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孤高の狂戦士-Ber Ser Ker-  作者:
第一章 混沌は壊滅と新生を招く
7/17

逃れた真実

    24


(11月28日 14:55)



部屋に戻ると、部屋の隅に置いてあったはずのホワイトボードが、移動して部屋の中央付近の壁に寄っていた。


その前には塩中と、オフィスチェアにあぐらを掻いた綾部の姿。そして護身具の梱包が済んだ『ルーレット』の面々が、興味本位で今から何が起きるのかとボーっと眺めていた。



「王子様気取り?」



「黙れ」



塩中の冷かしをあしらい、亜美をソファへ寝かせる。



「さて、と。準備は出来てるな綾部」



「もち。このとーりっ! 機動戦士☆朋にゃん始動だぞえ」



日曜の朝やっている魔法少女のアニメキャラ並みに意味の分からないポーズを決めると、綾部はおでこに引っ掛けてあったゴツいゴーグルを目の位置へと運んできた。そしてフレームにあるスイッチを押すと、ウィン、とまるでpcの画面が点くように赤い光が灯る。


相変わらずオフィスチェアにあぐらを掻いてホワイトボードに照準を合わせる綾部。



「はいはーい。んじゃ頼むよー」



寺地は、ポン、とまるでスイッチを押すかのように綾部の頭に手を乗せる。そしてそれを知ってか知らずか置かれたと同時にゴーグルのレンズ上部に取り付けられた小さなもう一つのレンズから、強い光が放たれる。それはまるでプロジェクターのように作動し、目の前のホワイトボードへ映像を映し出す。


それは複数のウィンドウに分かれた映像だった。『LU LA LA』付近のマンホールを映す映像と、笹川児童公園を映す映像だ。


笹川児童公園では、10人ほどの男達が無残な姿で倒れている映像。マンホールには何の変動もなかった。



「早送り」



寺地はそう言いながら綾部の頭をもう一度ポンと叩く。



キュルルルと、映像が早送りされる。すると、笹川児童公園に、複数人の黒づくめの人間達が姿を現すのを見た。



「再生」



再び、ポンと頭を叩く。まるで、本当にスイッチのうように。遊ばれている事も気づかず、綾部はふむふむと言われた通りに作業をする。



黒づくめの人間達は、死体を運び、証拠を隠滅してその場から消えた。



「何らかの情報操作が行われている、か。まあ珍しい話じゃないか。組織間のいざこざの処理ってことは、『ノウズ』が関わってやがるな」



「しかもこの対応の早さ…、連中は最初から全て“見ていた”ようですね」



喜市が横から言葉を挟む。



「だろうな。あそこは川橋町全ての“情報”、世間で流れる些細な噂から町長の家の金庫の番号まであらゆる情報をリアルタイムで習得して管理する機関だからな」



はい、また早送り。と寺地はポンポンと急かすように綾部の頭を叩く。



すると、マンホールの映像に変化が起きた。マンホールから、寺地と塩中、そして喜市が出てきたのだ。しかしそこは停止せず、そのまま早送りを続けさせる。


そして、再びマンホールの映像に変化が起きる。蓋が開かれ、中から血まみれの亜美が出てくる所だった。普通に見ていればまるでホラー映像だ。



「再生」



ポン、ともはやお決まりのように叩く寺地。映像の亜美は、マンホールから這い上がると、立つ事もなくその場で倒れ込んでしまう。亜美は、倒れ込む直前までまるでもがき苦しむように頭を抑えていた。



