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誕生パーティ 2

いつもより早く投稿です。

このペースを維持できればいいのに……


そういえばまとめて紹介したことが無かったので、ここで紹介


四大公爵家

・ウィーンスロッド(フリージアの生家)

・スチュワート(マリアンヌの血筋)

・シープ(ジェラルド・シープ公爵の家)

・ハイドラ(アレクセイの実家)


では、どうぞ!




 挨拶を終えたマリアンヌはすぐさま人の多い所から離れ、近寄るな、というオーラを発する。こうすると、少しだけだが近寄ってくる人間が減るのだ。しかし、空気の読めない人間とはどこにでもいるもので、マリアンヌの元にやってくる命知らずな輩がいた。


 その人物は会場の端にいるマリアンヌの元へ走ってきたようで、すっかり息があがり、顔は赤くなっている。しかし瞳は夢見る少年のようにキラキラ輝いていて、その薄くなった頭頂部とは対照的だ。


「殿下!」


 たぶん、しっぽが付いていれば千切れんばかりに振っているであろうその様に、マリアンヌはため息を一つ。


「……シープ卿……少しは公爵としての自覚を持たれてはいかがかしら?」


 マリアンヌの歴史の師を務めてもいるジェラルド・シープ公爵は、マリアンヌに無視されなかったことが嬉しいというように満面の笑みを浮かべる。


「何を仰います!殿下の元に馳せ参じないなど、それこそ公爵として失格でしょう!」


「……何を言っているのか、わたくしには理解できないわ」


 んふふふふ、と気色悪い笑い声をたてる公爵から一歩引けば、同じだけ公爵は距離を縮めてくる。そして、視線でマリアンヌを外へ誘うのである。


 普段なら、マリアンヌは絶対に無視をする。気付かなかったことにして、とっとと何処かに逃げるだろう。しかし、このタイミング、というのがマリアンヌは無視できなかった。



 王への挨拶は王の子から始まり、他国の王族や重役、国内の貴族、という順番を経る。今はまだ他国の人間達からの挨拶が始まったばかりで、当然ながら公爵はまだ王への挨拶を済ましていないはずだ。

 王への挨拶は最優先でなされるものであり、早く挨拶をしたほうが王の好感も上がる。だからこそ、今会場内にいる人間は長蛇の列を作って王への挨拶をしようとしているのだが――


(王への挨拶を後回しにしてでも、わたくしと二人っきりで話をしたいと、そういうことかしら?)


  皆が王への挨拶に焦れている今ならば、人の目を盗んで話をすることも可能だ。というか、今しかない。


  マリアンヌが視線だけで了解の意思を告げると、シープは先導するように歩きだす。その後を、マリアンヌは無言で付いて行った。





  入ったのは、休憩用にと解放されていた休憩室の一つだった。部屋には大きなソファとテーブルが一組、それから花瓶と絵画が壁に掛けてある。どれも高価なもので、国の豊かさを示そうとしているのが伝わってくる。まぁ、マリアンヌにとってはどうでもいいことなので勧められる前にさっさとソファに腰を下ろした。


「それで、何かしら?」


 シープがソファに座るより前に、マリアンヌが聞く。シープはまだ気持ち悪い笑みを浮かべたままで、しかし焦らすつもりはないのかすぐに答えを返してくる。


「殿下、玉座がみえてまいりましたぞ」


「……それは、どういう意味かしら?」


  シープは唇の端をこれでもかと持ち上げる。その様が、なんだか童話に出てくるゴブリンのようで、マリアンヌは這い上がって来る悪寒に必死に耐えた。


「実は、殿下こそ国を統べるに相応しい方と、私はずっと思って参りました。そして、そう思っている者が少なくないことは、殿下もご存じのことかと」


 それは、分かっていた。分かりたくもなかったし、王座になど興味もないけれど、自分を王にしたいと望む者がそれなりに居る事は、マリアンヌだって知っていた。でも、どれだけの者が望もうとも、マリアンヌが王になるのは難しいことだった。

  まず、王位継承順位の低さ。9人中の8番目という順位で王になった者は、このアルシュタイン王国の歴史に居ない。それに加えて、女王という存在も前例がなかった。


 今有力視されているのは、四大公爵家の中でも最も強い発言権を持つウィンスロッド家の血を引くエリオット。それから、最も高い王位継承順位を持ち社交的なルーファスだ。


「ええ。知っているわ。でも、それがどうしたというの?わたくしが王になる可能性など、限りなく0に近いもの。現実をご覧になってはいかが?」


「見ておりますとも。だからこそ、私どもは思いを同じくする者を集めているのです」


  その言葉に、マリアンヌの形の良い眉がわずかに跳ねた。


「それは、初耳だわ」


 もし事実なら、それはマリアンヌにとって喜ばしくないものだった。

 マリアンヌは王になるつもりなどなかった。また、政治の道具にされるつもりもなかった。彼女の目標は、あくまでローズマリーと共に穏やかな日々を過ごすことであり、その邪魔をする者は全て敵だ。とはいっても、シープは元々『レオナルド』の信者であり、マリアンヌとなってからはその信仰ぶりは控えめになっていた。これほど強くなったのは最近の歴史の授業の後からであり、恐らくその思いを同じくする者、というのを集め始めたのも最近のことであろう。

