17:秋深まりて
話は一気に一ヶ月後に飛びます・・・飛躍し過ぎですかね(苦)
「それじゃ、行ってきます!!」
「ああ、楽しみにしてるからな!」
居候生活も一ヶ月を過ぎ、秋深まる10月の中頃。そして、瑞穂が廉に告白した日から、ちょうど一ヶ月。あの日の告白で、その後の生活に支障が出るかもしれないと、少し後悔した瑞穂だが、懸念は杞憂に終わる。
いつもと変わらない廉に拍子抜けした瑞穂だが、気構えていた無駄な力が抜けた分、また普通に廉との生活を送れている。
そんな廉は、高校生活二度目の学祭のために今日は早出。見送る瑞穂も、わざわざ店を臨時休業させ、夏希や真菜と一緒に学祭ヘ行く予定である。
「さてと、少年も学校ヘ行った事だし・・・」
手早く着替えを済ませ、自慢の愛車を発進させた瑞穂は、とあるお店に向かった。
「はよ!」
「うっす!」
「おはよう!」
教室ヘ着いた廉は、既に準備を始めたクラスメイトに挨拶。何時もより、声色も明るい。
「おはよう月島!」
「おう、おはよう佐原!!気合い入ってるな」
「そりゃお互い様でしょ!!」
ヘへっと笑う咲は、既に浪人風の衣裳を纏って気合い十分といった感じだ。
「月島、早く衣裳に着替えて!早速練習するわよ」
「東金が1番気合い入ってるな!」
「だね!」
ビシッと廉を指差す東金だが、ストーリーのメイン二人以上に、緊張。要はあがり症だった。
「おいおい、東金が緊張してどうすんだよ」
「緊張してないあんたらがおかしいわよ!」
「・・・緊張してるよ、俺は・・・」
「来るんだよね、月島の彼女さん」
「まだ彼女じゃないけどな・・・」
咲は、廉ヘの気持ちを伝えなかった。高上達と話す度に廉の口から出てくる“瑞穂”という女性の名前。そして、口にする度に柔らかくなる廉の表情で、彼女は瑞穂と同じ舞台に立つ前に、己の敗北を悟った。
“告白もしない臆病者”
東金は咲に言った。咲とて、覚悟していた言葉。ショックを受けなかったといえば嘘になるが、咲は気丈に笑った。
“これでいいの”
小さい声で、咲は言った。一つの恋が散った、儚い笑顔を添えて・・・
通し稽古も終わり、再び制服に着替え直した廉は、教室で始業ベルを待っていた。
「どうした?」
「あ〜・・・いや、実はな・・・」
先程から落ち着きのない相馬。察した廉が声をかけた。
「んだぁ?彼女でも来るのか!?」
「ああ・・・」
「「「・・・ヘ?」」」
宮部はおそらく冗談を言ったつもりだったのだろうが、相馬は落ち着きなく肯定。そして驚く三人。
「いつ頃からの付き合いなんだ?」
「まだ二週間くらい」
「そっかぁ・・・」
「高上に続いて相馬にも・・・頼む、廉は裏切らないよな?な?」
「・・・・・・」
「まさか・・・・うおぉ!!」
黙り込んだ廉。宮部は目尻に涙を溜めながら、どこかヘと走り去った。
「廉の手前、どうしても言いづらくてな・・・」
「そうか、よかったじゃないか!おめでとう!!」
照れる相馬は、鼻っ柱をポリポリと掻いた。
AM9:00
始業ベルが鳴り、同時にグラウンドから打ち上げられた爆竹が、学祭開始の合図を告げた。
「えーっと、あ、いたいた!オーイ廉くん!!」
「げ!マジで店休みにしてきたんだ・・・」
「あら、一ヶ月ぶりに会えたのに、お姉さん悲しいわ・・・」
教室を出てすぐに、廉は夏希と真菜を発見。だが、肝心の瑞穂の姿がない。
「あの、瑞穂さんは・・・」
「もうすぐ来るわ」
「あーあ、せっかく私達が遊びに来てあげたのに、眼中にないと?」
「絶対からかいに来ただけですよね?」
と、二人の相手をしていた廉の元ヘ、猛ダッシュしてくる影一つ・・・
「親友!こ、この美しいお姉様方は?」
言わずもがな、宮部である。
「あ、コイツは変態&バカなんで、無視してください」
「うおぃ!!?」
「「わかった」」
宮部、二度目の逃走
「あ、瑞穂さん!」
と、宮部が視界から消えた直後、白シャツにジーンズ姿の瑞穂が、廉の元ヘやって来た。
「お?まだ女装してないのか」
「女装って言わないで下さいよ!もう・・・」
「ま、とにかく久しぶりの母校だ。少年、軽く校内デートでもしようか?」
デートと聞いて、ざわつくクラスメイト。あの冷静な高上ですら、ポカンと口を開けたまま硬直。
「それじゃ、どこに行きます?」
「否定しないのか?」
「否定してほしいんですか?」
からかうつもりが、逆に廉からからかわれた瑞穂。主導権を廉に盗られ、頬を軽く膨らました。
「むぅ・・・なら、任せる!」
「りょーかい!」
瑞穂をエスコートし、人込みの中へ消えて行った二人に、
「バカップルだ」
「バカップルだな」
「バカップルだね」
「バカップルだわ」
高上・相馬・夏希・真菜の四人は、同じ言葉を口にし、
「バガやろぅ・・・」
宮部は柱の影から廉を羨んだ。