「この状況から察するに、また昨日の症状か」



「記憶の拒絶、ですか?」



喜市が反応する。



「そう、だな…。コイツは二年前の出来事を思い出そうとすると激しい頭痛に襲われた。つまり、コイツは二年前の一部の記憶を失っている、という事だ」



「へえ…でも、良かったじゃない。『墨影』にやられたでもなく、瀕死なワケでもない事が分かったし」



塩中が、引き出しからタオルを一枚出し、洗面所へと向かう時に言ってくる。



「…だな。よし、もういいぞ綾部」



最後に軽く頭を撫でて終了を促す寺地。シュン、と突然テレビを切ったように映像が消え、綾部のゴーグルからも光が消える。


ゴツいゴーグルをおでおへと運ぶ綾部は、何故か疲れたような顔をしていた。



「なんだか頭が痛い希ガス…」



「おお! まさかお前も過去に思い出したくないトラウマが!!」



「表面的な意味で」



「それはあれだよ、お前馬鹿だからだよ」



「てらっち、今『SSQ』を開発した“ガットクォリティ”以外のゲーム会社敵に回したお」



「おー怖いね怖いねー」



わざとらしくおどけて見せる寺地。綾部は腑に落ちないといった顔で頭を片手でさすりながら、オフィスチェアに座ったまま、片足で床を蹴って移動する。


それを見ていた『ルーレット』の面々も、いつの間にか興味が薄れたらしく、各々ゲームをしたりテレビを見たりと好きなことをしている。



「お前ら…一応俺らは『墨影』っつーここらじゃ最強を謳う武力集団敵に回してんだから、ちょっとは緊張感という奴をだな…」



「ギター抱えてなに言ってんだよ」



「それを言っちゃおしまいだよ篠崎くん」



篠崎と呼ばれた男は、寺地を無視してゲームに没頭する。



「んじゃ、油断は出来ねーから、綾部は引き続き周りの監視頼んだわ」



寺地は言うだけ言うと、カチャカチャとギターを弾き始める。それが緩やかなBGMとなって、『ルーレット』の平凡な日常が訪れる。


洗面所で濡らしてきたタオルで亜美の顔や腕、彼女の肌を念入りに拭き取る塩中。


喜市は梱包された護身具を小分けにして運び出せるようにする。


綾部はふてくされながらも、ゴーグルを目の位置へ引っ張って監視しながらテレビを観ている。



「平凡…これでいいのかねえ」



言いながらも、寺地は演奏を続けた。


    25


(11月28日 15:30)



