08:残念?
帰りにスーパーヘ寄った瑞穂と廉。さすがに閉店1時間前だと、生鮮食品も少ない。とりあえず残った商品をカゴの中へ詰め込みながら、頭の中で献立を思案中の廉。
「瑞穂さん、好き嫌いってあります?」
「特に無い。まあ、強いて言うなら・・・」
顎に手を当て考える瑞穂は、ふと何かを思い出したようだ。
「スッポン鍋は苦手だな。以前興味本位で店で注文したとき、鍋の蓋を開けたら・・・ぶつ切りにされたスッポンの手が、パーの状態で汁から突き出ていてな。食欲が失せた」
「そうですか・・・」
普通の家庭じゃ、スッポン鍋なんて食べねぇよ。廉はなんとなく想像して、げんなりした。
大量の挽き肉に玉ねぎ、人参。どうやら今日は、ハンバーグのようだ。会計を済まそうとレジに向かった廉に、瑞穂は何かを差し出した。その手には、諭吉さんが1枚。
「瑞穂さん?」
「“家族”だろう?ならば、私がお金を払ってもおかしくはない・・・だろう?」
瑞穂なりの気遣い。“お言葉に甘えて”と、素直に廉も受け取った。
案の定、今日の夕飯はハンバーグ。そしてポテトサラダに、デザートはスーパーで瑞穂がねだった杏仁豆腐。それぞれに舌鼓を打った瑞穂は、テレビの前のソファで寛ぎながら、廉が皿洗いを終えるのを待っていた。
「瑞穂さん、お風呂沸いてますんで、先どうぞ!」
「あ、ああ・・・」
本当は直ぐにでも、廉の秘密の“趣味”を披露して欲しいと思っていた所だが、それはお風呂の後までちょっぴり延期に。
「ふぅ・・・」
シャワーを浴び、湯舟に浸かる瑞穂は、心地良い湯の温もりに癒されていた。
だが、いつまでも湯舟に浸かっているつもりは無い。風呂から上がり、手早くタオルで水滴を拭う・・・と、自分が着替えを持って来ていない事に気付いた。
「しょうね〜ん!」
皿洗いを終え、麦茶を飲んでいた廉の耳に届いた瑞穂の声。何事かと脱衣所へ向かうと、バスタオル一枚の瑞穂。
慌てて視線を逸らした廉だが、もう遅い。バッチリと瑞穂の姿を見てしまった為、顔は真っ赤に染まってしまった。
「な、なんて格好してるんですか!早く服着て下さい!!」
「おお、着替えたいのは山々だが、着替えを忘れてな。私の部屋のベッドにあるから持って来てくれ」
「わかりました」
言われた通り、廉は直ぐに着替えを取りに。
瑞穂の部屋に入ると、姉の残していったベッドや机が目に付く程度のシンプルで殺風景な光景が、廉の視界に入ってきた。直ぐさまベッドに視線を配れば、瑞穂の言う通り、枕の横にちょこんと着替えが準備されていた。ただし、ピンクの下着のみ・・・
「瑞穂さん、着替えを持って来ました・・・」
「おお、スマンな・・・あれ、私はこんなものを置いてたつもりはなかったがなぁ」
ドア越しに廉から渡されたのは、自分が用意していた下着と、見覚えの無い薄手のパジャマ。
「姉が置いていった物です」
「私は別にこれだけでも構わないんだが・・・」
「俺が気にします!ったく・・・」
着替えを渡した廉は、そそくさとリビングへ戻って行った。
瑞穂も着替えを済ませ、廉のいるリビングへ。
「いやあいい湯加減だった!」
「少し熱くなかったで・・・」
「ん、どうした?」
テレビから視線を瑞穂に向けた廉、フリーズ。直後、またしても顔を真っ赤にして瑞穂から視線を外した。しかし瑞穂には、全く理由がわからなかった。
「せ、せめてボタンくらい留めて下さい!!」
下はきちんと履いているものの、上はボタン全開のパジャマ姿の瑞穂。当然、パジャマからはピンクのブラが惜し気もなく晒されている。
「ボタンを留めたら暑いじゃないか!」
「もうっ、ブ、ブラが見えてるんですっ!!」
「刺激的だろ?」
悪びれた様子もなく、瑞穂はニヤニヤと廉をからかった。
「少年、慣れろ!」
きっぱりと言い切った瑞穂。どうやら自分のスタンスを変えるつもりは無いらしい。
「だったらガン見しますよ!」
半ばやけくそになった廉は、ガバッと瑞穂に向き直った。
細身の肢体はやはり無駄な“脂肪”が無く、お腹もすっきりと引き締まっている。ただ残念な事に、胸にも余分な脂肪が無かった。
“まな板?”
“残念な胸”に、廉は恥ずかしさよりも“哀れみ”の視線を瑞穂に向けた。
「・・・・・・」
「そんな悲しそうな瞳で見るな・・・」
瑞穂にも、自覚はあるらしい。
「ま、まあ気にする事無いと思いますよ?」
「でも、やはり男なら“小さい”よりも“大きい”方が良いだろ?」
「好みの問題じゃないですか?」
「少年は、どっちが好みだ?」
「ん〜やっぱり多少は“あった”方が・・・」
数分後・・・
「瑞穂さ〜ん、機嫌直して下さいよ・・・」
「・・・フン、どうせ私なんか」
部屋に篭る瑞穂を宥めるのに、廉は小1時間を要するのだった。