終話:夜風に返事を乗せて
終話です・・・が、エピローグで完結させます。
夕方に終わった学祭も、後片付けなどが終わった頃にはすっかり日が暮れていた。瑞穂に電話を掛けた廉は、しばし正門で待ちぼうけ・・・
「・・・ふぅ・・・」
既に学友は帰り、廉はひとりぼっち。携帯を開けては閉じ、ため息を一つ吐いた廉に、落ち着きは無い。
と、再びポケットから携帯を取り出そうとした矢先、廉を照らすクルマのライト。
「っ、眩し!?」
「少年、待たせたな!」
電話して10分、瑞穂が迎えに来た。
「すみません、遅くなって・・・」
「なに、構わんさ。ほれ、乗れ乗れ!!」
ガルウィングを開き、廉を助手席に乗せた瑞穂は車を走らせた。ただし、車は家とは逆方向ヘ進んでいる。瑞穂は何も言わず、廉とて声を出さない。静かな車内だが、二人を包む空気に気まずさやぎこちなさは見えず、むしろ穏やかな雰囲気が、車内を流れている。
「さて、このまま行けば何処に着くかね?」
車を走らせ30分、ようやく瑞穂が口を開いた。
「海、ですね・・・」
「そうか、せっかくだから海まで行くか!」
「いいですね、行きましょう!!」
瑞穂の言葉にノリ良く賛同した廉。
瑞穂は揚々とアクセルペダルを踏み込んだ。
PM8:22
宮地北埠頭
さすがに十月も中頃になれば、肌に触れる風にも冷たさが混じる。澄んだ空気は手が届きそうな程に、夜空の星を煌々と輝かせている。
「ほぉ・・・綺麗な星空だな」
「ですね・・・」
二人はしばし、誰もいない堤防に寝転びながら、波の音をBGMに星空を眺めた。
互いの肩が触れそうで触れない距離。何も言わない瑞穂の手に、廉がソッと自分の手を重ねた。
「少年?」
「・・・好きです。これからもずっと、僕の傍に居て下さい・・・」
それだけ言って、重ねた掌に少し力を入れた廉。
「私を選んで、後悔はしないか?」
「しません!瑞穂さんこそ、俺を選んで後悔してませんか?」
「後悔してるなら、今頃実家に戻ってるさ。だから・・・これからも私を傍に居させてくれ、廉!」
今度は瑞穂が、重ねた掌に力を込めた。彼の名を呼んで・・・
「もう一度言わせて欲しい・・・私は、廉が好きだ!」
「俺も、瑞穂さんが好きです!大好きです!!」
廉は叫んだ。大声で叫んだ!人気の無い堤防で、互いの想いを伝えあい、そして・・・
二人は恋人になった
二人は暫く目を閉じて、波音に耳を澄ましていた。無言な二人だが、重ねた掌に伝わる温もりが、言葉以上に安らぎと喜びを伝えていた。
「・・・あ!」
「どうした?」
いきなり声を出した廉に、うっすらと目を開けた瑞穂。
「瑞穂さん、車って鍵掛かってます?」
「いや、開いてるが」
瑞穂の言葉で、廉はドアを開き、学生カバンをゴソゴソと漁り始めた。
「・・・あ、あった!」
「どうしたんだ?急に」
やれやれとばかりに起き上がった瑞穂に、廉は駆け寄って小さな箱と、細長い箱を差し出した。
「・・・これは?」
「細長い箱は、瑞穂さんをイメージしたネックレスです」
と、箱を開いた廉。中には、革紐に通された小さな藍色ガラスのロザリオ。そのロザリオには、所々に銀砂が埋め込まれている。
「結構難しかったけど、やっと納得出来る物が出来ました!」
「このロザリオも、廉が作ったのか!?」
まるで職人技ともいえるロザリオ。精巧極める一品に、瑞穂は驚きを隠せない
「七宝焼きなんです。知り合いのおじさんから教わって作りました」
意外と広い廉の交友関係。ちなみに知り合いのおじさんとは相馬の父親であり、相馬ガラス店という工務店だ。
「ちょっと、貸して下さい」
一度瑞穂からネックレスを受け取った廉は、彼女の首筋に手を回し、ネックレスを着けた。
白色外灯にロザリオは青く輝き、銀砂が一層の光を宿した。
「ど、どうだ?」
「うん!すっごく似合ってます!!」
イメージ通り・・・いや、それ以上。廉は満足に頷き、瑞穂もニコッと微笑んだ。
「そしてこれは、僕から瑞穂さんに贈る、もう一つのプレゼントです!」
「これは・・・指輪だ」
瑞穂の言う通り、廉が開けた小さな箱の中には、銀の土台に白色の丸いタイガーアイ(天然石)が組み込まれた指輪が入っていた。
そっと指輪を手にのせた瑞穂の目に、指輪に刻まれた文字が焼き付いた。
“For.MIZUHO”
“瑞穂さんへ”と刻まれた指輪。
「馬鹿者・・・お前はホントに・・・」
小さく呟いた瑞穂・・・その瞳には、うっすらと浮かぶ涙が光る。
「ああもう・・・最後に私まで泣かせやがって・・・ホントに、最高だ!」
「よかった!」
目を擦る瑞穂は、安堵の笑みを浮かべた廉を抱きしめた。
「瑞穂さん、起きてくださーい!!」
「むぅ・・・もう少し」
普段と変わらぬ朝。普段と変わらぬ瑞穂と廉・・・
「瑞穂さーん?」
「・・・・・・」
「しょうがないなぁ」
そんな二人は、
「愛してる・・・」
「!!!!」
恋人になりました。
おしまい