「っと…まだ起きねえのか、ソイツ」



寺地は、ギターの弾きすぎで指先にマメが出来たことを少し気にしながら、ソファの近くで亜美の看病をする塩中に問う。



「まだよ。でも、相当表情が穏やかになってきた」



寺地は、ギターを床に置き、立ち上がって上から覗くように亜美の顔を観る。



「コイツ、一部じゃクソが付くほどの人格破綻者って言われてるけど、寝顔を見るだけじゃそんな感じはさらさらねえな」



現在、塩中が取ってテーブルの上に置いてあるので、メガネはしていない。



「寝顔はその人の本当の顔を映すっていうしね」



「へー。じゃあ俺は相当紳士的でクールな顔してんだろうな」



「それ、どこで笑えばいいの?」



「一から十まで大爆笑してやってください」



次に寺地は、ニュース番組をうつらうつらと観ている綾部の元へ行く。



「おい機動戦士。異常はないか?」



「ん~…ん?」



どうやら半分眠っていたらしい。ゴツいゴーグルを付けているせいで、それが全くわからなかった。



「ほあ、メールが着てる」



「メルマガですね、分かります」



寺地は冷かしに即答するが、どうやら違うようだ。ゴーグルのフレームに取り付けられた数個のボタンを自在に操る綾部は、まるで片手でカメラを撮っているように思えた。



「『ノウズ』から返信が来てる」



「なに? お前、『ノウズ』に情報の開示要求したのか?」



「え? 私、オペレーターやって何か分からなかったり新しい情報欲しい時いつも使ってるお」



「サポートセンターですか…?」



「いえす!!」



「『ノウズ』ってのは情報の開示要求をされた場合、その代償として開示要求をした側の情報を多かれ少なかれ引き抜かれるんだぞ?」



「え、どうやって」



「あのな、今どきアドレスや電話番号が分かればそこから信号を発信している機器を乗っ取る事だって出来るんだぞ」



「いやそれは知ってるんだお。私のpcは特殊だからね、プロテクトにプロテクトを重ねてガッチガチにしてるから外部からの無線接続なんて不可能に程近いのだぜ?」



「…ガッチガチでも、ちょいとツボをつつけばヒュルヒュルと解けちまうんだぞ? なにせ、『ノウズ』のトップは曲者(くせもの)だからな」



「? てらっち、知り合いなの?」



「ちょっと…な」



忌々しそうに目をそらす寺地。その次に、寺地は送られてきたメールの内容を問う。



「ほいほーい」



カチ、カチとボタンを押すと、近くにあった壁にゴーグルの内側に映し出されている画像が射影される。自称『機動戦士☆朋にゃん』が始動する。



「『「墨影」の現在の中核たる人物の名前:田中 省輔』か」



「え、これだけ?」



「『ノウズ』ってのは、余計な情報の漏洩を嫌うから、質問に沿った正確な解答しかよこさないんだよ」



「前々から思ってたけどケチくせ~」



うえ~と綾部は顔を歪ませる。



「でも、よくやったぞ綾部」



「へ?」



寺地の意外な反応に、綾部は少し首をかしげる。



「現状、俺達『ルーレット』は戦力じゃあ『墨影』に勝てない。ってことは、内側から…つまり、奴らの核となっている人物を潰す事で自然消滅させる。これが今一番良い方法だ」



「でも、この田中っていう人、『墨影』のリーダーじゃないの?」



「いや違う。俺は今の『墨影』のトップの名前を知っているからな。それに、あそこは昔から知能を持たずに力だけに特化した組織。必ずトップには、何かしらの“障害”を持つ人物を任命すると聞いた」



「“分裂”した今、そんな事してたら逆に不利なのにね」



「伝統を大事にする奴らなんだろうさ。それから自然と、『墨影』にはその長となる者と、頭脳となる者の二人を決める掟が出来たらしい」



「ようは、その頭脳の人を倒しちゃえばガラガラドッシャーンなワケね」



「つまりはそういうことだ」



寺地は適当に答える。


その時だった。



「て、てててててててらっちッ!?」



珍しく綾部が慌てる素振りを見せた。寺地は怪訝な視線を向けるが、カチカチとボタンをいじり回していて何をしているのかまるで分からない。



「何だよ」



「てらっち、第二の拠点てどこ?」



「ん? お前、前に行ったことあったろ。ホワイトランドの隣にある、『緑黄座(りょくおうざ)』っていう名前の、今は使われてない映画館の中だよ」



「ホワイトランドと『緑黄座』の距離は?」



「えーと…大体5メートルくらい?」



「近ッ!!」



更に焦りの色が増す綾部。



「何だ何だ? どうしたんだよ」



「あのー、てらっちさん? ホワイトランドにも爆弾仕掛けられてるのって知ってます?」



「…」



寺地は数秒硬直する。頭の中で思考を巡らせた。



(確か、一週間前、外国から拳銃や麻薬といったモノを密輸入してた貨物船が一隻、爆発物で撃墜されたって話があったな…)



しかも、その時使用された爆発物は、たった三つだったと言われている。たった三つで、貨物船が一隻大破するほどの爆弾。


それが、第二の拠点付近で爆発したら、どうなるか。



「おいおいさすがにそこまで計算してるとは思ってなかったぞ…そこまで頭が回るのか、今の『墨影』ってのは」



寺地の頬に、一滴の汗が浮かぶ。『ルーレット』の拠点は二つしかない。このバーを制圧されれば、もう一方へ逃げるしかない。しかし、もう一方の拠点を爆破されていれば、話は別だ。それこそ、『墨影』の思い通りなのだ。



