03またしても不遇職
僕は不遇職を得た時とは、別に絶望する。
レーナと婚約者では無くなった。
それは、レーナと結婚することは出来ないという事と同じ。
つまり、レーナと…もう一緒に居られない。
それは僕にとって辛すぎる。
僕はレーナの事が好きだし、母を覗いて、僕の唯一の理解者だとも思っている。
「お、お父様!それは余りでは、ありませんか!!」
レーナが険しい顔で普段らしくない大声を上げて、シンギュラル公爵に抗議する。
良かった、レーナは婚約破棄に反対のようだ。
それだけでも嬉しい。
「もう決まったことだ。お前が講義する事では無い」
しかし、婚約破棄の決定は覆らない。
貴族家同士の婚約は、その家の当主間で行わる。
なので、当然だが、婚約破棄も当主同士の話し合いだけで完結する。
アーカイブ辺境伯家当主の父が、シンギュラル公爵家の当主からの婚約破棄の要望に了承した。
これだけで、婚約破棄は成立なのだ。
僕やレーナが介入する余地は無い。
シンギュラル公爵は、まるでレーナを聞き分けの無い子供どころか、屑物でも見るかのように、ギロっと視線を送る。
有無を言わさない様子だ。
「ぐっ………」
レーナは悔しさで奥歯を噛みしめる。
一方の僕は、レーナとの婚約破棄に酷くショックを受けつつも、仕方がないと思うしかなかった。
僕がレーナの事を好きでいる事実何て関係ない。
不遇職を授かった僕が公爵家の令嬢であるレーナと婚約を結んでいる資格は無い。
【ジョブ】至上主義のセイクリッド王国では、不遇職持ちは勿論の事、その不遇職持ちを擁護や加担する者も非難の対象だ。
レーナの事を想えば、僕と縁を切るのが幸せなのだ。
それでも、悲しいことは変わりないけど。
「それは、そうと………まだ、”お前の”【ジョブ】の儀式がまだだったな。早く水晶に触れ、【ジョブ】を得ろ」
シンギュラル公爵は、そう言う。
そうなのだ。
今日は僕の十六歳の誕生日であり、僕が【ジョブ】を得るための【ジョブ】の儀式の日であるのだが、僕だけではないのだ。
レーナの【ジョブ】の儀式の日でもあるのだ。
彼女は、僕と誕生日が近く、つい最近十六歳になったばかりだ。
【ジョブ】を得るための【ジョブ】の儀式は、頻繁に行わる訳では無い。
十六歳になれば、水晶から【ジョブ】を授かれると言っても、その水晶を稼働させること自体、特殊な祈りが必要なのだ。
だからこそ、ここには神父の人もいる。
十六歳になったばかりの者一人一人のために、その都度祈りを行使して、水晶を稼働させるのは、無理がある。
なので、セイクリッド王国では、誕生日が近い者たちを集めて、決められて日で一気に【ジョブ】の儀式を行うのだ。
つまり、僕が最初に【ジョブ】を得て、次にレーナが【ジョブ】を得るのだ。
「い、今!【ジョブ】どころでは?!」
「いいよ、レーナ」
一方的に婚約破棄をさせて置いて、さっさと【ジョブ】を得ろとは勝手だと、レーナがシンギュラル公爵に反論するのを、僕が止める。
「僕の事は、もう良いんだ」
「リ、リック!!」
「僕、レーナの【ジョブ】の儀式…見たな」
目を見開くレーナに、僕は努めて明るいい感じで言う。
これ以上、僕に味方してくれるレーナの印象を悪くさせるわけにはいかない。
「わ、分かりました!」
レーナは渋々従い、水晶が置かれている台の前に行く。
そして、水晶に手をかざす。
少しの間があった後。
キラーン。
水晶が強い光を放つ。
その光は徐々に大きくなっていき、ゆっくりとレーナの体に流れ込んでいく。
僕の時も、そうだった。
水晶から光が出て、その光が僕の体に流れ込んだのだ。
これによって、【ジョブ】を得るのだ。
【ジョブ】を得ると、その得た【ジョブ】に関する知識や使い方が勝手に頭に入り込むのだ。
一旦、レーナの【ジョブ】は、何なのだろう。
僕は固唾を飲んで見守る。
しかし、【ジョブ】を得たレーナは訝し気な表情で、緩慢な動きで顔の向きを変え、僕を見る。
どうしたのだろうか?
僕は首を傾げるが、この次の神父の人の言葉で納得してしまう。
「レーナ・シンギュラルの【ジョブ】は………『呪導師』!!!」
神父の人がレーナの【ジョブ】を高らかに叫ぶ。
だけど、僕を含めて周囲が押し黙り、場に沈黙が訪れる。
これは先程の僕が【ジョブ】を得た時の状況と似ている。
何故なら、
「………………不遇職」
僕がレーナに聞こえないように、ボソッと呟く。
何と言う事か。
レーナの授かった【ジョブ】である『呪導師』は、僕の授かった『ドラゴンテイマー』と同じく、不遇職と呼ばれる【ジョブ】だったからだ。