 マリアンヌはシープの言葉を注意深く吟味する。この政治という戦場で生き残る為には、ある程度の後ろ盾が必要だ。シープは四大公爵家の一角シープ公爵家の現当主であり、その者と懇意にしているという事実は、一番の後ろ盾であるスチュワート公爵家が遠のいた王都で孤立するマリアンヌにとって、大きな盾となっていた。しかし、この話しの流れによっては切らなければならない、とマリアンヌは神経を尖らせる。


「そうでしょう。なぜなら、殿下にもお伝えしていなかったのですから。本当なら、確固たる足場を作ってからお伝えしようと思っていたのですが、先日、陛下の口から信じられない言葉を聞いてしまったのです!」


  話している途中からその時のことを思い出したのか、シープが興奮して声を大きくする。


「どうにも最近考え事をすることの多い陛下に、私がお伺いしたのです。何か心配事でもあるのかと。すると、陛下はしばし考えた後、こう仰られました。『王位継承順位に男女の差異があることについて、お前はどう思う』と。これはもう、陛下が殿下を王位にと考えているからに違いありません!それ以外に、考えられません!」


 横に大きい体を震わせながら、シープは熱弁を振るう。しかし、マリアンヌは冷めた心でその話を聞いていた。

 確かに、もし王が王位継承順位の男女差別について何かを考えている、というのであれば、その内容は男女差別をなくすことである可能性が高いし、それによって利を得るのはマリアンヌだろう(本人の意思とは関係なく、一般的に)。しかし、マリアンヌには解せない。王がそのような事を口走る理由が、思いつかないのだ。王に気に入られている自覚はあるが、最近特に王と会話した記憶はないし、今自分を押すタイミングとも思えない。王が不治の病に侵されている、というのであれば分からなくもないが、先ほど見た王はそのような病に侵されている風でもなかった。


 (嫌な感じだわ……)


 自分の知らぬ所で、何かが起きようとしている――そんな感覚があった。


 (……公爵は、しばらく泳がせましょう。この状態で情報元が無くなるのは、命取りになりかねないわ)


 但し、勝手に暗躍されても困る。


 「……卿は、陛下の言葉を聞いて何と答えたのかしら?」


 興奮状態のまま何かをまくしたてていたシープを無視し、マリアンヌが聞く。シープは自分の言葉を遮られたにも関わらず、嬉しそうに報告をしてくれた。


 「それは勿論、断固撤廃を訴えましたとも!近隣諸国でも最近では女王が誕生しておりますし、何より王の器を持っておられるのはマリアンヌ様のみでございます!」


 「そう。……卿、もし今後もそのような話が出たとしても、今のような熱弁は振るわないようにしていただけるかしら」


 「そ、それは何故です?」


 焦ったようなシープの言葉をマリアンヌは心の中で笑った。


 「卿がわたくしと懇意にしているのは、皆も知っているはず。卿自ら動かれると、わたくしがそのように働きかけているととられてしまうわ。そうなれば、エリオットかルーファス側からの妨害が起きるでしょう。それは好ましくないわ。今はまだ、水面下で動くべき時――卿が集めている同志に動いていただきましょう。して、その同志にはどういった方がいらっしゃるのかしら?」


 シープの口から数名の名前を出すことに成功したマリアンヌは、相手に気付かれぬようにほくそ笑んだ。これで、連中の動きを監視することもできるし、上手く立ち回れば手駒としても使えるだろう。


 マリアンヌの手のひらで踊らされているとも知らず、シープはマリアンヌからの労いの言葉に酔いしれている。天国まで一直線、と言わんばかりの軽快なスキップを披露しながら会場に戻るシープの後姿に、マリアンヌはうろんげな視線を向ける。


 (……あれで外交の手腕はぴか一と名高いのよね……この国は大丈夫かしら?)


 自国の未来が少しだけ不安になったマリアンヌだった。








読んでいただき、ありがとうございました!


次回はルーファスの『とっておき』!が登場!

誕生パーティは細かく描写しないと後々困ったことになるので神経遣います……

早くこの重いところを抜けたい……でも当分無理かも……



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