「現在、脅迫電話のあった遊園地や動物園では警察が動いて三ヶ所の遊園地、二ヶ所の動物園の爆弾は処理出来ているとの事だお」



「で、未だ処理が済んでないのは…」



「ホワイトランドだけ、だお…しかも爆弾は一個も処理されてないらしいお」



「他の爆弾はカムフラージュだったってわけか…」



「ど、どうするてらっち…さすがに爆弾処理なんてウチらじゃどうにも…」



「綾部、一週間前にあった、貨物船爆沈事件、覚えてるか?」



「え? ああ、未だに犯人が捕まってないやつね…もしかして!?」



「そうだ。その可能性が高い。こんな大掛かりな仕掛け、少なくともその犯人が絡んでいると見て間違えないだろう」



それを聞くと、カチカチカチと綾部は両手を使ってフレームについているボタンを押す。



「綾部」



寺地は、次の問いを掛けようと思ったその時、綾部はもう何かしらの情報を得たようで。



「はいよー旦那! お望みのブツですぜい」



ピピ、と音を立てて『機動戦士☆朋にゃん』が再び始動する。ゴーグルから放たれる光が、壁に映像を映す。


それは、何かの図解だった。正方形や円形といった、不規則な図形が並び、それぞれに説明文がついていた。そして、その各所に使う部品の名前と薬品の名前、仕組みなどが映し出されていた。


それは、爆弾の図解だった。



「一週間前の事件で使用された爆弾の図解だお。そして、一番最初に処理された爆弾も、その次の爆弾も、これと同じモノと一致したって情報がたった今入った。これなら、処理法はわかるかもしれない」



「よし。確か、脅迫電話が要求したのは一千万…そしてタイムリミットは17時ジャスト」



寺地は、部屋の壁に備えられた丸時計を観る。それは、15:45を指していた。



「じ か ん が ね え」



「ホワイトランド行きのバスは15:53に一本で今日は終わりだお。そしてバスだったら着くまで15分。つまり、着くのは早くても16:10」



綾部は素早く情報を提供してくる。



「おいお前らッ!! って、あれ…?」



寺地は焦り、背後を勢い良く振り返って『ルーレット』の面々に呼びかけようとしたところ、もうすでにバックを背負った喜市と白柳と篠崎が立っていた。



「準備完了です。私と白柳と篠崎が解体に同行します」



「そういや喜市、爆弾とかに詳しかったっけ」



「詳しくないです。勝手なキャラ付けはやめてください」



「せっかくあんま目立たないお前のキャラを立たせてやろうと…」



「おwまwいwらwww今50分だぞw間に合うのか」



綾部が言う。寺地達は無言で部屋を飛び出していった。


綾部は、YシャツのポケットからUSBを取り出すと、ゴーグルへ接続する。



「さ、オペレート、オペレート」



小型の地図、監視カメラのウィンドウがいくつか表示された。


    26


(11月28日 16:10)



「綾部、状況は」



『警察はもう手を引いたみたい。「ここまで探しても無いのなら、脅迫電話自体が嘘だったんだ」ってね』



「まあホワイトランド自体小さいからな…白熊やシマウマ、ホワイトタイガーとかいった“白い”動物だけを集めた動物園って話だしな」



寺地は、ポケットに収めていたイヤホン型のスピーカーとトランシーバーを取り出して綾部と連絡を取る。動物園入口に備え付けられた案内図を見てもその狭さがわかる。


しかし今日は爆弾事件のせいで既に営業停止になっていた。パトカーも警察の姿も残っていなかった。まるで、廃園になったような静けさが、小さな動物園の入口にはあった。それは、日曜の午後とは思えないほどの静けさだった。


寺地は、その横手を見る。そこには、ボロボロの使われていない映画館が佇んでいた。



『ああそれと、たった今爆弾の全処理を終えたとのことで、脅迫電話で伝えられた、爆弾の個数が公開されてる』



「ホワイトランドは?」



『五ヶ所、だってさ。でも、ダントツで少ないんだおね。他と比べて。他は十個近く仕掛けられてるのに』



「その個数は全て一致してるのか?」



『うん。ぜーんぶ宣言通り』



「なら今回も宣言通りか、全く違うか」



「しかし、問題は爆弾の個数ではなく、本当にあるのか否か、という点でしょう」



「そこなんだよなあ…いくら警察でも三時間近く念入りに探して一つも見つからないってなると…」



寺地は、閉鎖されて入れないホワイトランドの入口を見る。そして、不意に隣の『緑黄座』へと視線が向く。



(『緑黄座』とホワイトランドの距離はおよそ5メートル。よって、ホワイトランドで『緑黄座』に近い場所で爆発が起きた場合、『緑黄座』も巻き込まれてしまう)



