16:遅い目覚めと瑞穂の告白
「う・・・ん?」
廉の意識が、ゆっくりと覚醒を始めた。アラームをかけていたはずなのに、鳴った気配も無い。カーテン越しに、陽射しが朝とは違う雰囲気を醸している。
「な・・・んで?」
改めて気付いた廉。そこは自分の部屋でなく、瑞穂の・・・
「おはよう・・・少年」
不意に鼓膜を揺らす声・・・微かに、だが確かに、廉の傍から聞こえた。
「み、瑞穂さん!?」
「・・・なんだ、びっくりしたのか?自分が私のベッドで眠っていた事に」
「俺、何かしました?」
「いやいや、別に何も。強いて言うなら、私がベッドに引きずり込んだ・・・ま、安心してくれ。まだ何にもしていない・・・そうだな、これからゆっくり口説き落とす所だが」
しれっと言い放つ瑞穂。
“口説き落とす?”
瑞穂の言葉に思考が追い付かない廉。いや、そもそも瑞穂は居候という関係であって、恋愛関係とは・・・・・
「深い意味は無いさ。単に少年を好きになっただけだ、別に彼氏になって欲しいと言ってる訳じゃない・・ま、なって欲しいという願望はあるが」
「ち、ちょっと待って下さい!」
目覚めて早々時間が経っていない廉は、一度瑞穂を黙らせて状況と瑞穂の言葉を再確認。
目覚めたら(二度寝から起きたら)、瑞穂のベッド
→
鳴らない目覚まし
→
不意に聞こえた瑞穂の声に驚き、自分の隣で眠っていた瑞穂を発見
→
瑞穂の“口説き落とす”発言
→
追い討ちをかけた、遠回しな告白
「俺、告白されたんですね」
「理解してくれてなによりだ、まあ返事はまだ先になりそうだがな」
「・・・?」
「おいおい、少年にはまだ文化祭という大きなイベントがあるじゃないか・・・私だって色々悩んだんだ。瑠華の弟で、年も私が四つ上だ。だがな、惚れたんだよ・・・たった五日で。だから片手間で、返事をしてほしくないんだ・・・」
諭すように、瑞穂は語る。言葉の端々から、瑞穂の想いは廉に伝わっていた。
「・・・わかりました」
「うん、それでいい。まだ時間はある、ゆっくり考えてくれ」
先にベッドから立ち上がった瑞穂は、勢いよくカーテンを開けた。
廉が学校ヘ着いたのは、午前中の授業も終盤に差し掛かった頃だった。終了のベルが鳴り、購買ヘ行く生徒や授業を終えた先生が廊下で入り乱れている中を、廉は摺り抜け教室ヘ。ちょうど昼食の時間である、いつもの面子が廉を見つけ、直ぐさま席に呼んでいる。
「食べないのか?」
「・・・やるよ」
席に座った廉だが、机に置いた弁当を開きもしない。不思議そうに尋ねた相馬に、廉は開かぬままの弁当箱を差し出した。
「何かあったのか?」
「・・・ちょっとな」
「お!遂に進展があったのか?それに今日の遅刻も関係・・・」
宮部は空気が読めない。何となく苛立ち気味の廉を察してか、高上はクイッと顎のみで合図。すると、クラスでは屈強そうな生徒が五人集まり、宮部を羽交い締め。
「えっ、なん・・・ちょっ、待っ・・・」
あ゛〜!!という断末魔と共に、宮部は退場。
「仮に・・・あくまでも仮の話だが、もしも年上の女性に告白されたら、お前らならどうする?」
“仮の話”とは言っているが、相馬と高上は既に察している事だし、廉とてわかっている。
「相手が誰であれ、自分の事を想ってくれているなら、嬉しくない訳がない」
「だな。それに、好きという事に年上も年下も関係無いと思う。けど、1番大事なのは、自分が相手の事をどう思ってるか?って事じゃないか?」
「相手の事を・・・」
「ああ、考えてみれば俺だって、恵美の最初の印象は最悪だったからな」
高上は、どちらかといえばおとなしめな女性がタイプであり、明るく派手な恵美は、むしろ苦手であった。だが、席替えで隣同士になり、会話を通して交流するうちに、外見とは異なる彼女の性格に触れ、現在はクラス公認のカップル。
「あくまでも仮の事だが、その年上の女性とは、仲良くやっているんだろ?ならば、相手をよく観る事だ。じゃなければ、相手を知る事もなく、間違った判断をする事だってある・・・まあ俺に言える事はそれだけだ」
自分の経験を踏まえた高上の言葉は、廉を納得させるには充分だったようで、廉の表情も少しだけ、穏やかになっていた。