パステルカラー
Ⅱ
僕は死んだ。その筈だったのに、・・・何故、いや、えっと・・・。とにかく説明は出来そうにない。
火事の時と同じように、歩いている感覚は無い。ふわふわと浮いているような感じだ。・・よく分からない。とりあえず進む。
僕の周りにはパステルカラーで実にシュールな景色が広がっていた。目に何か赤いもやのようなものがかかっているため、色ははっきりとは分からないけれど、明らかにここはおかしい。何かが異色だ。僕は幽霊のようにふらふらと地面をすべりながら思った。
根は丸くぷっくりとなり、異様に太い幹には突起の多い枝が巻きついている。盛大に樹皮はめくれ、形は荒々しい。やはり、おかしい。
そこまで言って僕はやっと自分の体に疑問を持った。あれだけの炎の中で火傷一つ負っていない。あの日・・・、よく思い返してみるが、どうしてそんなことになったのか、分からない。記憶が飛んでいるのだ。
-だが、苦しむあいつらの醜い顔だけは鮮明に覚えている。悪趣味だろうと、どうでもいい。
もしかして、僕は本当に幽霊なのかと勝手な想像を働かせる。だが、僕はそれを苦笑して一蹴した。ありえない。そんなことは。
*
何時間歩いたのかは知らないが、じきに夜になった。そこでの森の風景は、実に可憐なものだった。
木々の枝の先には仄かな淡い光が灯り、森を虹色に染めている。奇妙だが、儚く美しい風景だった。腐っている僕でも、こんなことを感じられるのだなと思う。僕の存在自体が自分にとって懐疑の元である今は、僕はここは安らぎに思えた。天国だと勘違いするのに要素が十分すぎる。だが、僕はまだ(たぶん)生きているのだ。そう信じたい。僕は歩き続ける。