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最も美しいドレス



短いです。

そしてギリです。


でもこれからは仕事が落ち着きそうなので、次回からはもうちょいマシになるかと!


ではどうぞ!






 ぶるっと体を震わせて、セオは目を覚ました。


 (……寒い)


 馬車の天上に空いた穴を見れば、小さな白い粒が空から落ちている。

 セオが眠りについている間に、雪が降りだしていたようだ。


 (そりゃ寒いよね……)


 陽はすっかり沈み、辺りは真っ暗だ。ガタゴトと馬車が大きく揺れていることから、もう森には入っていると思われるが、こう暗くては今どの辺りに来ているのか分からない。


 セオは足元に転がっているランプに火を灯すと、懐から銀の懐中時計を出して時間を確認する。


 20時55分。


 馬車に乗ったのが11時くらいであったから、そろそろ着いてもいい頃だ。


 セオはバランスをとりながら、御者台に近づくとゼペットに声をかけた。


 「もうすぐ着きますか?」


 ゼペットは頷くと、前を指差す。

 目を凝らして闇を見れば、微かな光が見えた。


 そのまま5分ほど進み、やがて馬車は一軒のこじんまりとした小屋に到着した。


 看板も何もない、一見普通の山小屋のような建物。こここそが、黒薔薇の天敵、仕立屋の住まう場所であった。


 正直、こんな所に腕の良い仕立屋がいるなど、誰も思わないだろう。というか、自分以外に客などいないのではないだろうかと、セオは思ってしまう。


 (まぁ、好都合なんだけどさ)


 独り占め状態なら、多少無理な注文も言いやすいし、「マリアンヌの服を仕立てている」なんて噂も立たないのだから。


 セオは馬車から降りると、小屋のドアをノックする。


 返事はない。しかしカチャン、という鍵の開く音がした。許可を得ることもせず、セオはそのままドアを開けた。


 部屋に入って一番最初に目に入ってくるのは、こじんまりした小屋には不釣り合いなほど立派な暖炉。すでに火が灯されており、部屋を暖かく照らしている。暖炉の前には安楽椅子が置かれ、ゆらゆらと揺れている。その上で瞼を下ろしている老人に、セオは微笑み掛ける。


 「こんばんは、楼。言われた通り、ドレスを引き取りに来ました」


 ロウはゆっくりと瞼を上げると、灰色の瞳にセオを映した。

 顔には深い皺が刻まれ、髪も眉も睫も白くなった老人。しかし瞳だけは衰えを知らず、品定めをするように鋭くセオを見据える。


 「遅かったな」


 「引き継ぎ等あったので」


 「アレは?今日はいないのか?」


 「『アレ』じゃなくてゼペットさんです。彼なら、今馬を留めてます」


 セオはここへ来る時必ずゼペットを指名しているので、当然楼もゼペットを知っていた。そして楼はゼペットに対して、良い印象を持っていないようであった。


 「ふん。お前はアレの本質を見抜けていないだけだ。アレは決して善人ではない」


 これもいつも通りの言葉。


 セオは思わず溜め息をついた。


 (善人とか悪人とか、そういう問題じゃないと思うんだけど)


 ただ、こうなってしまうと楼は引かない。それは今までの経験で分かっていたので、セオは諦めて本題に入ることにした。


 「早速ドレスを見たいんですが」


 「……こっちだ……お前はここで待っていろ」


 丁度ドアを開けて入ってきたゼペットに、楼は冷たく告げる。

 ただ、ゼペットも慣れているのでそのまま頷いた。


 セオは楼に連れられ、暖炉横のドアから地下へ降りて行く。


 地下へと続く階段には明かりがなく、楼が手に持つランプだけが頼りだった。壁は土が剥き出しで、湿った土の匂いが充満している。人によっては苦手かもしれないが、セオはこの匂いが好きだった。何だか冒険が始まるようで、ワクワクしてくる。


 楼が立ち止まる。

 どうやら地下室へたどり着いたようだ。


 カチャン


 ギイイイイィィィ


 開かれたドアの先は闇。

 楼は躊躇うことなく中に入る。セオは入らず、楼が部屋の明かりを点けるのを待った。


 ジュッという小さな音と共に、世界が色を取り戻す。


 その明るくなった部屋で、セオが見たものは――


 「わぁ……」


 思わず、セオは声を上げていた。


 

 色はマリアンヌの髪と同じ、漆黒。艶やかな表面は光を写し、全体に散りばめられた真珠は、まるで星のように煌めいている。大きく開いた胸元は、レースで縁取り上品にカバー。上半身はタイトだが、キュッと絞られた腰から先はボリュームがあった。肩から手の甲までを覆うのは、薔薇の刺繍を施したシースルー。刺繍糸には光る素材を混ぜてあり、光を受けるとキラキラと反射した。


