両親
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
数分後、そんなに長い時間では無かったようだが、彼等はようやく我にかえってくれた。
ハッと目を見開いたあと、わたしを見つめ、そして反らしなにか遠い目をしていた。
謎な行動だ。
「それで?どうなのおじ様。うちのねえ様はなかなかの美人よ?スタイルもいいし性格も明るくて楽しいわ!スッゴクおすすめなんだけど…。」
「あ、ああ、いや、すまないね。もう決めた相手がいるんだ。いや!別にやましいことをしに来たのではなく、ただ会いに来たというか、話をしに来たと言うか…。」
急にしどろもどろになるおじ様に首を傾げる。
「ここは女を買いにくる娼館よ?女を抱かないで話すだけなんて、おじ様変わってるね。」
その言葉にまたもやショックをうけたような顔をしたが先程のように固まることはなく、無理矢理に笑顔を作ったような顔になり「はは、そうかな?」といっている。
「それで?馴染みの娼婦は誰?おじ様みたいな上客を虜にさせている娼婦に興味があるの。」
こんな上客がいる娼婦がいれば噂になっていそうなものなのにそういうのは一切聞いたことがない。
いったいどこの娼婦だろうと考えているとおじ様は苦笑しながらも答えてくれた。
「そういえば君も薔薇園だと言っていたね。君のねえ様には申し訳ないが、レイヤという娼婦はまだいるかい?もしかしたらもう誰かと結婚してしまったかな?」
おじ様のその言葉にわたしの顔は見るからに輝いたことだろう。おじ様はわたしのそんな様子に不思議そうに首を傾げているがわたしとしてはさすが母様!と声をあげたい気分だ。
こんな気品あるおじ様に贔屓にされているなんて、ほかの娼婦とは格が違うわ!
そんな母の娘であるわたしもとても誇らしい。
「いるわ!いるいる!薔薇園一の娼婦よ!」
心底嬉しそうに答えたわたしにおじ様も母様がまだいることに嬉しそうに笑った。
「そうか、まだいるのか。それにしても君はまるで自分のことのように喜ぶんだね。そんなにレイヤのことが好きなのかな?」
「もちろんよ!だってわたしの母様だもの!」
そう声高々にわたしが言えばおじ様は茶色い瞳を大きく見開いた。
そしてそのあと「え?」と 小さく声を漏らす。
そのおじ様の後ろの人も眉間に深いシワをよせてじっとわたしの顔を凝視している。
そんなふたりの様子に何か悪いことを言ってしまったのかと怖くなり今までの興奮が冷めていく。
男ふたりしてわたしを凝視しているからそわそわしてしまうのも仕方がない。
なに?なに?なんなの?わたしが母様の娘だとだめ?そりゃ、似てないけど…。
何も言われていないのに思考は嫌な方向へとむいてしまい、勝手に落ち込み始めた。
視線も足元に落ちる。
「ロゼ…といったかな?君、歳はいくつだい?」
「11歳よ」
「お父上はどんな人なんだい?」
「知らない。どうせ母様の客の一人だとは思うけど。母様が言うにはわたしは父親に似ているらしいけど。」
この髪の毛とかね…と自分の髪を引っ張るとおじ様まで顔をしかめてしまった。
いったいなんだというんだ。
「11歳…もしあの時ならそのくらいか、いやしかし…そんなはずは…。だが、言われてみれば髪も…。」
しまいには顎に手をやり、ぶつぶつとひとりで何かつぶやいている。何それ怖い。
わたしはどうすればいいのだろう。
どうすることもできず立ちつくしていれば、そのおじ様はパッと顔をあげた。
「すまないがロゼ、レイヤのところへ私をつれていってはくれないか。」
「え…でも…。」
ねえ様の客引きをしないと…。
そう思っているとおじ様は心得ているとばかりに頷く。
「それならばこのギルバードをよこそう。もちろんお金はしっかり払うよ。」
「え?」
「は?」
