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追放された不遇職である『ドラゴンテイマー』の僕は、婚約者だった公爵令嬢と共に生き抜いていく  作者: 保志真佐


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04二人共、追放




 「ど、どうなっているんだ?」

 「『呪導師』…………あの【ジョブ】も不遇職だよな」

 「婚約者だった者同士、二人揃っての不遇職って」


 周囲の人間が同士で声を潜めて静かに会話し合うが、声が駄々洩れである。


 「な、な、何ということじゃ………………」


 レーナの父親であるシンギュラル公爵が、それぞれの指に宝石の指輪を嵌めた手をワナワナと震わせる。


 顔は真っ赤に染まっている。

 余程、羞恥心があるようだ。


 まぁ…気持ちは分からなくもない。


 【ジョブ】で将来や優遇が決めるこの世界…特に【ジョブ】至上主義のセイクリッド王国にて、高い地位を持つシンギュラル公爵家の令嬢の婚約であった僕の【ジョブ】が不遇職。

 

 そして、それだけには飽き足らず、今度は娘のレーナが授かった【ジョブ】も不遇職なのだ。

 シンギュラル公爵家としては、これ以上ない失態だろう。


 この場には、僕の家であるアーカイブ辺境伯家とレーナの家であるシンギュラル公爵家だけでなく、アーカイブ辺境伯家と親交ある貴族や商人といった者達もいるので、羞恥心も倍増だ。


 「………」


 因みに、当人であるレーナは自身の身体を確かめながら、無言のままである。


 僕の時のように、不遇職を得て、ショックを受けるかと思ったが、その様子は見られない。


 「レ、レーナ………………そ、その【ジョブ】………ちゃんと得られたね。お、おめでとう」


 僕は慰めになるかどうかわからないが、取り敢えず、おめでとう…と言った。


 「ええ、そうですね」


 対するレーナは、冷静な様子で受け答えをする。


 というか、冷静過ぎる。

 僕のように落ち込むことは無い。

 胆力が違うよ。


 でも、これからどうすれば。

 僕もレーナも不遇職。


 この状況を僕の父ベルガーやレーナの父シンギュラル公爵家が許すはずが無い。


 そして、案の定許されなかった。


 「くっ!人払いじゃ!アーカイブ辺境伯!人払いさせぃ!!」

 「分かりました」


 シンギュラル公爵が声高々に、父のベルガーに人を払いさせるように指示をする。


 これ以上、自身の身内の羞恥を多くの人間に見られる訳にはいかないのだろう。




 ベルガーの命令により、程なくして会場から多くの人が退場する。

 恐らく、彼らはこの後、シンギュラル公爵から賄賂などを渡させ、レーナが不遇職を受け取った事実だけは公言しないようにさせるだろう。


 公爵家ともなれば、名声は何よりも大事だから。


 後に乗ったのは、僕とレーナ、そして兄と父、シンギュラル公爵だけだ。


 僕とレーナはお互い隣同士でずっと立ちすくみ、ベルガーと兄も無言のまま遠巻きに僕とレーナを見ていた。


 シンギュラル公爵の方は、今にも殺しそうな勢いでレーナを睨んでいた。


 「貴様………分かっているな」


 レーナに対して、シンギュラル公爵は唸るような声で言う。


 「はい」


 レーナは、まるで…この後にシンギュラル公爵が何をするのか理解している顔で頷く。


 シンギュラル公爵は、一つ息を吐くと、


 「貴様は、もう我がシンギュラル公爵家の者では無い。貴様を廃嫡し、追放処分とする!!」


 と、告げた。


 それは僕が父から追放を宣言されたのと、全く同じ状況だった。

 これで、僕とレーナは二人仲良く追放処分を受けることとなった。


 この追放宣言に反論したのは……僕だった。


 「ま、待ってください?!僕は良いとしても、レーナも追放何て!それは、やり過ぎです!!


 僕は初めて、公爵と言うこの国で王族の次に立場の高い人に反対の意見を述べた。


 僕が追放させるのは、仕方がない。

 もともと、父や兄のように体格に恵まれていなく、授かった【ジョブ】も不遇職。


 誰がどう考えても、出来損ないだ。


 でも、優しいレーナが追放させるのは、我慢できない。

 好きな人が追放何て扱いをされるのは耐えられない。


 「ま、待って下さい!リック!近づいては行けません!!」


 レーナの制止の声を無視して、僕はレーナの追放処分を取り消して貰おうと、真摯な顔でシンギュラル公爵に詰め寄る。


 しかし、それが逆にシンギュラル公爵の神経を逆上させた。

 シンギュラル公爵は蛆虫を見るような目で僕を睨み、顔を歪ませる。


 「き、貴様!不遇職の分際で、この私に近寄るとは?!不快!」


 逆上したシンギュラル公爵は、そう言って右手を前に突き出す。


 程なくして、突き出された右手に魔力が集まっていく。


 「〈ファイヤーボール〉」


 シンギュラル公爵が詠唱をする。

 すると、右手から僕に向かって、顔程の大きさの火の玉が放たれる。


 赤い火の玉は、見るからに熱そうであり、触れば火傷程度では済まないだろう。


 これはシンギュラル公爵の【ジョブ】である『賢者』による「スキル」の力だ。


 〈ファイヤーボール〉自体、魔法の中でも初級の物だ。

 魔法系統の【ジョブ】を授かった者ならば、誰でも使うことが出来る。


 だけど、『賢者』という【ジョブ】は、魔法系統の中では、最高ランクの【ジョブ】である。

 授かるだけでも一国を冠絶する魔法使いになれるほどだ。


 その『賢者』から放たれた〈ファイヤーボール〉。

 僕なんて掠っただけで、ただで済むはずが無い。


 火の玉が僕の目の前まで迫る。


 僕は覚悟を決め、腕で守ろうとしたが。


 カシュ!

 突如、シンギュラル公爵から放たれた〈ファイヤーボール〉が、消える。


 「レーナ!」


 そして、気づけばレーナが僕の前に立っていた。


 「リック!無事でした?」

 「だ、大丈夫だよ!レ、レーナこそ大丈夫?」

 「ええ、見ての通り無傷です」


 レーナは緊迫した様子で僕の無事を確認するので、僕は平気であると伝え、レーナ自身も怪我無いと言う。


 第三者が遠くで見ていれば、シンギュラル公爵からの〈ファイヤーボール〉が一瞬で消え、レーナが突然僕の前に現れたように見えただろう。


 でも、僕は知っている。

 レーナは目に留まらぬ速さで僕の前に移動して、〈ファイヤーボール〉を”素手で”掻き消してくれたのだと。


 何故、レーナにそんなことが出来るのか。

 答えは僕だけが知っている。


 「お父様!暴力は行けません!」


 レーナは先程のシンギュラル公爵の行動を非難する。


 「貴様、どこまでも私の邪魔を?!」


 シンギュラル公爵の顔は真っ赤を通り越して、いっその、事血の気が引き気味であった。


 暫し、手を固く握りしめていたが、突然何かを思いついたみたいに、目を細める。

 嫌な予感がする。


 「そうだ!『漆黒の森』だ!二人共、『漆黒の森』に追放だ!!」


 シンギュラル公爵は、そう叫ぶのであった。




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