その3
「……なるほどねえ」
いまだ横たわってるおにぎり君の傍らで、座ったまま事情聴取をしている生真面目な白子刑事。
「もういいでしょうか? 早く帰らないと、何を言われるか」
「でも田部さん、腰がぬけてるんじゃ?」
「そうですが……誰かさん曰く『這ってでも戻って来い』って」
「は、這ってでも?」
思わず声を張り上げた相手、先程まで会っていた探偵さんの顔を思い浮かべ
「言いかねないなあ、あの人なら」
この時、やはり絶妙なるタイミングで彼氏のケータイを鳴らしてきたこの方
『おーい! 這ってるかあ?』
「はあー」
これに、ガクリとうな垂れたおにぎり君
「まだ事情聴取の最中ですって」
『長っげえ! 早く戻ってきなって。キミには、新たな任務についてもらうからさ』
「あ、新たな? よくもまあ、次々と……」
さすがに文句が口をついた助手だったが、その時
「あれ? 何やら玄関が騒がしいけど?」
『ん? どした?』
その玄関では、一人の初老の男が警官たちに制止られている。
「は、離さんか!」
「だから、中へ入っちゃだめですって!」
もみくちゃにされている男、思わず怒鳴ってしまった。
「自分ちに入るのが、何故いけないんだ!」
「え?」
互いに顔を見合わせる警官ら、つい押さえている手を緩めてしまった。
これを振りほどいた男
「フン!」
一つ鼻を鳴らし、奥へと入っていった。
「ど、どなたです? おたくって?」
いきなりの男の登場に、そら驚いてる白子君。
それと同時に、一斉の猫君らが集まってきた。
「おお、ヨシヨシ……どなただと? わしはな、ここの主の江藤寅夫だ!」
「主の干支寅夫さん?」
「江藤だ、江藤!」
ここで、まるでこの場で会話してるか如くケータイから聞こえた声
『おい! 何、しかとしてるんだ?』
この様子を見ていたおにぎり君、ようやく己が電話中だった事を思い出し
「あ、すっかり忘れてました」
『はん? 思ったより、いい根性してるじゃん?』
「え? い、いや、実は木俣さん。今、ここの主らしき人が戻ってきまして」
この時、またもやケータイが壊れるかと思った助手
『おおお! 依頼主、生きてたんだ! ヒャッホウ!』
「あ、まだ何とも……ちょっとだけ待ってくださいね、今確認してみますから」
こう言って、すぐに相手に挨拶した素直な助手。
「初めまして……」
だが、相手は目を瞬かせ
「あ、やっぱり! いやなあ、こいつらの餌におにぎりを用意したはずはないなあって、実はさっきから首を捻ってたんだ」
これに本家おにぎりの田部君が、すこぶる迷惑そうな顔をし
「んな、馬鹿な。僕は田部って言いまして……ほら、さっき電話で話してた探偵事務所の者ですよ」
「うん?」
そして、相手が目を輝かせて
「おお、そうじゃったか! これはわざわざ、どうも!」
「あ、いえ。それで早速なんですが、消えられた猫さんとは一体……」
「よくぞ聞いてくれました! 実はピッツアという名で、種はロシアンブルーでしてな」
「ああ、眼がエメラルドグリーンの! でも何故に、名前がイタリアンなんです?」
「まあ、硬い事は抜きにして……でな、その毛の色はブルー……」
これを遮ってきた白子刑事、その醤油顔をケチャップ顔にと変え
「あなたらね! そんな事より、ここに死体が転がってるんですよ! 死体が!」
「ああ、そうか」
こうアッサリ答えた主、そこまで歩み寄ったのだが
「そう言われてもなあ、こんな男なんて見た事ないし」
「ああ、見た事ないんですか……って、ええっ?」
この言葉には、顎が外れそうになった若き刑事
「ほ、本当に?」
「嘘は言わん主義じゃ」
目を丸くしつつも、この事実を電話の向こうに伝えるおにぎり君だったが
「木俣さん。実は……もしもし? もしもーし?」
そこまで気が長い相手でない事くらいは、重々わかってるはず――無論、とっくに切られていた。