パッと顔をあげたわたしの視界には、まさか自分が名指しされるとは思わなかったのだろう。目をすごい見開いている護衛のひとがいる。
まじかよ…とおじ様をみているその人は、何かを言おうとしたが、チラリとわたしをみてため息をつく。
「旦那様…」
「ギルバードわかるだろう?頼むよ。」
「……はい。」
護衛の人は仕方なしといったように頷く。
「さあ、これで問題ないだろう?ロゼ、つれていってくれるかな?」
ここまで言われてしまうと、わたしとしてもうなずかざるおえない。目付きが悪くて怖いが、貴族の護衛をしているんだからそれなりにねえ様にはいい客だろう。
特に問題ない。うん。
そしてつれてきた薔薇園。
ギルバードとかいう護衛のひとはねえ様の部屋へと押し込み、おじ様は母様のもとへ。
といっても、母様は売れっ子。その時はもちろん他の客を相手していたのでおじ様を連れていくわけにはいかない。
今日の仕事がおわるまでは無理だろうと思っていると、女将さんがおじ様の顔を見るなり目を輝かせて母様の部屋へと乗り込んでいった。
数分後にはまだ身ぐるみを半分しか来ていない男のひとが、女将さんに首根っこつかまれてペイっと捨てられた。
「さあさあどうぞ、お客様!レイヤはちょうどあきましたよ。」
「すまないね。」
あらためて金の亡者を目の当たりにしてしまった。
「それじゃあ、わたしはこれで。」
自分の役目は終わったので、わたしはねえ様の部屋の前へ待機すべくその場を去ろうとしていた。
だが、おじ様の「いや、ロゼもきてくれるかい?」という言葉に立ち止まる。
「え?わたしはねえ様のところに…。」
「ロゼ!いっといで!」
「えええ?」
訳がわからない。しかし女将さんの言葉に逆らうわけにもいかない。
にっこり微笑むおじ様に手をとられわたしは母様の部屋へと一緒に赴くことになった。
「まあ。女将さんが客をつまみ出したから何かと思ったら。ロゼ、こちらにいらっしゃい?」
部屋には、ベットの上で手ぐしで乱れた髪を整える母様がいた。
ノックしたあとに部屋に足を踏み入れたおじ様に手をひかれ、わたしが一緒に中にはいると、母様はおじ様ににこりと営業用の笑顔を向けたあとわたしを手招きした。
おじ様の前で母様に駆け寄ってもいいものかと少し戸惑いはしたものの、ちらりと見上げたおじ様が笑顔で手を離してくれたので、素直に母様のもとへいき隣に腰かける。
そうすると、おじ様はすぐ近くにあった椅子を私たちがすわるベットの前へと持ってきて腰かけた。
「レイヤあれから結構時間がたつというのに、君はかわらず綺麗だね。月日がたったのが嘘のようだよ。」
「まあ、ありがとう。女にとっては最高の誉め言葉よロナウド。」
体が痒くなるような言葉をさらりといってのけるおじ様もおじ様だが、それを当然のように受け流す母様も母様だ。
久々に再会したらしいふたりはそんな痒い会話を何度か交わしたが、おじ様がちらりとわたしをみたことによりその会話は一度打ち切られる。
隣で聞いているこっちが恥ずかしくなるような甘々な会話だったのでとても助かります。
「ところで、その…そこにいるロゼは君の子だと聞いたのだが…。」
戸惑うようにキョロキョロと視線を動かしながら切り出したおじ様だったが、母様は全くきにした様子はなく「ええ、そうよ?」と笑顔で答える。
その返答に、おじ様が意を決したように唾をごくりと飲み込み「私の勘違いだったらすまない」と前置きしてから恐る恐る切り出した。
「ロゼは、その、もしかしたら…あのときの?」
あのとき?いったいなんの話をしているんだろう。
母様に腕を絡めたまま成り行きを伺っていると母様は何でもないことのようにいった。
「みたらわかるじゃない、ロゼはあなたとの子よ。とてもそっくりでしょ?」
「…………」
え?




