尋問
日が高くのぼった頃、薄明るい民家で椅子に縛り付けられ、ホークはやるせなくなっていた。
「ねえ、縄、はずしてくれない?」
ホークは薄ら笑いをしながらひげの中年に話しかける。
「今縛ったばっかだろうが。何言ってんだオマエ」
「いや僕、なにも悪いことしてないし、する気もないのに、縛られてるっておかしくない?」
ホークは精一杯の抗議をする。悪いことはしていない、その一点に関してはホークは正しいが、
「外者なんて信じられんからな。ただでさえ盗賊の野郎共に好き勝手されてんだ。信じろってのが無理な話さ」
彼らは盗賊に頻繁に襲われているらしく、なよなよした彼にも不信感を抱いていた。
「盗賊? うわーやっぱりいるのかそういうの。新鮮」
目を輝かせながらホークは一人感動する。
「なあ兄ちゃん、ふざけてんのか?」
そのリアクションが挑発になってしまったらしい。男は腰からナイフを取り出し、ホークの顎に刃先を向ける。
「ああ、いえすいませんすいませんだからそのナイフをお収め願えませんか?」
ホークは体中に冷たい汗をかきながら必死に謝る。
「ふん」
男は渋々といった感じでナイフを腰に戻した。
「で、この村になにし来た」
そして無愛想な感じでホークを問いただす。
「いやー。それが歩いていたら偶然たどり着いただけでして……。」
ホークはに薄ら笑いが張り付いているらしく表情を変えずに答える。
「武器は。なにも携帯している風じゃねえが」
「いやー、それがないんですよー!」
この時だけは、薄ら笑いでも苦笑いでもなく、ただの笑顔でそう答えた。
「おい、コイツの身ぐるみ引っ剥がせ」
それが癪に触ったのか、男は仲間に服を脱がすよう指示する。
「え? え? ちょっ! アーッ!」
抵抗するが、三人がかりで押さえられ、男共に身ぐるみを剥がされる。
「ちょ、やめ」
「うるせえ、おとなしくしろい!」
「そんな事言われても……あ、痛い、痛い痛い!」
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「本当になにも無えんだな」
数分後、始終暴れまくったホークはパンツ一丁でぐったりとしていた。
「いやまあ……それほどでも」
「しかし、身一つでここまで旅して来たのかい?」
「あ、ああうんそんなトコかな。いい人もいたしね」
「いい人?」
男達は不思議そうに顔を見合わせた。
「一晩たっていうのもなんだが、これ迂闊じゃないか?」
一方その頃、別の家屋でオウルも同じように椅子に縛り付けられていた。
「なにがさ」
「尋問するなら、まず逃げられないよう武器を取り上げるのが定石だと思うんだが。それに、女だけってなめてるのか?」
「ご教授ありがと。なら身ぐるみも剥ぐかね。それと、女ばっかりって甘く見てもらっちゃ困るね」
「くっ」
竿にナイフをくくりつけた簡易の槍を向けられる。
「脱ぎな」
オウルはおとなしく従った。
「で、パンツ一丁さん。あなた、なんでここに来たのかしら?」
「いや、俺はただの流れの傭兵さ」
「傭兵、ねえ。金さえ払えばなんでもやる奴だろ? あいつらの息かかってんじゃないの?」
彼女は嫌悪感と疑心を露わにしながら吐き捨てるように言う。
「あいつら? さっきの雰囲気といいこれと言い、なんかあるのか?」
オウルは状況を知ろうと彼女に聞く。
「しらばっくれるんじゃないわよ」
だが、彼女にはねっ返されてしまった。
「いや、まったく」 だが、知らないものは知らない。オウルはなおもしらをきることにした。
「本当に知らないの」
「ああ」
「本当に?」
「本当に」
すると、彼女は諦めたような呆れたような顔で、ため息をつくと、
「盗賊よ」
やっとこの原因の核を話してくれた。
「はあ、盗賊」
「そう、あいつら酒や食い物が無くなるとこっちに来るんだよ。でも人数から考えると、近隣の村も同じ目にあっているんだろうね」
「困ってるのか?」
「見たらわかるだろう! あいつらのおかげで隣村との付き合いもなくなったし、滅多に旅人も流れてこなくなった。しかもあいつら、逆らう奴は容赦なく殺すんだ。おかげで息子は……」
彼女は最後まで言葉を紡げず唇を噛んだ。オウルはそれを見て軽い口調で提案する。
「そうか。なら、雇わないか?」
「は?」
若干苛立ったような感じで彼女はオウルを睨んだ。
「金さえ払えばなんでもやるって言っただろ? その通りなんでもやってやるって事さ」
「金なんて無いよ」
「そんな事さっきの話で把握したさ。でもさ、出ずに腐ってる金も多少なりともあるだろ?」
「吸い取ろうってかい。確かに今腐ってはいるけど、渡す気はないよ」
「少しでいいんだ。ニミルで、どうだ?」
「高い」
「じゃあ約半分で九キル」
「まだよ、しめて三キルだね」
「七キル」
「三キル」
「五キル、これ以上は下げない」
「間をとって四キルってどうだい?」
彼女から折中案を出す。最初からここを落としどころとしていたのだろう。
「駄目だ」
しかし、オウルはこれ以上下げる気はない。といった感じで断る。
「衣食住付けるよ。いつあいつらが来るかわからないんだ。これで四キルなら文句は無いだろう?」
オウルは考えた。住はともかく、食がつくのはありがたい。まあ、食えないよりは、多少なりとも食える程度であろうが。
「わかった、それで手を打とう」
「よし。じゃあ早速手伝ってくれよ」
「は?」
「衣食住タダでつけるわけないだろう?畑仕事くらいやんな!」
「そんな事聞いてないぞ」
「ならパンツ一丁でいるんだね。なに、働いておけば賊どもが来るまでのならしになるでしょ」
「……」
食えないおばちゃんだ。とオウルは周りの人達に紐をとかれながらそう思った。