 セオが今まで見てきた中で、最も美しいドレスだった。


 黒薔薇の名に相応しいドレスだった。


 何せ、セオが主人の為に3か月もかけてデザインしたドレスだ。


 描いた当初は(実現可能か?)と不安になったりもしたが、今、目の前にセオが描いた通りのドレスが存在している。


 いや


 「……ちょっとだけ、変えられました……?」


 セオがドレスから目を離さずに、楼に問う。

 楼は目を伏せて答えた。


 「……あぁ……『胴体部分は光沢のあるシルクで』ということだったが、そうすると折角の真珠が目立たなかった……光り具合が似ているためだろう……シルクの光沢を抑えるために、胴体部分には普通の糸で薔薇の刺繍を施してある……どうだ?」


 どうだ?という問いは、この場合意味を成さない。

 刺繍は直接生地にされており、「気に入らない」と言ったとしても、最早どうすることも出来ないのだから。


 セオはドレスに触れた。ヒンヤリと冷たく滑らかな生地は、まるで水面のように光を映していた。艶やかなシルクだけでは、確かに光を放ち過ぎているかもしれない。


 「……俺の見立てが甘かったですね」


 胸に溢れる悔しさを、セオは言葉と共に吐き出した。事実だから仕方がない。


 「……ありがとうございました。最良の判断だったと思います」


 次こそは、という決意と共に、セオは楼へ感謝の言葉を告げる。

 楼は眩しいものでも見るように目を細めた。


 「……満足できたようで何よりだ……支払いは?」


 セオは懐から袋を取り出した。何の飾りもない、質素な袋だ。重いものでも入っているのか、袋は縦に伸びていた。


 楼は受け取ると、中身を確認する。

 袋の中には、長さ20センチ、厚み5ミリの金の板。この世界に円は存在しないが、無理矢理換算するのならば100万円は下らない。それが、袋には10枚入っていた。


 「……いくら何でも多い」


 訝しげな表情の楼に、セオはニヤリと笑う。


 「ええ。ドレスと靴と装飾品合わせて、そのお値段ですから。どうです?太っ腹でしょう?」



 ゴツン!



 頭にチョップを喰らい、セオはその場に蹲ってしまう。頭の周りを小さな鳥が飛んでいた。


 「……まぁ、妥当なところだろう……いつまでそうやっているつもりだ?商談が終わってからが、お前の出番だろう?」


 「ぐぬぬ……絶対客に対する態度じゃない……」


 「何か言ったか?」


 「いいえ!なぁんにも、言ってません!!すぐに夕食の準備します!!」


 セオは慌てて立ち上がった。


 こんなことで取引を中止されては堪らない。


 セオは部屋を飛び出すと、階段をかけ上がっていった。




 人里離れたら場所に好んで住み着くような楼が、一体なぜセオと取引するようになったのか。


 楼はセオと、いや、誰とも取引をするつもりはなかった。世捨て人のように、ここで暮らしていくつもりだったのだ。だから始めは、セオを門前払いしていた。しかしあまりにもセオがしつこいので、取り敢えず家に入れた。勿論、お茶なんか出さなかった。自分が招いた客でもないのに、楼が淹れるわけがなかった。すると、セオは勝手に台所を使って自分で淹れてしまったのだ。


 「話しをするのに、お茶がないのは味気ないじゃないですか」


 そう天使のように笑ったセオに、楼は少しだけ興味が湧いた。

 どのような環境で育てば、こんなに肝が据わった者に育つのか、と。

 セオの淹れたお茶を飲み、楼は目を丸くする。この、藺草のような葉でどうやったらこんなに美味い茶を淹れることができるのか?!

 試しに料理を作らせてみたら、これまた美味い!しかも、なぜか亡き妻の料理と味が似ていて……


 一体この少年は何者だ?


 楼は、この少年を知りたいと思った。


 手離してはならないと感じた。


 だから、取引を了承した。


 様々な条件付きで。



 その条件の一つが『この小屋に滞在する間の食事を作ること』。



 階段を駆け上がりつつ、セオは思った。


 (『何でもする』なんて言わなきゃよかった!!)


 









果たしてこの作品に『シースルー』とかの単語を入れても大丈夫か本当に悩んだんですが、これ以外に表現できなかったんです。許してください……




次回はついにマリアンヌサイド!


果たしてアンナの命運は如何に!!


著者にもわかりません(笑)



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