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「ジェミれ、カス」  作者: ロータスシード


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3/6

第三章「ジェミっても、カスしか出ない」

翌日も、その翌日も、由奈はGeminiと格闘した。

 授業中にこっそり打ち込んで、違う、と思って消して。帰りの電車で打ち込んで、また違う、と思って消して。家に帰ってから一時間かけて、やっぱり違う、と思って画面を閉じた。

 出てくる絵は、どれもきれいだった。

 それが問題だった。

 きれいな絵は、由奈の小説の表紙には合わなかった。由奈の書いた物語は、きれいな話じゃなかった。うまくいかない女の子が、うまくいかないまま夜の海辺に立っているだけの話だった。そこに映画のポスターみたいな絵を乗せたら、全部嘘になる気がした。

 どう打ち込めば、あの子が出てくるんだろう。

 由奈が頭の中に持っているイメージは、ちゃんとある。ある、のに、それを言葉にしようとすると、どこかで形が崩れる。「普通の女の子」と打てば記号になる。「リアルな女の子」と打てば写真みたいになる。「素朴な女の子」と打てば昔話の挿絵みたいになる。

 由奈が欲しいのは、そのどれでもなかった。


 三日目の昼休み、由奈はハルキに画面を見せた。

 これまでに生成した画像を、十枚ほどスクロールして見せた。ハルキは「ふんふん」と言いながら眺めていた。

「なんか、しっくりこなくて」

「あー」とハルキは言った。「わかるわかる」

 わかるのか、と由奈は思ったが、黙っていた。

「なんか、プロンプトが漠然としてるんじゃない? もっと細かく指定するといいって、どっかで見た気がする」

「細かく、って、どういうふうに?」

「んー……なんか、光の向きとか? カメラのアングルとか? なんか色々あるらしいよ。知らんけど」

 知らんけど、が今日も来た。

 知らんけどで終わるなら最初から言わないでほしいな。

 由奈は心の中だけでそう思って、「そっか、ありがとう」と言った。

「てか、もう普通に適当な絵でよくない? みんなそんな細かくこだわってないよ」

「こだわりたいんだよ、私は」

「えー、真面目だね」

 ハルキはそう言って、自分の弁当箱を開けた。由奈にとってこの話題はまだ続いていたが、ハルキにとってはもう終わっていた。


 その日の放課後、由奈は図書室の隅のテーブルで、一人でスマホと向き合っていた。

 ハルキの「細かく指定する」という言葉を手がかりに、検索をかけていた。

 Gemini プロンプト 画像生成 コツ

 出てきた記事を読んだ。なるほど、と思う部分もあった。「スタイルを指定する」「光源を指定する」「カメラ距離を指定する」。なんとなくわかる。でも記事に書いてあるのは技術的な話で、由奈が欲しいのは技術的な絵じゃなかった。

 試しに打ち込んでみた。

 「夜の海辺に立つ女の子。自然光なし、月明かりのみ。ローアングル。カメラ距離は中距離。リアリズム寄りのイラスト調。表情は憂鬱だが前向き」

 出てきた。

 由奈は画面を見た。

 悪くなかった。さっきまでよりは、ずっとよかった。月の光の当たり方も、女の子の立ち姿も、それなりに雰囲気が出ていた。

 でも。

 まだ、違う。

 何が違うのか、やっぱり言葉にならなかった。雰囲気はある。条件も合っている。なのに、由奈の小説の中にいる女の子と、画面の中の女の子は、どこか別の場所に立っているように見えた。

 私が頭の中に持っているイメージを、言葉にする方法が、わからない。

 いや、もっと正確に言うと。

 言葉にしようとすると、イメージが変質する。

 由奈は画面を閉じた。窓の外は、もう暗くなり始めていた。


 帰り際、廊下で偶然、凛とすれ違った。

 凛は部活帰りらしく、鞄を肩にかけていた。由奈を見て、一瞬だけ目が合った。

 由奈は「あ」と思った。

 この三日間、Geminiと格闘しながら、ずっと頭の片隅にあったことがあった。

 凛は絵が描ける。絵を描くということは、頭の中のイメージを外に出す方法を知っているということだ。由奈が今できていないこと、それを凛はずっとやってきた。

 もしかしたら凛は、由奈が今詰まっている場所を、知っているんじゃないだろうか。

 でも、また「ジェミれ、カス」って言われるかもしれない。

 いや、でも。

 あのとき凛は怒ってたわけじゃなかった。

 由奈は少し迷って、口を開いた。

「あの、朝倉さん」

 凛が足を止めた。

「ジェミろうとしてるんだけど、うまく出なくて」

 凛は由奈の顔を見た。何も言わなかった。

「思い通りの絵が出てこない。何がいけないのかも、よくわからなくて」

 沈黙が、三秒ほど続いた。

 凛は「……放課後、残ってる?」とだけ言った。

「え、今日は帰るけど——」

「明日」

 それだけ言って、凛は行ってしまった。

 由奈は廊下に一人残って、さっきの会話を反芻した。

 明日、何があるんだろう。

 怖いような、少し楽しみなような、うまく仕分けのできない気持ちを抱えたまま、由奈は昇降口へ向かった。

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