18:不器用な花束
PM2:00
舞台裏で準備する廉達の間に、微妙な緊張感が漂っている。ピリピリと張り詰めた空気を作っているのが・・・
「東金・・・緊張し過ぎだって」
「だ、だってもう本番だし!!」
限度が無いのかと思う程に赤みを増す東金の顔に、廉と咲はやや呆れ顔。
「あのさ、東金が舞台に立つ訳じゃないんだ。むしろ“頑張れ!!”って送り出してくれよ」
「詩織が“あがり症”なのは昔から知ってるけど、私達に任せて!ぜっったい、成功させるから!だからね、私達を信じて!!」
廉と咲の言葉に、黙って頷く東金。あまり緊張は解けていないようだが、表情はさっきよりも幾分か、柔らかくなっていた。
舞台の幕が下り、舞台裏で輪になった廉達。
「ほら、主役!!なんか一言!」
「エッ!私!?んー・・・」
高上に推され困惑する咲だが、少しの間考えて、よし!と顔を引き締めた。
「私達の団結力で、絶対舞台を成功させるぞーっ!!」
『オーッ!!!!』
気合いを入れて、いざステージヘ。パンッ!と頬を叩いた廉は、幕の下りた舞台の中央に立った。
「・・・お!」
最前列の中央に陣取った瑞穂は、幕が上がった先で廉を見つけ、小さく声を漏らした。同時に、会場全体も小さくざわめく。
「あれって、本当に男子なの?」
「うっそ!マジで綺麗じゃん」
「つか、男じゃなかったら絶対惚れてるし・・・」
予想以上の反響に、まるで自分が言われているような錯覚を覚えた瑞穂は、廉を観ながら口角を緩ませ微笑んだ。
始まって10分が経過した頃から、体育館全体の雰囲気が穏やかになりはじめた。観賞する人は、まるで自分の家でテレビを観ているように、寛ぎながら。
けして悪い意味じゃない、むしろ引き込まれそうな錯覚、起承転結のはっきりとした時代劇だから、ストーリーの流れは雰囲気でわかっているのだが、和やかなシーンでは笑みが零れ、緊迫したシーンでは、声も出さずに固唾を飲む。瑞穂とて、例外では無い。ストーリーが進むにつれて、笑ったり、ハラハラしたり・・・クライマックスには、自然と涙が零れそうな程に、瑞穂は舞台に魅入っていたのだ。
幕は下りた。なのに、
止まない拍手。
舞台は、大成功だったのだ。ステージに立ったクラスメイトの一人一人が、安堵し笑ったり、涙を流したり。そして廉も、成功よりもやりきった充実感に頬を緩ませていた。
「少年、お疲れさん!」
「瑞穂さん!うわぁ・・・ありがとうございます!!」
舞台袖で待っていた瑞穂は、廉に大きな花束を差し出した。が、
「本当なら生花がよかったんだが、長時間放置したら萎れるだろ?だから、ペーパークラフトやってる知り合いに教わってな・・・少し、見映えは悪いが」
「ううん、凄くうれしいです!ありがとうございます、瑞穂さん!!」
「お、おいおい・・・」
拙いとか、見映えが悪いとか、そんな事など関係無い。瑞穂の気持ちが廉は嬉しくて、人目を憚らずに抱き着いていた。
「やれやれ、私としては非常に嬉しいんだが・・・・・」
「ヘ?・・・あっ!」
瑞穂に言われ、状況を確認した廉。まず、瑞穂に密着している事を確認、そして自分に向けられたクラスメイトの好奇な視線・・・よって、
“ボンッ!!”と爆発音が聞こえそうな鼓動と、真っ赤に顔を染めた廉。
『お熱いことで〜!!!!』
その場にいた全員に、冷やかされた。
その後、みんなで記念撮影をした廉。なぜか瑞穂とのツーショット撮影もあったが、重い衣装を脱ぎ、いつもの制服に着替えると、開放感で身体が軽くなった事を実感。
「さて、メインイベントも終わった事だし、私らは帰るとするかね」
「え、もう帰っちゃうんですか?」
もう少し瑞穂に居て欲しいと思っていた廉は、ちょっぴりがっかり。
「・・・居て欲しいのか?」
「居て・・・欲しい、です」
意外と素直な廉に苦笑する瑞穂は、彼の肩を軽くポンッと叩く。
「フフッ、学校が終わったら電話してくれ。実は、先に済ませたい用事が残っているんだ」
「用事なら、仕方ないですね・・・わかりました、必ず電話します!」
「うん、待ってるぞ!」
ニコッと笑う瑞穂を見送り、廉はしばしの時間を宮部と過ごした。