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王位継承権第8位の王子

 アドニスお兄様経由で、我が家に招待状が届いたらしい。


 差出人は

「ハルト・リチャード・エドワルド・サウスエーデン」

 

 ちなみに我が国の名前はサウスエーデン王国。


 そしてサウスエーデン王国現国王のお名前はエドワルド・サウスエーデン様。王位継承権第一位の王太子様はリチャード・エドワルド・サウスエーデン様。

 ここまでくればわかるかもしれないけど、我が国の王族は、自分の父と祖父の名前が自分のミドルネームの中に入っているのだ。ただし、これはその本人が存命である場合限定の名前であり、父や祖父が亡くなってしまった場合、そのミドルネームは消えていく。


 そのため、王になるころには自分のミドルネームはなくなる。


 話はそれたが、我が家に届いた招待状。その差出人がハルト・リチャード・エドワルド・サウスエーデン。つまり、王の孫である。

 その招待状は、ハルト様18歳のお誕生日パーティーのお誘いだった。

 そんな王族のお誕生日パーティーの招待状が何故我が家に直接ではなく、アドニスお兄様経由で、届いたのか。


「アドニス兄様はハルト殿下の貴族院でのご学友であり、騎士団の同僚でもあるんだ。」


「王族なのに騎士団にいらっしゃるのですか?」


「王族といっても、現国王はまだまだ現役だし、ハルト王子のお父上や叔父上が2人、ハルト王子の兄上や叔父上のご子息など王族は男児に恵まれているからね。現在の継承権は8位と結構遠いんだ。今の立場的には他の貴族のご子息と変わらないよ。」


「そうなんですか…」


 アドニスお兄様とハルト殿下のことを疑問に思ったわたしに、笑顔で詳しく説明してくれるのはエルヴィスお兄様。

 現在わたしたちはその話題の種でもあるハルト殿下のお誕生日パーティーに向かうべく、しっかりと正装して馬車に乗っている。


 招待状の内容は、コーグリッシュ家当主およびにその家族に我が生誕パーティーに招待する。と言うもの。

 今わたしや母様のことでいろいろと貴族たちの間で噂をされているらしいコーグリッシュ家は、この噂が持ち上がって以来、はじめての社交界であるらしい。

 そのため、興味津々なご婦人たちにわざわとさらされに行くわけなのだが、納得がいかないが母様はここに同席はしていない。お留守番だ。


 本人はすごくすごくすごーく行きたがっていたけれど、さすがにメリッサ様と母様ふたりをはべらかせて王族主催のパーティーに参加するわけには行かない。

 つまり、パーティーに向かうのは、お父様、メリッサ様、アドニスお兄様、エルヴィスお兄様、ルシアン、そしてわたしである。


 しかし、アドニスお兄様は城のすぐ隣にある騎士寮に住んでいるので、現地集合だ。

 コーグリッシュ家の馬車は2台で、1台目にメリッサ様とお父様が、そして2台目にわたしとエルヴィスお兄様、ルシアンが乗っているのだが、ふたりとも普段からぴしりとした貴族っぽい格好をしているというのに、今日はさらにぴっしりと、そしてなにやらきらびやかな服装だ。

 そういうわたしもさらに重たいドレスで頭にもピラピラしたものをつけられている。動きづらいったらない。



「ローゼマリーは初めての社交界だね。緊張してる?」


 にこにこと優しげな顔で話しかけてくれるエルヴィスお兄様は、どうにかしてわたしの緊張を和らげようとしてくれているらしい。


「もちろんです!よりにもよって、初めての社交界が王族の生誕パーティーだなんて…。」


「心配しなくても変なやつらはアドニス兄様がすぐに追い払ってくれるよ。」


 楽しげにそういうエルヴィスお兄様だが、変なやつらの心配なんてこれっぽっちもしていない。

 わたしが心配してるのは、自分が粗相をしないかどうかだ。


「王族の生誕パーティーだと言うのに、王族の情報も知らないやつが参加するだなんて。そんな恥知らずがコーグリッシュ家のものだと知られれば我が家の価値が下がる。」


「ルシアン、お前はまたそんなことを。ローゼマリーはこんな短期間でこんなにも淑女らしくなったんだ。その努力を認めてあげないと。」


「淑女以前に僕はこいつのことをまだ認めてなんていない。それにダンスのレッスンに付き合わされたあげくに足を数えきれないほど踏まれたこともまだ忘れていないぞ。」



 相変わらずわたしの前では不機嫌顔のルシアンは、今まで楽しくエルヴィスお兄様とおしゃべりしていたわたしたちの会話をぶったぎった。


 パーティーと言うだけあって、やはり貴族のパーティーにはダンスはつきものだ。ステップ自体はメヒュー夫人に習っていたのでなんとなく覚えてはいたが、なんたって踊る相手が居ないから本格的なダンスもしたことがなかった。

