07ドラゴンテイマー
【ジョブ】の儀式の場において、僕とレーナは二人揃って、不遇職を得てしまった。
そのために、僕達は追放処分を受けてしまったのだ。
その追放された場所は、僕の生まれ故郷であるアーカイブ辺境伯の西の国境にある『漆黒の森』と言う場所。
強力な魔物が多く生息している『漆黒の森』にて、僕とレーナは二人並んで進んでいた。
「ふぅ………ふぅ………ふぅ………」
『漆黒の森』を進み出してから早々、僕は息切れをしていた。
情けないことに、一日分の食料を入れた袋を持ちながら、険しい森が続く場所を少し歩いただけで息を切らしていたのだ。
少し前まで、レーナと一緒に歩んでいこうと決意した手前これだ。
『漆黒の森』は普通の森の違って、地面の至る所が凹凸であり、背丈の高い草が生えている。
少し歩くだけで、無駄に体を動かし、体力を持ってかれる。
だけど、それを差し引いても、自分の軟弱さが嫌になる。
「リック、大丈夫ですか?食料なら、私が持ちますが」
そう言って、レーナが食料の入った袋を持とうと提案してくる。
僕は食料を持っているとはいえ、息切れを起こしている僕と違って、レーナは涼し気な表情であり、行き一つ切らしていない。
僕が【ジョブ】の儀式に時に着ていた男性用の貴族服をそのまま着ているのに対し、レーナも【ジョブ】の儀式の際に来ていたドレスを着用している。
ドレス何て、どう考えても、歩きにくい。
それなのに、ドレスを汚さぬように上品な歩き方で進んでいるレーナには、疲労が現れている様子は無い。
僕と同じ人間とは思えない。
……………………………………いや、そうだった。
レーナは僕の様な普通の人間では無かったんだった。
レーナは、そもそも僕の様な平凡な人間と同じ体の構造を持っていないのだ。
「だ、大丈夫…レーナ。これぐらい持てるよ」
「そうですか?疲れてるように見えますけど」
「『ドラゴンテイマー』の僕には、これぐらいしか、やれることが無いから」
「…………リック。余り、卑下し過ぎないでください」
レーナが気まずそうに、僕を見る。
だけど、仕様が無い。
『ドラゴンテイマー』の【ジョブ】を授かった以上、僕には荷物持ちしか出来ることが無そうなのだから。
ここで、『ドラゴンテイマー』の【ジョブ】について説明しようと思う。
『ドラゴンテイマー』とは、読んで字の如く、ドラゴンをテイムする…つまり、従属化させる【ジョブ】である。
テイマー系の【ジョブ】の一つである。
この世界の【ジョブ】には、テイマーと言う、自分以外の魔物や動物、植物と言った生き物をテイムして、自身の駒として扱う【ジョブ】が複数存在する。
例えば、最もテイマーとしてスタンダードな『ビーストテイマー』。
これは馬や羊などの動物やローウルフや一角兎などの魔物といった獣系統の魔物や動物をテイム出来る【ジョブ】である。
他にも、虫や虫系統の魔物をテイムする『インセクトテイマー』や植物や植物系の魔物をテイムする『プラントテイマー』。
最も珍しいもので言うと、精霊をテイムする『フェアリーテイマー』などもある。
まぁ…【ジョブ】の儀式の場での、父やシンギュラル公爵、他の者達の反応で分かるが、不遇職である。
ドラゴンは、竜種とも言い、魔物中では最強種と呼ばれている。
とは言っても、ドラゴンの種類は様々あり、一概に全てのドラゴンが最強と言う訳では無い。
だが、ドラゴンと言うだけで、他の魔物を凌駕する強さを持っていることは確かだ。
兄のペルシャが『竜騎士』として調教しているスカイドラゴンは空を飛びことに特化したドラゴン。
火山地帯に生息して、鉄すらも焼き尽くすブレスを放つフレイムドラゴン。
如何なる武器も歯が立たぬ堅牢な鱗を持ったメタルドラゴン。
上げれば切りが無いが、どれも一匹現れるだけで、軍隊が投入されるレベルだ。
ここまで聞くと、そんな強いはずのドラゴンをテイム出来る『ドラゴンテイマー』が不遇職と言われているのに疑問を持つだろう。
実は『ドラゴンテイマー』には、致命的な欠点がある。
それは、そもそもドラゴンのテイムなど土台不可能であることだ。
どういう事か詳しく言うと、『ドラゴンテイマー』がドラゴンをテイムしたくとも、両者との間には途方もない力量差がある故に、テイム不可能と言うことだ。
テイマー系の【ジョブ】を得た者が強くなる方法は、大体同じなのだ。
まず自身よりも弱い者をテイムする。
次に、そのテイムした従魔を使って力を付ける。
そして、力を付けた後は、もっと強い者をテイムする。
それから、テイムした従魔を使って、もっと力を付ける。
この繰り返しである。
テイマーという物は、階段を一歩一歩踏むように、従魔の数を段々と増やしていき、力を増すのだ。
これがテイマーの基本である。
『ビーストテイマー』なら、まず獣系統の魔物の中で最も弱い一角兎をテイムするなど。
では、ここで『ドラゴンテイマー』の話に戻る。
今言った様な強くなる方法を『ドラゴンテイマー』でも、やった場合、一つ大きな問題に直面する。
それは、ドラゴンの中でも最弱と呼ばれるワイバーンですら、強すぎるからだ。
最初の一歩の階段ですら、攀じ登ることも出来ない程の絶壁なのだ。
テイムは通常、テイムする者に対して、テイムされる者の方が圧倒的に強い場合、テイムは成立しないのだ。
テイマーは、始めに自身よりも、ずっと弱い者をテイムするのが定石なのに、ドラゴンの中に弱いものなどいない。
ドラゴンでも、ピンキリはあれど、ドラゴンはドラゴン。
『ビーストテイマー』がビースト系の動物や魔物”しか”テイム出来ないように、『ドラゴンテイマー』はドラゴン”しか”テイム出来ない。
なので、結論…『ドラゴンテイマー』を授かった者は皆、一緒の内にドラゴンを一匹もテイム出来ずに生涯を終える。
これでは、何の【ジョブ】も授かっていない者と同じだ。
これが『ドラゴンテイマー』が不遇職と呼ばれる所以である。
「………………………はぁ…そう考えると、『ドラゴンテイマー』って、本当に不遇職だな」
「ん?何か言いました、リック?」
「ううん、何でも無いよ」
僕が発した小さな呟きを、レーナが聞き取るが、僕は気のせいだと言う。
自身の【ジョブ】の『ドラゴンテイマー』について考えると、役に立つことが何も無く、胃が痛くなる。
僕もレーナの役に立ちたいのに、出来ることと言ったら、荷物持ちだからな。
だからこそ、僕は頑なに、食糧の入った袋を持って歩いているのだ。
少なくとも、これから魔物で出くわしたら、”レーナに頼る”ことになりそうだし。
「ウウウ………」
考え事をしている内に、僕の耳に、獣の様な唸り声が入ってくる。
僕は瞬時に身を固くする。
これは間違いなく、魔物の声だ。
『漆黒の森』に入ってから、少し経つが、ようやく魔物のお出ましだ。
唸り声を聞いた僕とレーナは立ち止まり、目の前の茂みを注意深く見る。
「ウガガガ!!」
すると、そこから身の丈が二メートルほどの二足歩行の獣が現れる。




