邂逅
十二個の光が浮島から飛び散った。
そんな話をある村の男は話した。だが、ただ浮いているだけの島がそんな魔法を使えるものか、夢を見たんだろう。と、村人たちは男の話を笑いながら一蹴した。
しかし、村人は知らないが一部の人間は片鱗を知っている。荒野に、草原に、砂漠に、森に、それぞれ計十二箇所にクレーターが出来たのだ。しかしクレーターにはおよそなにがぶつかったのか判定できるものは、なにも残ってはいなかった。故に、ここでなにがあったか、これからなにが始まるのか、誰にもそれはわからない。話は、それから数日後のことである。
森を歩く影がある。背はそこそこの、中肉中背で、引き締まった両腕。鋭い目つきに少しかかる丸い髪型が特徴的だ。 彼の名はオウルという。身に着けているレザーの大小不揃いな傷は、旅で傭兵をやっていてついたものもあるが、野生動物との戦いで付いたものが大半である。
オウルは森を出ると、ボロボロの外套に包まれた、仰向けの行き倒れを見かけた。この時期に長袖というミスチョイスな格好の男は、まだ息はあるが、くたばるのも時間の問題だろう。
行き倒れ自体は珍しい事ではない。しかし、見たところ服に傷はあまりなく、賊にやられた感じはない。 なにより謎なのは、賊にやられた風でないのに、武器を持たずにこんな森の前に倒れているのはどういうことだろうかということだ。貴族ですら装飾華美で、実用性が二の次の武器を背負っていくのに、この男にはそれらしい武器が見当たらない。多分、服を見る限りではおそらく短剣すら持っていないだろう。
その状態を一瞥して、オウルは謎を謎のままにして行き倒れの横をなにもなかったかのように通り過ぎようとする。しかし、行き倒れがオウルの足首をがっしと掴んだことにより、それはできなくなった。
オウルは驚いた。生きている事は知っていたが、こちらをこんなに強く掴む力なんて無いと思っていた。
しかし行き倒れはそのままふくらはぎ、ももと、上に上に、振り絞るように手を伸ばしていき、
「た、助けて……」
と、やはり今にも死にそうな声を出してオウルに懇願してきた。
「嫌だ」
しかしオウルは即答した。オウルは一度、この手合いに似た時きまぐれで助けた時がある。その時の行き倒れはオウルにくっついて来たが、運が悪いと言うのか。その後依頼主の敵国に傭兵として雇われていた。
そんな事態は避けたかった。自分で救った命を自分で刈り取る感触は、あまり良いものではない。
しかし、
「お願い、水、水だけでも……」
と、どこにあったのかわからないくらい強い力で掴まれふりほどけないオウルはしかたなく水筒を一本取り出し、行き倒れに差し出した。
「ほらよ、じゃあな」
そう言ってオウルは水を飲む男を背に、自分の甘さを呪いながら旅を再開した。
残された行き倒れは水を飲んで多少生き返ったらしく、オウルの背中を見ながらなにかを考えているようだった。
そして暫くして、行き倒れは立ち上がったかと思うと外套を脱ぐ。
そして小走りでオウルの背を追っていった。