 

 そんなわけで、王族主催のパーティーで侯爵家の令嬢がダンスを踊れないわけにはいかないと駆り出されたのがルシアンだった。


 年齢も同い年で、身長のバランスもいい。


「なんで僕がこいつと踊らなきゃいけないんだ。」


 そう忌々しそうに言われたけれど、メヒュー夫人の「コーグリッシュ家に対して文句を言われないためですよ!それに、ルシアン様もダンスの経験をつまなくては!」とテンション高く意見されれば、否とは言えなかったらしい。

 渋々ながら付き合ってくれた。


 足を低めのヒールで踏んだのは全てがわざとではない。だがもちろん故意もある。


「まあ。まだ根にもってらっしゃるの?…なんて器のちいさいかたなのかしら。おほほ」


 今日のためにメリッサ様がお古の羽でできた扇子をくれたのだ。ふわふわとするそれを口許を隠すようにして広げれば、淑女の出来上がりだ。

 しかし、まだ手のちいさいわたしには少し大きいけれど。



「エルヴィス兄様!僕だけじゃなくて失礼な発言をするこいつにも注意すべきだ!」


「ルシアン、そもそもお前がローゼマリーに喧嘩を売るから言い返されるんだよ?」


「な!に、にい様たちはこいつに甘いと思います!」


「はぁ、全く困った弟だね。」


 エルヴィスおお兄様は大きくため息をついてやれやれと頭をふる。

 3兄弟のなかで、長男のアドニスお兄様を差し置いて一番のしっかりもののエルヴィスお兄様は、自由人で大雑把な兄と、わがままで高慢な弟に挟まれて苦労がたえない。おいたわしや。


 わたしは出来るかぎり迷惑をかけないようにしよう。


 ルシアンとの喧嘩?それはあっちが仕掛けてきたことだから別よべつ。


 馬車のなかはときどき口喧嘩とにらみ合いをするわたしとルシアンと、それをなだめるエルヴィスお兄様とでなかなかに賑やかなな環境だったのではないだろうか。

 なんたって、気がつけば初めて目にする白亜のお城に到着していたのだから。






うわーうわーうわー!

お城ってこんなにおっきいんだーうわー!



 コーグリッシュ家を目にしたときもあまりのお屋敷の広さにびっくりしたけれど、お城はもうそれどころではなかった。

 白を基調とした建物のまわりには頑丈で高い門。さらにその門を馬車でくぐってもまだまだお城本体には遠い。


 馬車のなかから謎なモニュメントや噴水、木々を眺めながら移動して、ようやくお城の入口近くへ到着する。ここまで来るのに長かった。なんてったって、途中からここに招待された貴族たちの馬車が並ぶ並ぶ。優雅に馬車から降りるお貴族様たちのおかげでなかなか馬車が進まない。


 エルヴィスお兄様にエスコートされて馬車から淑女らしく降りれば、そこはもう貴族の世界。


 まわりにいるのはわたしたちと同じように、派手に着飾った紳士淑女の皆々様。なんだか異様な雰囲気に尻込みしてしまっていたけれど、そんなわたしの緊張した表情に気がついたのか、エルヴィスお兄様がにこりと笑いかけてくれる。


「ローゼマリー、大丈夫だよ。どこからどうみたって君は立派なレディにしかみえないから。胸を張って。」


ずきゅんっ!


 お兄様!なんてジェントルマンなの!


