第7話_パンケーキの半分は推しへの愛で出来ています
最近の朝は少しだけ特別だ。
宗谷くんが来て、一緒に朝ごはんを食べて、少し言葉を交わして。
そんな風に一日がちゃんと始まる。
……ファン冥利につきる。
このおかげで私の寿命は伸びてます、たぶん。
もしくは、心臓が鳴りすぎて、めっちゃ短い人生になってるかもしれない。
ああ…大声で世界に伝えたい。
この素晴らしさを。
推しの尊さを。
でも。
これは私だけの秘密、誰にも言わない見せない。
もちろん、SNSなんぞにはアップしない。
……それくらいの節度はわきまえている。
キッチンでフライパンを温める。
スフレパンケーキは焼くのに時間がかかる。
だから、宗谷くんがいつも来る時間から逆算して動く。
——そろそろかな。
時計をちらちらと確認し、そわそわするそのとき。
チャイムが鳴った。
「はーい」
少し弾む声でドアを開ける、今日も輝く推しがそこにいる。
そんな日常に、少し慣れて来た頃だった。
脱稿の解放感で少しハイになっていた。
そのタレント本の仕事が評価され、新しい企画の誘いも来た。
さらには……!
当選倍率18倍をくぐりぬけ、宗谷くんのライブチケットが当たった。
当選の通知をスマホで見た時は、ほんとに鳥肌が立った。
なにこれ、今って人生のハイライト?
……正直、浮かれてた。
§
当日。
ライブ会場入場前1時間に分かる座席を確認して、思わず苦笑いした。
……天井席、私より上は屋根だけ。
仕方ないよね、人気だもん。
当選しただけでもすごいんだから。
気分を奮い立たせ、一人で3階席の最上段を目指して登った。
アンプが揺るがす巨大な空間、スモークで霞む視界。
いいね、このライブ感!
振り返ると、あまりの高さに目が眩む。
やっと見つけた席に着きスマホを開くと、他の子がアリーナ7列目だとはしゃいでいた。
……いいな。
実は、宗谷くんのメシ担当になってから、他の推し仲間とは距離を置いていた。
話せば、うっかりメシ担の事を話してしまうかもしれない。
それは絶対に避けたい。
一人参戦で客席から見下ろすステージは、思ったより遠い。
ライトに照らされて動く小さな人影。
——あ、宗谷くん?
顔が、こちらを向いた気がした。
気がしただけだった。
やっぱり。
この人は遠い人なんだ。
私は、オペラグラスの中で追うのがやっとの、三万人の中の一人。
一所懸命に両手でペンライトを振る。
色は、ずっとパールホワイト。
本当は、ちょっと夢想してた。
花道を駆け抜ける宗谷くん、ふと私に気付いて立ち止まり……
手を振る。
そんな瞬間があるかもって。
遠い……な。
終演後、人の流れに押されながら出口へ向かう。
メッセージボードを直すマネさんの姿を見かけた。
一瞬、視線が合い……すぐ逸らされる。
声をかけようと足を踏み出したが、冷たい目線がこちらを射抜いた。
「……関係者以外はお控えください」
小さく、でもはっきり。
胸に、自分の立場がすとんと落ちた。
ふくらんだパンケーキが、一瞬にして萎む姿が目に浮かぶ。
お読みいただき、ありがとうございます。




