21レーナ・シンギュラル③
「リック。こ、これは……その……」
私は、どう弁明しようか口ごもる。
普通に考えて、騎士たちでも全滅するようなオークの集団を苦戦していたとはいえ、一人の貴族女性が素手で倒したのだ。
不審に思わない方が可笑しい。
暫し、私が何と弁明すべきか考えていると、リックがゆっくり開く。
「レーナさん。取り敢えず、ここから離れよう」
冷静な一言だった。
確かに、ここには騎士たちとオークたちの死体がある。
血の匂いに釣られて、他の魔物が寄ってくるかもしれない。
私はリックに従い、この場を離れる。
私たちは少し歩き、草木の低い広めの野原に出る。
私とリックは、大きめの岩に腰を下ろす。
互いに無言である。
だけど、ずっと無言のままとは行かず、リックが切り出す。
「レーナさんは………【ジョブ】なんて持ってないよね?」
なるほど、リックは私が【ジョブ】の所有者かと思ったのかな。
オークの集団を素手で倒すなんて、【ジョブ】持つ以外普通は考えられない。
16歳になれば、私も【ジョブ】を授かる。
けれど、まだ私は15歳である。
「いいえ。私は【ジョブ】を持っていません」
「じゃあ、なんで………あんな」
リックが何を言いたいのか分からない様子。
なので、意を決して言う。
「私は人ではありません」
それはシンギュラル公爵家以外の者に言ってはいけない事。
けれど、私は言った。
「え?」
当然の反応で目を点にさせる。
「私には、魔人の血が流れているのです。つまり、私は半魔人」
「半魔人……………」
リックは息を飲む。
「魔人って、あれだよね?数百年前に、人と争ってた」
「ええ、その魔人です」
私は語る。
シンギュラル公爵家の初代当主は、自身と同じ半魔人だったことを。
自身は魔人の血を引いて生まれたことを。
半魔人故に、身体能力は人を超え、母からは実家の格闘術を教わった。
家では実の父親に蔑まれ、使用人にも疎まれていた。
唯一の理解者である母も他界した。
母を失って心を落としていた中、婚約したのがリックだった。
リックは私の話を遮らずに、最後まで真剣に聞いてくれた。
「それは……辛かったよね。僕も、その傷…分かるよ。自分を唯一理解してくれる人を無くすと、本当に心に穴が開いたかのような感覚が襲ってくる」
「はい。母が亡くなった時、本当に辛かったです。いっその事、自分も死のうかと…そう思ってしまいました」
「でも、レーナさんが死ぬのを踏みとどまってくれたおかげで、僕が今生きてる。レーナさんは命の恩人だ」
リックは息を大きく吸った後、言い切る。
「僕、レーナさんが半魔人なんて、誰にも言わないよ」
「リック……」
リックの目には嘘は無かった。
「レーナさんは僕を守ってくれた。恩を仇で返すつもりなんて無い。僕はレーナさんの婚約者なんだ。レーナさんの秘密は、僕が墓まで持って行くよ」
それを言われた時、私の胸に何かが来る。
後になって、その時こそ私がリックを一人の人として、一人の異性として好きになった瞬間だったのだろう。
「でしたら、そのレーナ”さん”呼びは止めてください」
「え?」
「私の事は、レーナと」
リックは目を見開いた後、微笑む。
「分かったよ。レーナ」
「はい。これからも、よろしくお願いします」
私も微笑み、手を差し出す。
その手をリックは受け取り、手を取り合うのだった。
今日、初めて私はリックと心を交わしたような……そんな気がした。
それから、私たちは何とか、歩きで避暑地に辿り着き、保護される。
リックは約束通り、誰にも私が半魔人だなんて事実は言わなかった。
あの日から、私とリックは、良く喋る仲になった。
リックは私がいるシンギュラル公爵領に、私はリックがいるアーカイブ領に、行く回数が前より格段に上がった。
私がアーカイブ領に行く時、母から教わっていた『魔闘術』………は、リックには難しいそうなので、基礎的な体術を教えた。
リックは体が、そこまで強靭と言う訳では無かったが、筋は悪くなかったと思う。
二人して、【ジョブ】が何になるか話をしていた時もあった。
リックは良く言っていた。
どうせ、自分には大した【ジョブ】なんて来ないと。
もし、良い【ジョブ】を授からなかったら、婚約者の私に恥を掻かせてしまうと。
そんな詰まらないことをきにしても仕方が無いと思うのですが。
今、思うと…余り笑えない話ではあるが。
そんなリックは【ジョブ】の儀式当日、『ドラゴンテイマー』という【ジョブ】を授かる。
世間では、『ドラゴンテイマー』は不遇職と言われ、リックは追放処分を受けてしまい、私との婚約も解消された。
さらに、私も不遇職と言われている『呪導師』を授かる。
これにより、父は激昂。
私も追放処分を受け、リックと二人揃って、「漆黒の森」に追放される。
でも、私には不思議と、恐怖はそこまでなかった。
何故なら、リックが一緒に居るからだ。
これから起こるであろう大変な事も、リックとなら乗り越えられそうな、何の根拠も無い考えがあった。
その後は、私とリックは「漆黒の森」を進んだ。
黒竜に出会い、卵を託された。
そして、その日の夜…私とリックは結ばれた。
私とリックは肌を重ね、一夜を共にしたのだ。




