09:秘密の部屋
どうにか瑞穂の機嫌も直り、廉は一先ず風呂に入る。風呂から上がり、黒ジャージ姿になった廉は、恍惚な表情でカップアイスを食べている瑞穂を見つけた。
「お、上がったか!」
「瑞穂さん、それ俺のアイス・・・」
「堅苦しい事を言うな、じゃあ、さっそくあの部屋の中を見せてくれ!」
“ほれほれ!”と、瑞穂は木のさじをくわえ、カップアイスを片手に2階へと足を向けた。
「まぁ大して期待させる物もありませんが・・・」
廉はドアを開いた。
「・・・ほぉ!!」
壁一面には、様々な種類のネックレス。部屋全体がまるでプラネタリウムのような輝きを放ち、思わず瑞穂は声を漏らした。
「一つ一つが、素晴らしい一品だ!これは全て少年が作ったのか!?」
「ええ、まあ」
「趣味だけにしておくのが勿体ない!!」
「本職にそう言ってもらえて、本当にうれしいです!」
本職の瑞穂が認めてくれたのだ。嬉しくないはずがない。廉は恥ずかしさと嬉しさで、頬を薄紅色に染めた。
「ふむ、これで夏希や真菜の身に付けていたネックレスの事も、合点がいく」
瑞穂とて、廉を疑っていたわけじゃないが、確証が無かった。しかし、こうして部屋の中で廉の作った様々なネックレスを目にしたのだ、納得するには充分だった。
「本職の私が感動するとはな・・・むぅ、素質は私以上だ!」
「褒めても何も出ませんよ」
廉は冗談半分におどけてみたが、瑞穂は本心でそう言ったのだ。
「ふふっ、私が認めてるんだ。もっと素直に喜べ!それにしても、ふぅむ・・・」
「どうかしました?」
グルッと部屋一面に飾られた瑞穂は、下顎に手を当てながら、何かを思案中。と、廉の声が耳に届いたのか、視線を彼に向け直す。
「少年、この中から幾つかを、私の店に飾ってみないか?」
「え、飾るって!?」
「このままこの部屋だけで飾られるより、もっと多くの人に見てもらうべきだと思うんだが・・・どうかね?」
誰に見られる事もなく、ただこの部屋で壁の一部となったままでは勿体ない。ならば、より多くの人が立ち寄る自分の店で飾ってみてはどうか?と、瑞穂は提案してきたのだ。
「でも、なんか恥ずかしいような・・・」
「別に少年が飾られるわけじゃないんだぞ。それに、少年はもっと自分の才能を誇るべきだ!」
瑞穂は廉に説く。それに、負けず嫌いな瑞穂は口にこそ出さないものの、確実にデザイナーとしての才能は、自分より廉のほうが上だと認めていたのだ。
「瑞穂さんが、そこまで言ってくれるなら・・・よろしくお願いします!!」
「うむ、任せろ!」
ドンッと胸を叩く瑞穂は、ニコッと笑う。廉も、瑞穂の笑顔につられ、薄く笑みを浮かべた。
その後、飾られている様々なアクセサリーから廉と瑞穂は5点づつの、計10点を厳選。瑞穂は責任を持って、自分の私物である籐編みのカバンにしまい込んだ。
「・・・と、危うく忘れる所だった!」
「?」
「少年、私に似合うアクセサリー、忘れるなよ?もちろん、あの二人以上の品を、期待してるぞ!!」
「・・・善処します」
さりげなくプレッシャーをかけるのが、なんとも瑞穂らしい。瑞穂の顔を見ながら、デザインを頭で組み立て始めた。