02:家政婦男子誕生?
なんだろう、上手く丸め込まれた気がする。と、廉は思った。事実、狩谷はこの家で暮らす事になんの躊躇いも無いようで、廉の作ったオムライスをガツガツと胃袋ヘ運んでいる最中だ。狩谷が家に来て1時間、遅めの昼食を作るべくキッチンヘ向かうと、意味無く狩谷もついて来た。
「手伝おう!」
廉のサポートをかってでた狩谷。廉も素直に厚意に甘えた・・・はずだった。
ガチャン!
「・・・・・・」
ボンッ!!
「・・・」
パリーン!!!
「えーっと・・・と、とりあえず座って待ってて下さい」
「・・・すまない」
廉とて、難しい事を頼んだつもりはなかった。最初は卵を割ってもらおうと頼み、卵は加減無しの力で、ガラス製のボウルもろとも大破。次に頼んだのは、フライパンに油をひいて、温める・・・・・・最初に上手く点火出来なかった事を忘れ、油をフライパンヘ投入。そこで火がついてないことに気付き、再び点火=爆発音。
多少壁を焦がした程度で済んだ。
そして最後に、食器棚から皿を出してもらおうとお願いし、皿を手に取った狩谷。ここまでは良かったのだが・・・・・・皿は狩谷の手を離れ、無情にも・・・・・埋め立てゴミと化した。
一通り頭の中で回想した廉は、一つの結論を出していた。
“家事は任せられない”
と。
また、彼の性格上、こんな不器用な人間がひとり暮らしをすれば、少なからず被害が出る事は目に見えていたし、単に言えばほっとけなかったのも事実である。他人と一つ屋根の下で生活するという事に躊躇いはあるものの、それ以外は対して気にはならなくなっていた。
「味、どうですか?」
「ふゅまひ(美味い)!!」
食欲を満たそうと手の動きを止めない狩谷の返答に、安堵する廉。とりあえず彼が得た狩谷の情報は、名前と歳と家事が出来ない、という事だけ。ま、後の事は追い追い聞いていこうと思った。
「ご馳走様。美味かった!」
「お粗末様でした」
麦茶を差し出しながら、視線を狩谷に向けた廉。
切れ長の双眸に違わぬ顔立ちは、“可愛い”というよりも“かっこいい”という表現が合うな。なんて呑気に思った廉は、訝し気に自分を見ていた狩谷と目が合った。
「私の顔に何か付いてるか?」
「あ、いやあかっこいいなと・・・」
「それは褒めてるのか?出来れば可愛いと言って欲しかったのだがな」
「ア、アハハハ・・・」
本気とも冗談ともとれる返答に、廉は苦笑いするしかなかった。
とりあえず、廉と狩谷は今後の事を話し合い、現在は使われていない姉の部屋を提供する事に。料理と掃除は廉の仕事となったのだが、洗濯に関しては“自分の物は自分で洗う”という廉の提案に、渋々了承した狩谷。さすがに他人(しかも女性)の衣服を洗濯するのは抵抗がある!と、何とか説き伏せた廉に対し、
「別に私は気にしないんだが・・・」
狩谷は羞恥心をどこかへ忘れてきたようだ。
PM3:00
“元姉の部屋”ヘ狩谷を案内し、対面する自分の部屋ヘ体を向けた廉。扉を開けて足を一歩踏み込んだ時
「なぁなぁ少年、この部屋は?」
と、指差す先には“立入禁止”の立て札が下がった扉。
「ああ、俺の趣味の部屋です・・・決して、扉を開けないでくださいね」
と、ニコリと笑顔を見せた廉だが、取り巻く空気がいびつで刺々しい。そんな返答に狩谷は
「なんだ見られたら月にでも帰ってしまうのか?」
とボケた。
「う〜む・・・月に帰られると困るしな、わかった。約束しよう!」
普通なら変な勘繰りをしてしまうが、追求をしないのが、狩谷瑞穂である。“りょーかい”と一言追加し、自分に宛がわれた部屋の中ヘと消えて行った。
廉も狩谷が部屋ヘ入ったのを確認し、自室ヘ入ったのだが、
「少年っ!今日の夕飯はなんだっ!?」
数秒後にはノック無しに部屋に乱入され、5分後には二人で買い出しに向かうのだった。