何かが引っかかる。


何だ、何が間違っていると言うのだ。



(前提が、違う。“ホワイトランドで『緑黄座』に近い場所で爆発が起きる”のではなく、もし“『緑黄座』でホワイトランドに近い場所で爆発が起きた”場合、予め脅迫電話があったホワイトランドで爆発が起き、それに巻き込まれて『緑黄座』も粉砕されてしまったと、誰もが思うはずだ)



「『緑黄座』だ。爆弾は、『緑黄座』の中にある」



それを聞いた者は全員絶句した。しかし、寺地は先に走る。『緑黄座』内部の、ホワイトランド方面に位置する部屋へ。


喜市と白柳と篠崎はそれに続いた。


    27


「俺だよ。アイツら、動き出したぞ」



白を基調としたパーカーに身を包み、そのフードを深々と被り、表情が全く読めない少女が一人、どこかの大通りを歩みながら携帯電話に言う。紫色のプリーツスカートからは、真っ白で細く美しい脚が二本伸びていた。



『報告は必要ないと言ったはずだが』



「まあそう言いなさんな。俺が連絡したのは報告じゃなくて確認のためだ」



『それならそうとサッサと済ませろ。俺様は暇じゃねえンだ』



「今回の俺の任務、爆弾処理に来た『ルーレット』を全滅させる、でいいんだよな?」



『何度も同じことを言うのは嫌いだ、とも言ったはずだが』



「同じこと、という事はそれでいいんだね。そんじゃ、チャッチャと終わらせちまうぜ」



『貴様の決意表明なンざ興味ねえ。イライラさせンな。早く済ませろ』



プツ、とまたもや一方的に通話が途切れる。“塩中は、口元を締めると、携帯をポケットへとしまう”。


    28


(11月28日 16:50)



「クソ…俺としたことがかなり手こずっちまった」



寺地は、喜市達が背負っていたバッグから取り出した道具箱に収納されていた特殊な解体具を手にし、額の汗を拭う。ここは、『緑黄座』に設けられた男子トイレの一つの個室の、トイレのタンクに仕掛けられていた爆弾を取り外し、床で解体作業をしていた。スピーカーから流れる、綾部のオペレートを頼りに、慎重に、顕微鏡クラスの作業を行なっていた寺地は、時間が経つのを忘れていた。


他の連中はそれぞれ、映画館の上映室の壁に取り付けられていたモノ、売店跡地の棚の下に取り付けられたモノ、03番シアターのスクリーンの裏に取り付けられたモノ、映画館外の小駐車場の草影に取り付けられたモノ―――と、とても大胆な位置にいくつも取り付けられていたモノを解体していた。


喜市は手際が良く、綾部の解説を一つも聞き漏らすことなく、淡々と二つも解体に成功していた。



「お前ら、オーケーか?」



寺地は、一番声の響く出入口付近で叫ぶ。



「オッケーオッケー。間に合ったわ」



白柳が03番シアターから顔を出す。



「どうにか成功しました」



喜市が売店跡地から、爆弾の基盤を二つも入れて大きくなったバッグを背負って顔を出す。



「よゆーよゆーだよ」



正面入口から篠崎が入ってくる。



「喜市が二つ、そして俺を含め三人がそれぞれ一つずつ、で合ってるな」



寺地の言葉を聞くと、誰として声を上げることなく、全員が頷く。



解体が、終わった。一時間近い時間を掛けて解体作業が、終了した。



『解体、乙! でもまだ取残しがあるかもしれないから一旦その場から離れた方がいいお』



「だそうだ。そんじゃ、拠点に戻るぞ」



寺地は撤退を促し、正面の出入口を出る。それに三人の男が続いた。


しかし、寺地達の足は、外に踏み出す事はなかった。正面の出入り口から入ってきた篠崎の背後から、もう一つの人影が入ってくるのが分かった。


それは、白いパーカーを着て、フードを深々と被っていたので顔は分からない。しかしフードから伸びる黒い長髪に紫色のプリーツスカートから伸びる日本の白く細く長い足からして、その人物は女性である事がわかった。



