定例朝食会 3
定例朝食会、やっと終わります!
パチパチパチと、静寂を破る拍手があがる。
その発信源はアイリーン。
アイリーンは惚れ惚れした様子で、マリアンヌを見る。
「私、貴女だけは敵に回したくないわぁ」
そう楽しそうに呟いて
「ねぇ、フリージア様も、そう思うでしょう?」
こともあろうに、フリージアに話をふる。
フリージアは耳を赤くしたものの、声を荒げることはなかった。醜く顔を歪ませることもなかった。ただ、静かにこう告げた。
「……マリアンヌが優秀なのは、周知の事実。しかし、女では王位は継げまい」
だから、恐れることはない、と。
つまりはそういうことだろう。
それはマリアンヌ自身認めていることだった。
しかし
「あら、どうして?今は男性に優先的に王位継承順位が回るだけで、女性に継承権がないわけではないわ」
マリアンヌですら納得するフリージアの説明に、アイリーンは当然とばかりに反論する。
「……王子が4人もいるのだぞ。それに、他国に嫁いだジュリアは別としても、二人、順位の高い姫もいる」
言外に(馬鹿かお前は)という意味を込めてフリージアが言うが、アイリーンは首を傾げる。
「だから?」
「……『だから?』アイリーン。少しは頭を働かせなさい。マリアンヌが王位を継ぐことなど」
「例えば、王子全員が流行り病にかかってしまったら?」
フリージアの言葉を遮って、アイリーンはそんなことを言い出す。
「皆死んでしまえば、マリアンヌが継ぐしかないでしょ?他の姫は帝王学なんて知らないだろうし、まして他国の者を王に据えるなんてありえないんだから」
これにはさすがのフリージアも絶句せざるを得ない。
皆二の句が継げず、静寂が場を支配する。
その静寂を破ったのはマリアンヌ。
「……アイリーン様、滅多なことを仰らないで下さい」
この会話に参加したくなかったマリアンヌであったが、誰も何もいわないので、仕方なくアイリーンを止めることにする。これ以上何か言わせれば、マリアンヌにとばっちりが飛んできかねない。
「あら、絶対にないとは言えないでしょ?」
「……確かに、0ではないですわ。けれど、限りなく0に近い確率。“ある”というよりは“ない”という表現が正しいのではなくて?」
「そうかしら?」
「そうですわ。陛下も、そう思われるでしょう?」
マリアンヌは、この中で唯一アイリーンを強制的に黙らせる力を持つ王に話を振る。
王は突然話を振られて多少動揺したものの、マリアンヌの期待通りの反応をした。
「うむ。マリアンヌの言う通り、滅多なことを言うものではないぞ、アイリーン」
王にたしなめられ口を尖らせたのもつかの間
「そういえば、もうすぐ陛下の誕生日ですわね」
唐突過ぎる話題転換である。
「う、うむ」
王もたじたじである。
「ルーファスが面白い催しをやるって聞いたけど、一体何をするつもりなの?」
「なっ、ど、どこで聞きつけたのですか?!まだ近い者にしか話していないのに」
本当に驚いたのだろう。ルーファスが碧の瞳を見開いて、アイリーンを見る。
その表情が可笑しかったのか、アイリーンはクスクス笑う。
「知らなかったの?壁には耳と目があって、気に入った人間に情報を流しているのよ」
仲良しの壁に教えてもらったの、とアイリーンは言う。
その言葉をそのまま信じることはないが、さすがに不気味に思ったのだろう。ルーファスが怪訝な顔をする。
「それで、面白い催しとは?」
焦れたフリージアが先を催促するが、ルーファスは笑いながら首を振る。
「言ってしまっては楽しみがなくなってしまいます。本番まで取っておきましょう」
王は自身の髭を撫でながら、ルーファスを試すような顔で笑う。
「では、当日楽しみにしておるぞ、ルーファス」
「お任せ下さい、陛下」
それが朝食会終了の合図となった。
読んでいただき、ありがとうございました。
次からローズマリー再登場です!