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ミッション――制限時間内にたどり着け!!


1週間に一度は更新する、という目標をギリギリで守れました…




 城には2種類の侍女がいる。

 名付きと名無し。


 名付きというのは、1人の主人に仕える専属侍女のことで、身元のしっかりした者(中流〜下流貴族)や優秀な者だけがなれる、侍女の花形である。主な仕事は、着替えや食事の準備、主人の部屋の掃除といった、主人の身の回りの世話だ。


 一方名無しというのは、主人を持たない侍女、つまり城の世話をする侍女のことをいう。その主な仕事は、城全体の掃除や洗濯、兵士たちの世話など多岐にわたる。


 主人に仕えていれば名前を覚えてもらえるが、そうでなければその他大勢として処理されるので、当然名前を覚えてもらえない。

 だから名付きと名無しと呼ばれていた。


 一般的に、名無しの方が大変であるといわれている。仕事の量は多いし、時には汚い仕事や力仕事をしなくてはならないからである。

 楽になりたくて、名前で呼ばれたくて、侍女は皆、名付きになるために努力していた。


 そんな中、名無し期間が全くなく、尚且つ貴族でもない少女が突然名付きとして1人の王女に仕えることになった。

 侍女たちは当然激怒し、揃って少女のことを無視し、陰口をたたき、時には水をぶっかけたりした。


 しかし、少女が空気感染性の高熱に係った時、代わりに入ったベテラン侍女がたった一日でボロボロになって以来、少女はこの城の全ての侍女から同情を集める存在となっていた。


 少女の名はローズマリー。

 第四王女マリアンヌの名付きであり、最低でも5人で行う仕事をたった一人でこなしている、不憫かつ優秀な侍女である。








 (あ〜、無理!!絶対無理!!)


 今日も心の中でそう叫びつつ、廊下を猛スピードで駆けるローズマリーの姿があった。

 通常であれば、すれ違う名無しから叱責を受けるところだが、彼女がローズマリーであることとその必死の形相から、(あぁ、またあの姫から難題を出されたのね)という同情の視線を受けるだけで済んでいた。


 実際は


 (マズイマズイマズイって!シルバーの装飾品の手入れをしてたら遅くなっちゃつた!扉の前にいなかったら、マリアンヌ様に怒られる!)


 別にマリアンヌに難題を出されたわけではなく、単に自分の不注意で窮地に陥っているのだが。


 とにもかくにも、自らの身を守るため、ローズマリーは廊下を疾走するのであった。








 「……だ、大丈夫、ローズマリー……?」


 息も絶え絶えの状態のローズマリーをみて、先輩侍女が声をかける。


 「……は、はい……ちょっと、ふ、不注意を、……」


 心臓が爆発するのではないかと思われるほど必死に走った甲斐あって、ローズマリーがたどり着いた時、朝食会の行われている部屋の扉は閉じられたままだった。

 そのことに安堵しつつ息を整えていると、「ローズマリー」と優しく声をかけられた。


 顔を上げると、すぐ近くに先ほど声をかけてくれた侍女の真剣な顔があった。


 「耐えられなくなったら、いつでも言ってね。フリージア様に相談してあげるから」


 (あぁ、そういえばこの人フリージア様の名付きだっけ)


 そんなことを頭の隅で考えたが、それよりも鼻筋の通った、なかなかに美しい顔を息のかかる距離まで近づけられ、ローズマリーの心臓あ跳ね上がった。

 見た目がどんなに女の子であっても、やはりローズマリーも年頃の男の子。これだけ顔を近づけられたら、平常心ではいられない。

 慌てて顔を離し、不自然に思われないよう返す。


 「お、お心遣い、ありがとうございます。私なら大丈夫です。慣れていますから」


 これはローズマリーの本心だった。

 確かに、普通の侍女からみれば大変な量の仕事をローズマリーはこなしている。しかし、これがローズマリーの普通だった。最初からこの量だったので、今更何とも思わない。



 人間って、置かれた環境に順応していく生き物なのよ、ローズマリー。



 侍女として働くよう言われ、戸惑っていたローズマリーにマリアンヌが告げた言葉。

 真実だった、とローズマリーは思う。骨身に染みて、そう思う。


 (マリアンヌ様にも、そんな経験があるのだろうか)


 ふとそんなことが頭をよぎったが、「ローズマリー!!」という声と共に抱きしめられ、再びパニックに陥る。


 (む、胸がっ、胸があたってます!!)


 初めて体験する柔らかさに、ローズマリーは頭が真っ白になる。が、それも一瞬のこと。豊かな胸に鼻と口を埋められ、すぐに息ができなくなった。


 「何て健気なの!?あぁ、本当に、無理しなくていいのよ。遠慮なんていらないわ」


 そんなローズマリーのことなどお構い無しで、先輩侍女は力一杯ローズマリーのことを抱き締める。

 ますます息苦しくなり、意識が遠退きかけた瞬間、ローズマリーの脳裏に主人の顔が浮かんだ。




 「穢らわしい」と、まるで汚物をみるような目でローズマリーのことを見下ろしている、マリアンヌ。




 ローズマリーに非はないのに、かなり理不尽なのに、とってもリアルに想像できてしまい、ローズマリーの背筋が凍る。


 (そ、それだけは勘弁)


 残る力を振り絞り、先輩侍女の名を呼ぶ。


 「み、みにゃしゃん、ぐ、ぐるじ、でしゅ」


 ローズマリーの必死の訴えが通じたのか、その侍女、ミアは慌ててローズマリーを離した。


 離された途端、ローズマリーは水中から飛び出したかのように大きく息を吸う。その様子を見て、いかに自分の行為がローズマリーを危険に晒したか理解したようで、ミアが謝罪する。


 「ご、ごめんなさい!大丈夫?」


 「だ、大丈夫です……ちょっと、ビックリしましたけど……」


 ローズマリーが苦笑すると、ミアは恥ずかしそうに俯き、顔を赤くする。


 「貴女があんまり可愛いから、つい……私、可愛いものに目がなくて……」




 (…………うん、何て返していいか分からない!!)




 とりあえず曖昧に笑っていると、近くから「ミア!!」と小さくも鋭い声が上がる。

 驚いて声の方を見ると、ミアと同じフリージアの名付きが顎で扉を指す。


 ローズマリーが扉の方を見たのと同時に、重々しい音をあげて扉が開いた。







読んでいただき、ありがとうございました。



次回こそは、二人が再会します!


書いてる本人ですら、二人の絡みがなくて飽きてきてます……ので、頑張ります!

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