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ダンという少年

 わたしの母、レイヤは売れっ子娼婦である。

 今年6歳になったわたしは、母が寝ている日中は女将さんに頼まれた備品の買い物や娼館の掃除などをして過ごす。これは、物心つくころからわたしより年長のねえ様がたのまねをしてやっている仕事で、わたしだけではなく、娼館に住む子供達はみんなやっている。


 大きくなるにつれて任される仕事も変わってくる。

 10歳になるころには娼婦のねえ様がたにつき、客へのお茶出しや、ベッドメイキングなどの部屋の清掃をしながら娼婦の仕事の内容をねえ様がたから勉強する。


 体の発達にもよるが12歳ごろにデビューする子が多い。


 まだ6歳の私の仕事は主にお香やろうそくなどの備品を買い付けに行くことだ。


 今日もいつも通り、細い廃れた路地裏にある薔薇園御用達の店へ買い出しに来ていたが、店から出た所でネズミが走り回る小汚い路地にしゃがみこんでいる少年と目が合う。



「ダン。なにやってんの?」


 褐色の肌に毛質の固そうな金髪をもつ少年、ダンは、わたしと目が合うとニヤリと尖った犬歯を見せて笑った。


「よー!ロゼ!お前待ってた!」


 やんちゃそうな見た目通り、よく悪さをしては女将やにい様がたに怒られているイメージの強いダンは私と同じく花街産まれだ。

 薔薇園ではなく、夢花ゆめはなという娼館の娼婦の子供で父親は恐らく異国の行商人だろう。

 花街でダンと同い年なのがわたしだけなので何かと関わる機会が多い、というよりダンがちょっかいをかけてくる、ていうのが正しいかな。



 今日の買い出しはここのお店で最後だったので、開店までにまだ時間に余裕がある。

 わざわざこんな小汚ないところで待っていてくれたんだし少しだけダンの相手をしてやるか、としゃがむダンの隣にお香などが入った籠を両手で抱え込んで立つ。

 すると、ダンもよいしょっと声を出して勢いよく立ち上がった。


「ダン仕事は?」


「今終わったとこ!んで、帰る途中ちょうどロゼがこの店向かうの見えたから待っててやった」


「なに?わたしになにか用事?」


 首を傾げてわたしとあまり身長のかわらないダンの顔を見れば、途端に不満そうに眉間にしわがよる。


「用事がなきゃまってちゃだめなのかよ?」


「べつにそういうわけじゃないよ。」



 そう返せば不満そうな顔から一変、すぐに先程の笑顔に戻った。



「なあ、ロゼ、まだ客とらねー?」


 その言葉にまたか、と今度はこちらが眉間にしわをよせる。このやりとりは、最近ダンと会うたびに交わされるのでうんざりだ。


「まだだよ。何回もいってるでしょ?薔薇園は12歳からだよって。」


「ロゼ今何歳?」


「6歳。なにいってるの、ダンと同じだし。」


「まだまだじゃん!」


「いつもそう言ってるじゃん!」



 まだねえ様方つきの見習いにもなっていないのに、ここ最近ダンはいつもわたしが客をとる日を知りたがる。

 よく考えてよ。わたしが今客をとれる体型か。

 そんなわけない。こんなつるぺたで幼児体型を買う客はただの変態だ。

 いや、そんな客もいないわけじゃないけど。

 12歳でもなかなかの犯罪臭がするというのに。


 これをダンに何度いってもいつも伝わらない。ねえ様がたは「ロゼは大人っぽいからダンは心配なのよ」と微笑ましそうに笑うがそんな微笑ましい内容はいっさいない。

 何故ならダンはそんなロマンチストなやつではないからだ。


「ロゼが客とりはじめたら俺にもやらせろよ!」


と意気揚々と言うのだから。





 娼婦の初めての相手になりたがる客は多い。

 そのためわたし達は女将さんにいつもどんな好いている相手でも客をとる前に体は傷物にするなと言い含められている。値段が下がるからだ。


 そもそも花街育ちのわたし達にとってはそれは当然のことだから何も疑問に思うことはない。

 同い年の女がわたししかいないため、普段ダンは、用心棒見習いの歳上のにい様がたとつるんでいる。

 おませな花街産まれのにい様がたがあそこの女はいい、あの女は性格が悪いと話す内容をダンも一緒になって聞いているらしい。


 そのせいで6歳児とは思えない発言を意味もわからずぶっこんでくる。


「わかってるよ!何回も言わなくてもちゃんと客をとるようになったらダンに言うから。」


「ほんとか?客以外にジャンやポレットとかに先にやらせるなよ!」


「うん、ダンが一番」


「よし!」


 ひとり満足そうに頷くダンは、薔薇園まで送ってってやるよ!とわたしの持ってた籠を引ったくる。


「いいよー、別に。」


 お香がクチャクチャになりそうだし。


「暇なんだよ相手しろ!」


 そういって籠の持っていない手でダンは私の手を握る。


 結局そのまま薔薇園までダンは送っていってくれたが、ちょうど起き出したねえ様がたに「あら、素敵なナイトね?ロゼ」と微笑ましそうにみられてしまった。

 だから、そんなロマンチストな奴ではないのだ。


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