 思わず自分の兄に胸をときめかせてしまったじゃないか。


 それから、先に到着していたお父様とメリッサ様(ここではお母様とよばなきゃいけない)と合流すればそのあと「マリー!」と突然現れて、エルヴィスお兄様からわたしの手を奪い取ったアドニスお兄様が加わる。


 本日参加するコーグリッシュ家が全員集合。

 

 見事にメリッサ様以外、特徴的な赤毛が5人も揃えばそれはそれは目立つもので「コーグリッシュ侯爵家だわ」「では、あの小さな女の子が例の…」「まあ、あのこも赤毛なのね?」とまわりの貴族の注目を浴びる。


 まだ会場入りもしていないと言うのに。

 そしてやっぱりわたしのうわさは貴族たちの間では、結構あつい話題らしい。やだなぁ、すごく居心地が悪い。

 大きなアドニスお兄様の影に隠れるようにして立ちながらお父様たちのあとに続き、わたしたち兄弟も会場に向けて歩く。



 そしてとうとう、豪勢な扉の前で、使用人に招待状をお父様がわたし、私達は会場に足を踏み入れた。




「……わぁ」



 ほんの小さな声で歓声をあげたわたしの声は、きっと賑やかな音楽が流れるここでは誰の耳にも入らなかっただろう。


 アドニスお兄様にエスコートされながら入ったその場所は、わたしが想像していたものをはるかに越えていた。


「ハルト殿下。本日は18歳のお誕生日おめでとうございます。我々一家一同、心よりお祝い申し上げます。」


 夢うつつのままアドニスお兄様につかまり歩いていたら、みんながいきなりひざまづく。それに我に返って、あわてて私も床に膝をつき頭を下げた。

 どうやらしらない間に本日の主役、ハルト殿下の目の前まで来ていたらしい。全然気がつかなかった。


 お父様の挨拶に「久しぶりだな、コーグリッシュ侯爵。今日は来てくれて感謝する。」と若めの男性の声がかえってきた。

 王と王妃以外の王族には、最初の挨拶のあとは許可がなくとももとの体勢にもどってもいいというルールなので、お父様やメリッサ様にならって立ち上がる。


 一番末の兄弟であるわたしは、みんなから一番後ろの場所にルシアンと並んでたっているので目の前にいるお兄様がたふたりの背中に隠れて、王子さまの顔は見えない。

 まあ、あとから離れれば、嫌というほど見放題だろうと、てかむしろ正直興味もない相手なのでボーッお兄様の背中を見つめていれば「ところで」とハルト殿下が楽しそうな声をあげた。



「今噂の的である赤毛侯爵家の末の妹とはそちらのレディかな?」


え?


 ぱちくりと瞬きをすれば、青色の瞳と目が合う。

 あれ?なんでハルト殿下がこんなにもクリアに見えるの?と思ったのもつかの間。お兄様やお父様たちが一歩横にずれ、わたしはまっすぐにハルト殿下らしき人物と対面する形になっていたのだ。


「わお、君まで赤毛なんだんね。」


 ハルト殿下の笑い混じりの言葉に、はっとしてすぐさまスカートをつまみ膝を曲げる。



「お初にお目にかかりますハルト殿下。私、コーグリッシュ侯爵の娘、ローゼマリーともうします。」


 あ、焦った~。咄嗟に挨拶できた自分をほめたい!すごいわたし!本番に強いタイプ!


「あぁ、噂は聞いているよ。アドニスがすごく君を可愛がっているみたいだね?騎士団内では有名なんだ。城下の見回り中に抜け出して妹への貢ぎ物を買いにいくから。」


お兄様…。仕事中になんてことを…。


 ちらりとアドニスお兄様に視線を向ければお兄様はなにやら誇らしげに胸を張っていた。いや、褒められてないよ?

 だけど、わたしがお兄様に視線を向けたのと同じようにすごく鋭い視線をアドニスお兄様に向けた人がいた。


 メリッサ様…。


 アドニスお兄様がわたしを可愛がっていることを知らなかったのだろう。それが気にくわないのか、それとも、職務怠慢を殿下に指摘されて咎めているのかわからないけれど、元々目付きの鋭いメリッサ様が睨み付けるとそれはそれはとっても怖かった。


 わ、わたしは悪くないから…。



「噂どおりとても可愛いね。会えてうれしいよ」


「おい、ハルト。もしマリーに手を出したらいくらお前と言えども…」


「アドニス!殿下になんて口の聞き方をするのです!」


「……申し訳ありませんでした」


 アドニスお兄様を咎めたのはメリッサ様だ。


 まさか、お兄様がいくら継承権が低いからといって王族にあんなことをいうとは思わなかったわたしもびっくりした。

 きっとそれほど親しい間柄だということだろうけど、ここは社交の場。こんな人目につくところで、本日の主役である王族にこの口の聞き方は確かによろしくない。


 しぶしぶ謝ったアドニスお兄様に、また楽しそうに笑ったハルト殿下は「それでは私はまだあいさつがあるのでこれで。どうか楽しんでいってくれ。」と言って他のひとの元へと歩いていった。


