04:朝の一幕
「瑞穂さ〜ん、朝ですよ〜!」
・・・・・・・・・
「瑞穂さ〜ん!」
・・・・・・
「会社じゃないんですか〜?」
・・・
「参ったな、朝ごはん食べてもらいた「おはよう少年!今日はいい朝だな!!ん、どうして顔を逸らす・・・ああ、これか」」
扉を勢いよく開けた瑞穂は、瞬時に顔を背けた廉に疑問を投げかけ、自分の姿を見て納得。
「目の保養になったかね?」
「さ、さっさと着替えて下さいっ!!」
耳まで真っ赤になった廉は、ギクシャクしながらリビングヘ戻って行った。
「ふーむ、少し刺激が強かったかね・・・」
と、下着姿の瑞穂は悪戯っ子の笑みを浮かべた。
着替えを済ませた瑞穂がリビングヘ向かうと、既に二人分の朝食が並び、学生服姿の廉が、ぎこちなく座っていた。
「おや、待っててくれたのか。すまんな」
「い、い・・・・え?」
瑞穂の姿を見た廉は、疑問系で硬直。目の前にいたのは、昨日のラフなTシャツ姿でも、つい先程見てしまった下着姿でもなく、黒スーツにパンツスタイル、赤ぶちメガネのインテリ美女姿だった。
「ん?なにかおかしいか?」
「・・・瑞穂さん?」
「なんだ?ハハーン、さては惚れたな!?」
冗談のつもりだったのだろうが、予想に反して廉は口をパクパクさせていた。
「なんだ、反応がつまらん。それより、朝飯食べていいか?」
「あ、ど、どうぞっ!」
ようやく我に返った廉の返答を聞き、準備された朝食に箸を付ける。
「んん、んまい!!」
感嘆の声を出した瑞穂に対し、安堵の表情を見せた廉だが、昨夜の化け物のような食欲を見せた彼女に、若干の不安を残していた。
というのも、昨夜は歓迎会をかねての焼き肉パーティーをしようと考えた廉は、特売セールで国産牛肉を確保。総重量約2キロと大量に買い占めて“余ったら姉にでも分けてやるか”などと呑気に考えていた。
しかしながら、あの大量の焼き肉は、一夜にして消滅。というのも、あの細身の瑞穂が、まさかの1.5キロを胃の中ヘ。廉とて500グラムを処理したのだが、代償として胸やけを起こした。しかも、食後にプリンを5個食べるという化け物じみた事をやってのけた瑞穂に対し、
“今月は、食費だけでいくら遣うのだろうか”
と、内心不安になっていた。
「ふぅ・・・美味かったが、少し物足らんな」
「と思って、お代わりの準備も出来てます」
昨夜の事を知っているからこその、順応な廉の対応に、瑞穂は口角を少し吊り上げた。
「それじゃ、お言葉に甘えて・・・」
結局、朝食だけで鯵の開きを三枚、味噌汁五杯、ご飯を丼で二杯追加した瑞穂。“朝からよくそんなに食えるな”などと思いながら、野菜ジュースを一気に飲み干す廉。
「ふぅ、ご馳走様。少年、朝から野菜ジュースだけでは体がもたんぞ!」
「いや、昨日の焼き肉で胃がもたれて・・・」
「やれやれ・・・」
呆れ顔の瑞穂だが、むしろ廉の方が、呆れて何も言えなかった。
「おっと、もうこんな時間か・・・そろそろ行くとするかね」
「あ!瑞穂さん、これ・・・」
「ん?」
廉が差し出したのは、丁寧に包まれた四角い箱状の物体。
「お弁当です、足りないかも知れないですが」
「なんと!いやぁ少年はいいお嫁さんになるな!」
「男ですけどね」
嬉々として弁当を受け取る瑞穂。心なしか、足どりも軽やかだ。
「さてと、俺も行かなきゃ」
予め用意してあった指定カバンを手に取り、戸締まりの確認をする廉。そこでふと、瑞穂に視線を向けた。どうやら聞いてみたい事があるみたいだ。
「どうした?」
「そういえば、瑞穂さんのお仕事って?」
「あー・・・言ってなかったか。ん〜そうだな、実際見てもらった方がわかりやすいんだが・・・」
“ふむ”と間を置いて、瑞穂はなぜか、廉の終業時間を聞いてきた。わけも判らずとりあえず時間を教えた廉に、瑞穂はポーチからメモ帳を取り出し、ボールペンで何かを書き始めた。
「これ、私の携帯番号だ。学校が終わったら、電話してくれ。迎えに来るから!」
「はぁ・・・」
イマイチ理解出来ていない廉だが、メモ紙を受け取り支度を終える。
「さて、行こうか?」
「そうですね」
玄関の扉を開ければ、雲一つ無い青空が“今日も暑いぞ!”と、語りかけているようだった。