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『ドラゴンテイマー』 ~追放された不遇職使いの僕は、婚約者だった公爵令嬢と共に生き抜いていく~  作者: 保志真佐


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6/11

06謝罪




 兄のペルシャは、スカイドラゴンから一旦降り、スカイドラゴンの体に括りつけられている袋を外す。

 それは僕とレーナの食料が入った袋だった。


 「ほら、受け取れ。これがお前たちの食料だ」


 ドシ。

 重い音を立てて、大きめの袋に入った食料が地面に落とされる。


 実質死刑宣告であるが、一応は追放処分であるので、食料だけでも得られることは出来た。


 とは言って、僕とレーナ含めて、一日分しかない。

 一日分だけ何て、直ぐに尽きてしまう。


 いや、食料が尽きるまで生きられれば良い方か。


 下手をすれば、食糧を食べきる前に魔物に殺されるかもしれない。


 貧弱な僕なんて、魔物の手にかかれば、一捻りどころか、半捻りで十分だろう。


 僕は地面に落とされた食料の入った袋を拾う。

 一日分しかないとはいえ、これは僕とレーナの生命線だ。


 「俺は、もう行く。念のために言っておくが、追放処分を受けたお前たちが、間違ってもアーカイブ辺境伯領に戻ろうとするなよ。そうなれば、俺や父がアーカイブ辺境伯家の名誉にかけて、お前たちを討伐する」


 兄が釘を差す。


 万が一、僕とレーナが追放処分を無視して、アーカイブ辺境伯領に戻ろうとしても、無駄だという事だ。


 「まぁ…『漆黒の森』の方を進んでも、死が待っているだけだがな。どう足掻いたところで、『漆黒の森』に追放されて、生き抜ける者などいない。つまり、お前たちは今日で最後と言う訳だ」


 もうここに要は無いと言わんばかりに、兄は僕とレーナを一瞥し、再びスカイドラゴンに跨る。


 「お別れだ。出来損ないの弟よ」


 そう吐き捨てて、兄はスカイドラゴンで飛び立とうとする。

 それに対して、僕は、


 「兄さんも、体には気をつけてね。立派な領主になってね」


 そう言った。

 我ながら、『漆黒の森』という危険な場所に追放された者とは思えない言葉だろう。


 普通、こういった場合、命乞いをするものだろう。

 まさか、労いの言葉を掛けられるなんても、誰も思わない。


 僕だって、正直言うと、兄のことは好きではない。


 だけど、嫌いと言うほどでもない。

 兄は僕を嫌っている様だけど、自ら進んで僕を貶したり、傷つけるようなことはしなかった。


 兄は、貧弱な僕と違って、体格に恵まれていたが、努力を惜しまない人だった。

 僕に対して、日頃から辛辣な態度を取るのは、裏打ちされた努力があってのものであると考えている。


 だから、最後だけでも、僕は兄に労いの言葉を掛けたのだ。


 案の定、言われた兄は、一気に怪訝な顔を僕に向けた。


 「……………お前、最後の言葉がそれか?」


 兄は僕と同じ金色の髪を掻く。

 顔には、理解不能と言った感情が乗せられている。


 そして、兄は舌打ちをする。


 「つくづく、お前は出来損ないだ」


 そう吐き捨てて、スカイドラゴンの手綱を引っ張る。

 スカイドラゴンは、兄の指示に応じて、空に舞い上がろうとする。


 「”スピア”も!元気でね!」


 最後の最後に、僕は兄の騎竜であるスカイドラゴン………スピアに向かって、言葉を投げる。


 兄が乗るスカイドラゴンには、実は名前がある。

 スピアと言う名前が。


 ああ、見えて女の子なのだ。


 スピアは、僕を一瞥する。

 しかし、そこで、


 『~~~~~~~~リック』

 「え?」


 その時、僕の耳に聞きなれない言葉のような音が入る。


 清らかな風の様な声量。

 何かの言葉に聞こえた。

 それも女性の様な。


 殆どは何を言っているのか、聞き取れなかったけど、最後のリックと言う僕の名前だけは聞き取れた。


 僕は幻聴かと思い、周囲を見渡すが、周囲にはレーナ以外誰もいない。


 「レーナ、何か言った?」

 「はい?何も言いませんでしたよ」


 レーナは首を傾げながら、否定する。

 となると、他に言葉を発する人は、兄のペルシャ?


 いや、無いかな。

 失礼だけど、兄はあのような清らかな声を出さない。


 バサ!バサ!バサ!