「はあーい、死に損ない共」



「誰だ、お前」



「うおっ!」



篠崎は、背後の人影に驚愕を露わにして寺地の側へと近寄る。



「そんじゃ、死ね」



ヒュン、と少女は手のひらサイズのガチャガチャのカプセルのような球体を放ってくる。カツ、と寺地の右方向の床へと着弾すると、フッ!! と眩い光が迸り、ドンッ!! という爆音と共に床一面を吹き飛ばす。



「っぶねええ!!」



寺地達三人は、俊敏にその場から後方へと飛び、爆発を回避する。



「ッヒッヒッヒ」



不気味な笑い声を上げながら両手のウチにカプセルを握り、見せびらかすようにぷらぷらと手を揺らす。



「テメェが爆弾魔か」



「敏感な男は嫌いじゃない、かな」



二つのカプセルは放たれる。それぞれ、寺地、白柳の側へと着弾すべく、宙を舞い、一瞬という時を動いて目標へと近づく。



「クソッ!!」



寺地は、そのまま後ろへと走る。



「お前ら!! 分散だ。背負ってるそれの中には護身具も入ってるからそれを使え!!」



ギリギリ三人の耳に届くか届かないかほどの間隔で、二つのカプセルが爆発を起こす。ドッ!! と轟音を立て、ガラスや木製の柱などを片っ端から砕いていく。もはや正面玄関は崩れ、今にも天井が落ちてきそうな勢いだった。


しかし、どうやら寺地の声は届いていたらしく、喜市達三人はそれぞれ別々の場所へと逃げる。



「疲れるぜまったく」



寺地は、背負うバッグの側面にあるファスナーを片手で開き、そこから適当に護身具を一つ取り出す。梱包を剥がし、床に捨てた。



「さあて、何が出たかな…発煙筒か。ま、使える」



寺地は、一緒に梱包されていたマッチを擦り、円筒形の金属の中に放り込み、そして爆弾魔のいる正面玄関へ、置いた。


モワモワと、色の付いた透明度0の煙が、あっという間に正面玄関を埋め尽くす。しかし、出入口のガラスが半壊していたこともあり、煙は若干薄くなる。しかし視界は晴れない。



「フン、この程度で俺を振り切ったつもり?」



フードを被った少女は、三つのカプセルを放る。ボン、という爆音が三回続く。その爆発と爆風が、膨れ続ける煙をかき消すが、次々と生み出される煙がそれを補うように増す。



「なるほど、ね」



少女は、煙を晴らすタメに爆弾を放ったのではない。一度、一部の煙を消し、どこからその煙が供給されているのかを確認するために放たれたモノ。そして、少女はそれを捕捉した。



「そこか」



ポイ、とたった一つのカプセルを放り投げる。発煙筒が置かれている場所へ向かって。


ドンッ!! と、それは床を抉り取り、そして発煙筒を粉砕する。


次の瞬間、ヒュウウンとタイミング良く風が吹き荒れ、館内の煙を全て取り除く。


しかし、晴れた視界の中、すでに敵となる四人の少年たちは姿を消していた。



「かくれんぼ? 面白そうじゃねえか」



少女は自らのフードに手を掛け、そしてそれを取る。ヒュゥゥゥウウウウ―――と寒いような風が吹き、所どころ小さな渦を巻きながら煙は一気にかき消される。黒く長い、日本人らしい髪が風に揺られる。少女は、髪を片手でかき上げながら、腰に付いた巾着袋に手を忍ばせ、カプセルを取り出す。



「派手に散りな。人肉花火だ」



    29


(11月28日 17:05)



「嘘だ」



綾部は、『LU LA LA』の二階にいた。しかし、二階に備え付けられている機械は一切使っておらず、丸いオフィスチェアに座り、ゴーグルに接続されたキーボードを打っている。


この無機質で薄暗い部屋にいると集中力が段違いなのだとかなんとか。


そこに座る少女は、割に合わず焦っていた。彼女が観ているのは、廃れた映画館『緑黄座』の監視カメラの映像。色の付いた透明度0の煙に映像は遮られていたが、それが晴れて綾部も現状を確認すべく、現場の解析に入る。


