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定例朝食会 1

 

ほぼ、人物紹介です…


人間関係等把握していただければと思います。

 マリアンヌが扉を潜った時、部屋の中央の食卓に着いていたのは、11人。定例朝食会の出席者は全部で13人なので、かなり遅いほうであった。


 「あらあら、遅いご到着ですこと」

 「“黒薔薇”などと呼ばれて、いい気になっているのではなくて?」

 「花だから、冬が苦手なのよ」

 「いっそ早く枯れてくださればいいのに」


 雨のごとく降りかかる非難をまるっと無視して、マリアンヌは食卓の中央に座る初老の男性に笑みを向ける。


 「おはようございます、陛下」


 この男こそ、この国の王、デュラン・アルシュタインその人であった。

 50過ぎということもあり、顔には幾つもの皺が刻まれていたが、それでも若かりし日の端整な顔立ちは失われてはおらず、女性からの人気は高い。ただ、実務面でいえば無能というほど能力がないわけではないが、かといって後生に名が残るほど有能ではなく、今のところ王に“賢王”などの呼び名はついていなかった。

 娘であるマリアンヌでさえ、中途半端な王だと評価していた。


 (名が残るとすれば、「無類の女好きで、5人もの妃を迎え、子供を9人もこしらえた挙げ句に後継者について一切言明せず、未曾有の王位継承争いを生み出した迷惑極まりない王」としてでしょうね)


 そんな考えも、マリアンヌの鉄壁の微笑みによって外に漏れることはなかった。


 「うむ。さぁさぁ、そんなところに立ってないで、席に着きなさい」


 王は豊かな髭をたくわえた顔をほころばせ、マリアンヌを招く。

 それを受け、マリアンヌは他の者たちの咎めるような視線にも臆することなく、自らの席――王から数えて12番目の席に腰を下ろす。

 それが、この王家の中でのマリアンヌの順位であった。


 「マリアンヌ、次からは余裕をもって行動なさい。陛下をお待たせするなんて、あってはならないことです」


 そう声を発したのは、王から1番目の席に座する黄金色の髪の女性。名はフリージア。この王国の第一王妃である。

 フリージアはその切れ長の目に侮蔑の色を滲ませて、マリアンヌを一瞥する。

 マリアンヌは優雅に微笑み


 「はい。フリージア様」


 ただそう答えた。

 ここで反発するほど、マリアンヌは愚かではなかった。

 

 「それにしても、あの方はまだかしら?」


 嘆くようにため息をついたのは、王から数えて2番目の席に座る第三王妃のレイニア。他の王妃に比べれば、彼女は福豊な体つきをしている。

 レイニアの斜め前の席で、人形のように黙って嵐が去るのを待っているのが、第四王妃のユーリ。

 そしてユーリの正面の席が



 「あらあら、皆さんお揃いで。仲がよろしいのね」



 春の風のような爽やかな声と共に現れた、第五王妃、アイリーンの席であった。


 12人の視線を一身に浴びているというのに、アイリーンはその場の空気を読まず、実にゆっくりとした足取りで食卓までやってくる。


 フリージアの細い眉が小刻みに動くのをみて、マリアンヌは周囲にわからぬようため息をついた。


 (いちいちフリージアを刺激するような行動をとらなくてもよろしいのではなくて?)

 

 アイリーンはごく最近王家に嫁いできた王妃だった。

 当然、歳も若い。

 そして何より、彼女は美しかった。


 それこそ、飛ぶ鳥が彼女に見とれて落ちるほどに。


 咲き誇る花が、恥ずかしがって下を向いてしまうほどに。


 しかし、見た目はおしとやかで可憐そのものだが、彼女の本質は我が儘で自由奔放、誰にも束縛されなかった。王ですら、未だ一緒の床に入れていないとの噂まであった。

 どんなに皆から諭されようと、叱られようと、彼女は自身の考えや行動を変えることはなく、よって、多くの人から疎まれていた。


 その中でも一番過敏な反応をみせているのが、フリージアであった。

 フリージアとしては、娘の第一王女、ジュリアよりも若い娘が入ってきたことも気に入らないのであろうが、根本的に性格が合わない。

 規律と伝統を重んじるフリージアに対し、アイリーンは自由奔放そのもの。

 二人は水と油。太陽と月。空と海。

 顔を会わせれば、習慣のように言い争うのであった。

 

 「なぜ、こんなに遅くなったのか、ちゃんとした理由があるのでしょうね、アイリーン?」


 一瞬で心臓を凍らせるほどの冷たい声がアイリーンに突き刺さる。

 しかし、アイリーンはその冷気までも溶かしてしまうような暖かな微笑みを向け、こう答えた。


 「根本的に、その質問は間違ってるわ、フリージア様?」


 怪訝そうに眉を寄せたフリージアに、アイリーンは自身の懐中時計を見せ


 「集合時間ピッタリだもの」


 途端に、フリージアの耳が赤く染まる。


 激しく反論しようと息を吸ったらフリージアより早く


 「ならば、咎められることは何もあるまい。そうであろう、フリージア?」


 王が、割って入った。


 この王だけは、いつもアイリーンの味方だった。


 最高権力者の王にそう言われてしまえば、フリージアも口を閉ざすしかない。その代わりとばかりに、フリージアは人を殺せそうな鋭い視線をアイリーンに向けた。しかしアイリーンはそんな視線も涼しい顔で受け流し、優雅な動作で腰を下ろす。


 

 「さぁ、食事としよう」


 王の静かな言葉と共に、朝食会が始まった。





 読んでいただき、ありがとうございました。

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