 そうして、僕が声を主を探している中、兄はスピアと共に、空へと羽ばたき、行ってしまう。


 本当に一瞬だ。

 流石は、飛行に特化したスカイドラゴン。




 気づけば、はるか遠くに飛び去ってしまった。

 残ったのは、僕とレーナだけ。


 僕は、兄とスピアが見えなくなるまで、空を眺めていた。


 何だか………………飛んでも無く馬鹿らしいが、あの清らかな声は、スカイドラゴンのスピアの物だったのではないかと思う。

 本当に馬鹿らしいけど。


 あの言葉に意味は、僕には分からなかったけど、何だか、


 『貴方も元気でね、リック』


 そう言っている様な気がするのだ。


 はは…本当に僕は大丈夫か?

 ドラゴンが喋る訳が無いのに。


 不遇職と追放のショックで、頭が可笑しくなったのか。

 まぁ…どれだけショックを受けても現実は変わらないが。


 「さてと…………」


 僕はレーナに向き直る。


 そして、


 「ごめん!レーナ!!!」

 「へ?!リ、リック?!」


 驚くレーナ。

 何故なら、僕はレーナに対して、いきなり土下座をしたのだから。


 「ど、どうしました?!」


 土下座する僕には、レーナは困惑していた。

 だけど、僕にはレーナに謝罪すべきことがある。


 僕は地面に付けていた顔を上げる。


 「僕がもっと、しっかりしていれば、不遇職なんてものが貰わなかったら、レーナが追放されずに済んだんだ!僕と一緒に、レーナも追放されるはずなんて無かった!」


 今回、『漆黒の森』にレーナと二人揃って、追放処分となったが、そもそも僕が不遇職を得ていなけば、回避できたのではないだろうかと、僕は思ってしまうのだ。


 結果的に、レーナも不遇職を得て、シンギュラル公爵の逆鱗に触れたが、婚約者の僕がちゃんとした【ジョブ】を得ていれば、もっとやり様はあったのではないかと。


 出来損ないの僕ならまだしも、優しいレーナが追放される謂れはない。


 「本当に、ごめん!!!」


 勿論、謝ったからと言って、許されるものではない。

 こうなったからには、僕が責任を取るしかない。


 だけど、まず謝りたかった。


 「………」


 レーナは黙って、僕の謝罪を聞いていたが、やがて体を屈ませて、僕の頬に手を沿える。


 「リック、気にしないでください。私の方こそ、リックに謝らないといけません」

 「え?レーナが?」

 「はい。私がもし、不遇職ではなく、ちゃんとした【ジョブ】を授かっていれば、お父様に頼んで、リックの追放を取り消しに出来たかもしれません」

 「は?そ、そんなことは………」

 「まぁ…今更、過去の話を蒸し返しても、状況は変わりませんよ」


 そう言って、レーナは僕を立たせる。


 「私は追放など、全く気にしていませんよ、リックさえいてくれれば」

 「レーナ………」


 僕は目尻に涙が溜まるのを感じる。

 ああ…やっぱり、レーナは僕なんて、勿体ない程の優しい人だ。


 「それに、いずれにせよ…私はシンギュラル公爵から追い出されると思ってました。お父様………………いえ、あの男は私を嫌っていましたし。一度も、私を名前で呼んだことはありません」


 そう言えば、そうだ。


 僕とレーナは婚約者と言う関係上、良く会う。

 そして、レーナの父親であるシンギュラル公爵とも。


 だけど、シンギュラル公爵は僕の記憶上、一度もレーナをちゃんと名前で呼んだことは無かった。


 「行きましょう、リック」


 レーナは手を差し出す。


 「行くって、何処に?」

 「決まっています。向こうです」


 レーナは手を差し出した反対の手で、『漆黒の森』を指さす。


 「やっぱり行くんだね」

 「ええ、どの道追放処分を受けた私たちはアーカイブ領に戻ることは許されません。ならば、私達に残っている選択は、この『漆黒の森』を進む他ありません」

 「そうか………でも、怖いな」

 「大丈夫です。私も怖いです。でも、リックとなら怖くありません」


 レーナの顔には、迷いが無かった。

 ならば、僕も迷いを捨てないといけない。


 レーナが差し出した手を僕は、食糧の入った袋を持っている反対の手で、しっかり握る。


 「うん、レーナ。二人なら、大丈夫だよね」

 「ええ、二人なら大丈夫です」


 そうして、僕達は手を握ったまま、『漆黒の森』の中に進むのであった。


 レーナと一緒なら大丈夫だと、僕が安堵してしまうほど、レーナの手は、とても柔らかく、温かかった。




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