しかし、綾部が観ている映像には、信じ難いモノが映っていた。煙の晴れた正面玄関に立っていた、白いパーカーの少女の顔に、綾部は見覚えがあった。先ほどまでこの『LU LA LA』で行動を共にしていた少女だ。


塩中 優希。綾部は、ゴーグルのレンズの端に一階の映像を映す。案の定、一階に塩中の姿はなかった。それもそのはずである。塩中は、寺地達が爆弾の解体に向かった直後、レンタルDVDを返却しに東地区まで行くと言って出ていった。それきり、帰ってきてはいなかった。



「嘘だよね、優希ッ!!」



綾部の頬に、一筋の汗が垂れる。


映像に移る塩中は、ガチャガチャのカプセルのような、手のひらサイズのプラスチックを放り投げ、いくつもの爆発を起こしている。



『お…あや、―――あいつ。。な』



耳にはめた小型のスピーカーから、寺地のノイズ混じりで全く聞き取れない音声が届く。綾部は、ゴーグルのフレームに取り付けられたボタンを手順通り押していく。


すると、乱れた電波が正され、音声の送受信が可能になる。



「てらっち…その…」



『おい綾部。あの爆弾魔の詳細をよこせ!! すぐに!!』



寺地は、声を張り上げて急かす。綾部は、言い淀むが、寺地は促す声をやめない。



「ゆ…き」



『何だ? 聞こえねえぞ!!』



「優希…塩中、優希」



『あ?』



「今そこで、爆弾を振りまいてる奴は、塩中 優希…だよ」



『…』



寺地は絶句しているのか、返答がなかった。監視カメラの映像を見ると、どうやら影から塩中の姿を伺っているようだった。



『…確かに、塩中だ』



寺地の、呟くような声が返ってきた。綾部はそれを聞くと、歯を強く噛み締める。



「なんで…優希がッ」



しかし、その時だった。スピーカーから放たれた寺地の言葉は、綾部の心情を覆すに足るモノだった。




『“でもアレ、塩中じゃねえぞ”』



「え…」



綾部は、キーボードから手を浮かせ、しばらく硬直してしまう。



「てらっち…なに言って―――」



『なーるほどな。そういう事か』



寺地の、何かを汲んだような言葉は、綾部に対して更に疑問を生むことになる。



『おい、そっちに塩中はいるか』



「だから何言ってるのてらっち。いるわけないでしょ」



『そんなら塩中はどこにいる? いや、どこに行くって言ってた』



「え…レンタルDVDを返すって言って東地区に向かうって言ってはいたけど…」



『そんなら、東地区中の監視カメr―――』



ドンッ!! という爆音が、寺地の声をかき消し、そして通信をも絶ってしまう。それはもはや、ノイズが混ざって声が聞き取りづらいというのではなく、完全に音声が遮断されたように、全くの無音だった。



「てらっち…てらっちッ!?」



返答はない。寂しげな無音がひたすら続く。綾部はすかさずキーを叩き、監視カメラの映像を後いくつか画面に追加する。


カメラの映像は生きていた。しかし、数ヶ所のカメラは爆発でやられていた。“塩中”は、ゆっくり、ゆっくりとまるで隠れる獲物を楽しんで追うように、恐怖を煽るようにして進み、探す。


寺地は、爆風に押されるように走り、01番シアターの中に入っていくのが映っていた。01番シアター内のカメラ映像を見ると、客席の影にしゃがむようにして隠れる寺地の姿があった。バッグの中身を漁り、逆転の手立てを考える。


しかし、綾部の頭には疑問だけが残った。寺地の言った言葉。


『ここにいるのは塩中であって塩中でない』。



(どういう事だよてらっち…)



通信手段が断たれた今、綾部にオペレートは不可能である。やるべきことは、出来るだけ情報を収集しつつ、通信手段を確立する事。


Yシャツ少女はキーを叩く。出来る限りの事を出来る限りする。それが、『ルーレット』のオペレーターとしての役目である。


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