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純愛の境界線~零れ落ちる世界~  作者: MCdragon


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第二話:侵食する肉体と他者の影

警察の追及を「親族間の行き違い」として辛うじて逃れた後、俺は言いようのない焦燥感に突き動かされていた。

世界が俺たちを「普通の姉弟」に押し戻そうとする力は、今や物理的な事象となって俺たちの生活を侵食している。

翌日、俺は逃げるように会社へ向かった。だが、そこでも異変は待っていた。


「水谷先輩、お疲れ様です。……顔色悪いですよ? またお姉さんのことで悩んでるんですか?」


声をかけてきたのは、後輩の藤田紗江だ。

潤んだ瞳で俺を見つめる彼女の距離は、以前よりも明らかに近くなっている。


「……ああ。まあ、ちょっと家族の問題でな」


「大変ですね。でも、お姉さんももう三十でしょう? 自立してもらういい機会じゃないですか。……私なら、先輩にそんな顔、させないのに」


紗江が、俺の腕に自分の胸を押し当てるようにして資料を覗き込んできた。

以前の彼女なら、こんな露骨な誘惑はしてこなかったはずだ。

まるで、俺が「独身でフリーの男」であるという現実が、最初から決定事項であるかのように彼女の行動を書き換えている。

彼女の指先が、わざとらしく俺の太腿をなぞる。

熱を帯びた視線が、俺の中の倫理を揺さぶる。


「今夜、空いてますか? 先輩の悩み、私が全部……忘れさせてあげますよ」


耳元で囁かれる甘い声。

だが、俺の心にあるのは、家で待つ麻友の、あの震える肢体だけだった。


―歪められる愛欲

その頃、麻友もまた、逃れられない違和感の中にいた。

パート先のスーパーのバックヤード。

店長の佐々木明が、不自然なほど親しげに麻友に近づく。


「水谷さん、体調はどうだい。無理はいけないよ。君には……幸せになってもらわなきゃ困るんだ」


佐々木の濁った瞳が、麻友のブラウス越しに、まだ目立たない腹部を、あるいはその奥の秘部を舐めるように這う。


「店長、近いです……」


「いいじゃないか。弟君も、君がいつまでも独身でいるのを心配しているはずだ。……私なら、君を『正しい道』に導いてあげられる」


佐々木の手が、麻友の腰に回される。麻友は拒絶しようとしたが、その瞬間、強烈な目まいに襲われた。


(あれ……? 私、この人と、どういう関係だったっけ……?)


一瞬だけ、脳裏に「佐々木と交際している自分」の偽造された記憶が明滅する。

世界が、彼女の愛の対象を俺から佐々木へと、強引にすげ替えようとしていた。


―執着の再確認

帰宅した俺を待っていたのは、薄暗いリビングで膝を抱える麻友だった。


「聡……おかえり……。私、自分が誰のものか、分からなくなりそうなの」


彼女の瞳は涙で濡れ、肌は異常なほど上気している。


「店長に触られたとき、一瞬だけ、それが正しいことのように思えちゃった。怖い……このままじゃ、あなたとの夜が、全部消えちゃう」


俺は言葉を返さず、麻友を激しく抱き寄せた。

服を剥ぎ取る手は、焦りで荒くなった。

書き換えられる現実への唯一の抵抗は、この肉体に刻み込まれた快楽と、血のつながりを超えた愛の証明だけだ。


「麻友、俺を見ろ。俺が誰か、体に思い出させてやる」


剥き出しになった麻友の白い肌が、月光に照らされる。

三ヶ月の命を宿した腹部は、まだ平坦だが、そこには確かな命の鼓動があった。

俺の指が彼女の秘所に触れると、溢れんばかりの熱い蜜が指を濡らした。


「ああ……っ、聡、もっと……壊れるくらい抱いて。じゃないと、私、明日には別の女になっちゃう……!」


麻友の足が俺の腰に絡みつく。

実の姉弟という禁忌を犯しているという背徳感が、今や、この世界で唯一の「真実」を繋ぎ止める楔となっていた。

結合の瞬間、麻友が絶頂の叫びを上げる。

その声は、隣室にまで響くほどに激しく、狂おしい。

重なり合う肉体の中で、俺は彼女の体内に深く、俺という存在を叩き込んだ。

だが、絶頂の最中、俺は見てしまった。

枕元に置いてあった二人の指輪が、砂のように崩れ、消えていくのを。


―迫りくる終焉の音

事後、静寂の中で麻友が呟いた。


「……聡。さっきの警察の人たちが言ってたこと、思い出したわ。……私たちが住んでいた実家、昨日、取り壊されたんですって」


「……なんだって?」


「更地になった場所に、新しい家が建ってるって。……私たちが子供の頃を過ごした記憶の場所まで、物理的に消去されてる」


世界は、俺たちの過去すらも根こそぎ奪おうとしている。

そして、追い打ちをかけるように、俺のスマホに一通のメールが届いた。

差出人は、藤田紗江。


『先輩、今日はお疲れ様でした。明日、楽しみにしてますね。……お姉さんの「結婚祝い」、何がいいか一緒に選びましょう?』


麻友が結婚する? 誰と? 俺の知らない「未来」が、すぐそこまで足音を立てて迫っていた。

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