11:学祭の出し物は?
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いつものように、始業開始15分前に教室に着いた廉だが、彼に向けられた視線がいつもと違う。
「おいおい親友、今日はフェラーリ登校じゃないのか?」
「んなワケないだろ、だから“バカ”扱いされるんだお前は」
薄々気付いていた。昨日の一連の出来事で、注目を集めていた事を。それを証明したのが、開口一番で廉を皮肉ったバカ(宮部)の言葉。
軽くあしらいながらも、周囲からの好奇な視線が“何事もなく終わる”ワケが無いと、廉は悟らざるを得なかった。
休み時間毎に繰り返される質問と視線は、エンドレスに続く。いい加減うんざりしていた廉は、昼飯中にいつもの3人に事情を説明していた。
「とまあ、そんなワケ。しかしフェラーリで来るとは思わなかったけど」
「ふーん」
「成る程ね」
相馬、高上の二人は納得してくれたのだが・・・
「だからって、だからって、あんなお姉様は反則だろっ!!」
バカ(宮部)は当然、納得しない。
「で、だいたいどんな人かはわかったのか?」
「そうだね、廉の居候相手がどんな人かは気になるなぁ!」
バカの存在は、空気の如くスルー。廉の話に、二人は瑞穂という人物がどのような人間なのかという事に、興味を抱いた。
「う・・・ん、顔は美人だなぁ。背も高いし。あと、口調は男っぽいかな。あとは・・・・・・ああ、残念な胸だった!・・・あ」
ピシッ!!
昨日に続く、亀裂音。しまった!という顔をしたが、もう遅い。男子からは羨望と殺気、女子からは冷ややかな視線が、廉に降り注いだ。
「見たのか?」
「いや、あー・・・えっと・・・」
「見たのか?」
「見たというか、・・・ち、直接見たわけじゃな・・・」
「見・た・ん・だ・な・?」
「・・・はい」
宮部の威圧的な尋問に耐えられなかった廉は、小さく肯定。
「で、でも相手はちゃんとブラを着けてたし、見たくて見たワケじゃ・・・」
「そうか・・・」
「わかってくれたか?いやあお前ならわかってくれ「執行!!」」
どす黒い笑みを浮かべた宮部と殺気を含んだその他大勢の男子。
“俺、死んだな・・・”
薄れる意識の中、廉はそう感じた。
「・・・きし・・・」
・・・・・・・・・
「・・・きしま!」
・・・・・・
「・・・つきしま!」
・・・
「月島!」
!
「・・・っ痛」
「やっと起きた。大丈夫?」
「・・・佐原?」
覚醒した意識と、後頭部に残る痛み。そして、心配そうに顔を覗かせる咲。
「よく眠ってたわね、もう6限始まるわよ」
「・・・は?掃除は?」
黒板前の壁掛け時計は、既に3時を過ぎている。という事は、少なくとも2時間くらい廉は気絶していたのだ。
「ってか、大丈夫?」
「ああ、何とか。バカは加減を知らないからな」
「誰がバカだ!!」
すぐにツッコミを入れた宮部。クラスでバカ扱いされている自覚はあるらしい。ともあれ、さっきまでの好奇な視線はなりを潜め、何時もの雰囲気になったクラス。大方、相馬と高上が取り計らってくれたのだろう。廉は心の中で二人に感謝しつつ、前の席に座る宮部をひと睨み。
「なんだよ!?」
「いや、別に・・・ハァ〜・・・」
“お前に相馬達のような理解力と気遣いがあればな”などと思いながら、廉は小さくため息。
その後、担任も教室ヘ入り、6限開始。授業というより、翌月にある学祭の出し物についての話し合いである。
「・・・で、意見はあるか?」
「ハイッ!!」
級長を勤める高上の声で真っ先に手を挙げたのは、宮部である。
「俺は、クラスの女子全員のコスプレ喫茶を提案します!!」
「「却下!」」
「うぇ!?」
即決で宮部の提案は級長・副級長に却下された。副級長である冴羽はクラスの女子代表としてだが、高上は・・・
「・・・なぜ恵美(彼女)の可愛い姿を他の野郎に見せなきゃならんのだ身の程を知れ変態」
ほぼ個人的な理由だった。なんにせよ、低くて圧のある高上の声と女子全員から向けられた痛い視線で、宮部は黙る事しか出来なかった。
その後、あーだこーだ意見が出た後で、クラス有志の男女による劇と、小数男子の露店(焼きそば)に決定。
「ま、俺は人前に出るのは苦手だから、裏方の方に・・・」
「廉、お前は劇の方に出る事に決定してる」
「はぁ!?」
寝不足が祟ってか、話し合いにあまり参加していなかった廉は、事態が把握出来ず、高上の言葉に目を丸くした。
「お前が寝てる間に決まった事だ」
「ちょっと待て!なぜ俺が劇に出なくちゃいけないんだ!!」
「ま、女子の意見だ。むさ苦しい野郎が相手より、女顔のお前が相手役なら抵抗も少ないだろうからな」
「待て待て!相手役って何だ!?」
「当然主役かヒロインだな」
高上の言葉に、廉以外の生徒は全員頷く。
「・・・百歩譲って主役ならわかる。いや、わかりたくもないが、ヒロインってなんだ?」
「おいおい、どちらかといえばヒロイン顔だろ、お前は」
再び頷く生徒。
「まぁ明日の昼休みに何の劇をするか決めるとして、お前は主演もしくはヒロイン役に決定。これはクラス全員の意見だ。異存は無いよな?ん?」
有無を言わせぬ高上とクラス全員の視線。彼に退路は無かった。
PM5:30
「あっひゃっひゃひゃ!ヒー・・・っくくっ!!」
「もうっ!!そんなに笑わないで下さいよ!!」
「すまんすまん・・・だが・・・っぷ、くくっ!」
放課後、店に着いた廉は、話し合いでの出来事を瑞穂に説明し、爆笑された。
「あー・・・笑った!しかし、もうそんな時期か」
瑞穂も、廉と同じ高校の卒業生。懐かしむように、目を細めた。
「瑞穂さんは、何をしたんですか?」
「ん〜・・・たしか短編映画を造ったなぁ。ま、私は裏方だったが、少年のお姉さん・・・つまり瑠華は、脚本と演出を手掛けたんだ」
「姉さんが!?初耳です!」
意外な所で姉の過去を知った廉。
「ふふっ・・・しかし、今回は姉譲りの顔が祟ったみたいだな。さてさて、少年の晴れ舞台だ、楽しみだなぁ」
「来る気ですかっ!?」
「話は聞いたわぁ〜・・・」
「うわっ!!??」
忍び足で廉の背後から肩を叩き、声をかけたのは真菜である。飛び跳ねんばかりの驚きを見せた廉に、満足そうな笑みを浮かべた。さらに、後から作業場に入って来た夏希も、ニヤニヤと笑っている。
「学祭の日は店休日だな!」
「当然!」
「楽しみだわ・・・」
この三人なら、多分本気で休みにするだろう。学校にも店にも同情してくれる相手のいない廉は、がっくりと肩を落とした。