 初めての王族。ハルト殿下はまだ親しみやすい感じだったからよかった!ほかの王族もこんな感じの人だといいのになぁ。


 本日の試練その1を無事乗り越えてほっと胸を撫で下ろす。


 ああもう疲れたよ。帰りたい。


 そうは思っても、まだまだ始まったばかり。帰れはしない。

 そのあとも、親交のある貴族たちへの挨拶は続く。まあわたしはお父様たちのあとをついていって、にこにこしているだけなんだけど、みんなやっぱりわたしの存在は気になるらしくその度に挨拶をしなくちゃいけないのが面倒くさい。


 となりのルシアンもいい加減飽きてきたのか、キョロキョロとまわりをみまわしていてエルヴィスお兄様に注意をされていた。


 いじけたような顔をしたルシアンだったが、次に声をかけてきた男性をみて目を輝かせる。


「コーグリッシュ侯爵」


 わたしもルシアンにつられてそちらに顔を向けると、黒髪のアゴヒゲを蓄えたダンディーな人が微笑む。そのとなりには同じく黒髪の女性。しかし、その女性の顔をみてわたしはどこかでみた顔だな、と頭によぎる。

 誰だろう?と考えるよりも先に彼らの後ろにいたふたりが視界にはいり、ああ!と納得した。


 どうやらルシアンは彼らを探していたらしい。


「やあ、アシュフォード侯爵。いつもルシアンがお邪魔してすまないね。」


「いえ、こちらこそバッカスとアンジェラと仲良くしていただいて感謝しています。」


 バッカス様とアンジェラのお父様とお母様!


 お母様がアンジェラにそっくりだ!だけどアンジェラの勝ち気な感じとはちがい、おっとりとした雰囲気ある女性だけど。


「アンジェラが新しい友達ができたと喜んでいたのですよ」


 そう言ってアシュフォード侯爵が笑顔でわたしへと視線を向けたので、わたしはにこりと微笑みかえした。


「はじめましてアシュフォード侯爵様。ローゼマリーでございます。私こそはじめての女性のお友だちができてすごく嬉しいですわ。」


「ルシアン様もローゼマリー様もうちの子ふたりとは同い年だから貴族院でも同学年になるでしょう。これからもぜひなかよくしてあげてください。」


「もちろんです」


 ルシアンとともに笑顔で返せば、侯爵はまた微笑む。そこからはお父様との難しいやりとりに変わったので、わたしたちはそうそうにまた飽きてしまう。

 ああ、これはいつまで続くんだろうと思っていたけれど、アンジェラの甲高い声が母を呼んだ。


「ねえお母様、もういいでしょう?私たちは。」


 そう言ってちらりとこちらに視線を向けたので、わたしはなんだろうと首を傾げた。


「そうねぇ。もうあらかたご挨拶は終わったし、いってらっしゃい。」


 何やらお母様から許可を取り付けたらしいアンジェラは嬉しそうに顔を綻ばせてこちらに勢いよく顔をむけた。

 びくりと肩をゆらして意味がわからないという顔をするわたしの隣で、アンジェラの意図を理解したらしいルシアンがひとつ頷き「失礼しますお父様」とお父様に声をかけた。


「ローゼマリーと席をはずしても構いませんか?」


「ん?あぁ、構わないよ。いっておいで。アドニスとエルヴィスも友人たちへの挨拶があるだろう?」


 てっきりパーティー中ずっと挨拶ずくしだとおもっていたわたしは、それが解放されることに目を輝かせた。


 やった!お腹すいてたんだ!あと探検もしたかったの!


 そうわくわくしていたら「行くわよ!」とアンジェラに腕をとられた。

 どうやら先程のルシアンとのアイコンタクトはこういうことだったらしい。






ここでのコーグリッシュ4兄弟の年齢


長男 アドニス(18)

次男 エルヴィス(16)

三男 ルシアン(11)

長女 ローゼマリー(11)


ルシアンは兄二人と歳が離れてるから甘やかされたのです。



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