキャッチコピーを見たりするけれど、それに感銘を受けてる時点で第三者に人生を決められているし、主役に諭されていることになりうるんじゃないか、なんて皮肉めいたことを思ってみたり。

まぁ簡単に言うと、「面倒臭い」人間なんだ、私は。


きっと私と同じ様な考え方をする人達に囲まれて育ってきたなら、こんなことを思ったりすることもなかったんだろうけれど、まぁ当然の如く私みたいな考え方をする人がごろごろ居るわけもなく、そうして私は今こうやって公園のブランコに腰掛け、無数の星を眺めているわけなのだ。

「別に彼氏が欲しいわけじゃないんだけどなぁ……。」

私はブランコに座って足を曲げ、体育座りの様に手を組んで、下を向いて呟いた。


それは今日の昼のことだった。


私はいつも同じクラスの友人3人と行動していた。

毎日他愛もない話をして、一緒にお弁当を食べて、それでも悩み事を話すことなどない。

そんな中途半端な間柄の友人だったが、気疲れしないその3人のことが、私は結構好きなのだった。

だってほら、私みたいに汚くないから。なんて。

そしてそんな今日の昼のことだった。


「あー腹減ったー。早く飯ー!!」

私はいつもより大袈裟に騒いだ。遅刻しかけて朝食を食べ損ねたからだった。

「んじゃ行きますか。」

私含め4人の中で一番のしっかり者ののんはランチバックを取り出しながら言った。

「やっと暖かくなったから久しぶりに外もいいよねー。」

きあらはいつものおっとり口調で相変わらず眠そうに聞こえる。

「そうだね。早く行かないと場所なくなっちゃうよ!」

いつも調子乗りなめいは誰よりも声が大きい。本来なら今日の私のセリフもめいの物だった。


私たちはそれぞれ弁当と飲み物を持ち、外へ出ようと立ち上がった。

その時。

「おい、追坂」

呼ばれたのはめいだった。

「ん?あぁ、竹永、どしたの?」

呼んだのは竹永。

私たちの様なクラスで大人しい、所謂目立たない組にも気さくに話しかけてくれる男子生徒だった。

めいはその調子乗りな性格と社交性故に、私たちの中では珍しく男子や、"そういうタイプの女子"とも多くの交流がある奴だった。

その癖スポーツ万能で音楽や美術といった芸術の才能も長けていて、到底敵わない程の天才だった。

それを例の如くひけらかしたりもしないもんだから、皆から人気がある。

「あぁ、無理にとは言わないんだけどさ。昼飯一緒に食わないかって、あいつらたちが……。」

竹永は後ろを指差しながらもごもごと言った。

私たちが間抜けな顔でその指の先を見ると、4,5人の男女が4つの机を向かい合わせにして弁当を広げ話をしていた。

女子の方は茶髪や極端に短いスカートといった、所謂"そういうタイプの女子"たちで、それ故に男子達はおとなしく見えた。

あぁ、そうか……。

「え、私のん達と飯食い行くんだけど。」

めいはあからさまな態度で眉をひそめて竹永に言った。

そして私たちの方を見る。その表情がいつものめいの反応ではないことは鈍感な私も薄々わかっていた。

「行ってくればいいじゃん。」

私は至って平然を装って、めいを見ずに言った。

その無機質な一言で、空気が冷たくなるだろうことくらい私は知っていた。

めいは戸惑っている様だった。

「そうだよー。せっかくのお誘いだし。私たちとはいっつも食べてるしー。」

その空気を和らげたのはおっとり口調のきあらだった。

「うんうん。人の誘い断るのって良くないよ!はい行った行った!」

しっかり者ののんの付け加えでそれはさらに和らいだ。

2人の言葉に納得したのかめいは軽く頷いて、

「皆がそんなに言うなら……食べてくるよー。」

まぬけな抑揚で言い、めいはランチバックを持って竹永と後方へ移動して行った。

「いってらっさ~い。」

「またねー。」

きあらとのんは2人の後姿に向かって笑顔で手を振る。

私も手を振って送ったが、声は掛けなかった。

そんな感じで、今日の昼食は3人だったのだ。


「心狭すぎだよなぁ。元々大した仲じゃないしって感じかな、向こうからしたら」

右足を伸ばしたり曲げたりしてブランコを揺らしながら、私はまた呟いた。

春も半ばだというのに、今日はやけに寒い気がした。

学校帰りに見た夕焼けが妙に胸を締め付けたのも、その寒さ故だったのだろうか。


午後の授業も無事に終わって、その日の放課後はやってきた。

いつも連れ立っている私たち4人は、下校時もまた同じだった。

帰る方向はきあらとのんが大体同じなだけで、私はほとんど学校を出るまでしか一緒に居ない程だった。

一人で帰るのはやっぱり楽しくないんだ。

だけど一人で帰ることも大事だと思うんだ。私の場合は。

肩の荷が降りるっていうか、やっと素になれるっていうか。

岐路につくまでに1日を振り返る時間が、私には必要だった。

だから、「少しだけ一緒に帰る」というこの4人での下校が、私は好きだった。

とはいえ、いつも4人で帰っているわけではない。なんとなく集まって、なんとなくで帰っていた。

だから場合によっては2人だったり、1人で帰ることもあった。


そんな放課後。


「はぁー疲れたねー。早く夏休みこないかなー。」

「まだ1学期始ったばっかりだよ?我慢しなって。」

きあらとのんがいつもの様に他愛ない話をしている中で、1人が欠けていた。

昼食を共にしなかっためいだった。

今日は塾だったっけ。何の気なしに思いながらふと後ろを振り返って、私の目は捉えた。

めいが教室を出る姿を。その隣には、今日の昼話しかけてきた竹永が居た。

あぁ、そういや同じ塾だとか言ってたっけ。

一緒に行くんだろうな、私はそう思ってそれ以上の想定しうる事柄について考えるのをやめて、きあらとのんの会話に混ざることにした。

2人を眺めながら感じた左胸の小さな痛みは、気のせいにして忘れた。

めいが帰って数分くらい経って、私たちはやっと学校を出たのだった。

そしてその後、私はめいたちとは別の塾が終わった後にコンビニに寄って夜食を買い、家へ帰る途中の公園で寄り道をすることにした。

これが、今日の出来事。


間違いなくこれから私たちを取り巻く環境は変わる。そう思った。

少なくとも私は。

「もっと性格が悪くなる、かぁ……。面倒だなぁ……。」

今日のあの2人の様子を見て何だか嫌な胸騒ぎがしたのだが、そんなの鈍感な私のことだ。ただの下らない勘違いなんだろう。

なんて思いながら、ブランコから空を見上げた。

明日は雨が降るのか、半月でも三日月でもない中途半端な形の月は消えたり現れたりしていた。

風が強い。それもまた寒さの原因なんだろう。

寒空の中に居ていい加減風邪を引きそうだったので、私はゆっくり立ち上がり、赤い自転車にそっと跨った。

「本格的に敵わなくなってきたね。あんたは空なの……?」

今にも消えそうな弱々しい月を見上げて、そんな恥ずかしい疑問を問いかけてみたけれど、呼応する声など当然あるわけもなく、私は変に不快な気持ちになってそのまま自転車を漕いで家へと急いだ。


私に関わった人間は最悪なんだろうなぁ。

めいにはこれからたくさん迷惑をかけるんだろうなぁ。

予想出来過ぎるこれからの私の行動に、私は私が嫌になった。

だから最初に言っておくよ。

「ごめんね」


その日は寒くて、あまり眠れなかった。


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