20レーナ・シンギュラル②
「どうしたのですか?!」
私は馬車を守る騎士に状況を聞く。
「オークの群れが襲撃に来ました!今、我々が応戦しています!」
どうやら、馬車の進行方向に、オークの群れが出没し、馬車を獲物と捉えたようだ。
オークとは、大きな体格に、大きな武器を持った二足歩行の豚の様な魔物。
単体の脅威としては、ゴブリンよりも強く、オーガよりも弱いぐらいか。
ゴブリンが使うような木のナイフと言った簡易的な武器とは違う。
しっかりとした鉄で出来た武器を使う。
オークたちが持つ武器は全て、人の冒険者や傭兵などから奪ったものである。
殺して奪ったものを使っているのだ。
武器を使って、集団で待ち伏せして襲う。
オークの最も驚異的なところは、この狡猾さだ。
騎士達とオークの集団との戦いが始まる。
しかし、騎士たちはシンギュラル公爵家の騎士団。
オークの集団と言えども、優勢に戦っている。
「リック。オークの集団が出ました」
「オークの集団?」
「大丈夫です。騎士たちが応戦してくれています」
「そう…なんだ。ちょっと怖いな」
私は努めて冷静に言う。
一方のリックは、少し不安そうな顔をしていた。
まぁ…貴族自体が魔物に襲われること自体、殆ど無いことなので、不安を感じてしまうのは仕方が無い。
私とリックの二人は、静かに馬車の中で待つ。
お互い無言である。
けれど、問題外が起こった。
「う?!」
「ああ?!」
「ぐは?!」
馬車の外で、次々に騎士たちの呻き声が聞こえてきたのだ。
私もリックも怪訝な顔になる。
ふと…リックが馬車の窓から外を見ると、
「な、何あれ?!」
リックが窓の外を見て、驚きの声を上げる。
私もリックに倣い、窓の外を見る。
そこには、通常のオークよりも、さらに大きいオークが二体に、もっと大きいオークが一体いた。
明らかに毛色の違うオーク三体は、騎士たちを叩きのめしていた。
「あれは何でしょう?」
「あ、あれは……まさか、ハイオークと……オークキング」
「知っているのですか?」
どうやら、リックには心当たりがあるようだ。
「う、うん!普通のオークが歴戦によって成長した姿がハイオーク。そのハイオークが、もっと成長すると、オークキングになるんだ」
「漆黒の森」との国境を任されているアーカイブ辺境伯の次男と言うだけあって、魔物の知識が多かった。
リックによると、通常のオークが成長すると、ハイオークは通常のオークの数倍の戦闘力があり、さらに成長したオークキングはハイオークの数倍の戦闘力がある。
ハイオーク2体と、オークキング1体で、大体オーク20体分はある。
元々のオークの集団と合わせれば、オーク数十体分。
いくら、彼らがシンギュラル公爵家の騎士団とは言え、避暑地への護衛……ましてや私の護衛など、そこまで数が多くない。
「これは……不味いです」
私は苦虫を噛み潰した顔をする。
騎士たちが全員殺されるのは、時間の問題だった。
気づけば、騎士たちは全滅し、オークたちの意識は私達が乗る馬車に移る。
「ど、ど、どうしよう?!」
慌てふためく、リック。
しかし、暫くして決意を露にしたリックは、懐から短剣を取り出す。
恐らく護身用。
「レーナさんは逃げてください!」
「な、何を言っているのですか?」
「僕が何とか時間を稼ぐので、レーナさんは、その隙に」
「死にますよ!」
自分でも、分かるぐらい声を荒げる。
だけど、リックの顔には諦めの感情があった。
「良いんです。僕は出来損ないで、無能。アーカイブ辺境伯の次男として相応しくありません。【ジョブ】も、どうせ大したことありませんから。ここで、死んでも構いません」
「………なんて事を…言うのですか」
まるで、今から死にに行く兵士のようだ。
ずっと家で出来損ないと言われ、自分には存在価値が無いとリックは思っているのだ。
なんて不幸な。
気づけば、オークたちは私達の馬車のすぐ近くまで来ていた。
後、数秒で馬車に接触する。
覚悟を決めたリックは、馬車の扉を開けて、オークたちに立ち向かおうとした時、
「くっ?!………これは仕方ありませんね!」
大きく息を吐いた私は、次の瞬間…、
「わ?!」
リックを押しのけて、馬車を降りる。
「レーナさん!」
止めようとするリックだったが、私は既にオークの集団に駆けていた。
その速度は、到底貴族の女性が出せる速度ではない。
私は半魔人。そこらの冒険者を凌駕する身体能力を持っている。
オークの目の前に来た私は、勢いに任せて、オークの集団と戦った。
途中、ハイオークとオークキングがいたが、私は上手く別のオークの影を駆けまわり、死角を利用しながら、オーク一匹ずつ処理した。
腹や頭に、鋭い突きや蹴りを叩きこみ、何とか応戦する。
一対多数の基本は、正面から多数を相手取るのは、危険と言う事だ。
相手がゴブリンなら、まだ大丈夫だが、オークともなると、油断すれば不覚を取る場合がある。
ましてや、相手にハイオークとオークキングもいる。
時間を掛け、私はハイオークとオークキング以外のオークを倒した。
残り3体。本丸だ。
私がオークキングに向けて踏み込みを入れた、その時、
「あ?!」
やってしまった。
油断していたわけではないが、オークか死んだ騎士たちの返り血が地面に滴っており、それを踏んだ私は足を滑らせてしまう。
体制を崩す私をオークキングは見逃すはずもなく、
「がは?!」
オークキングの膂力によって、大きなハンマーが振り下ろされる。
私は咄嗟に両腕でガードしたが、ガードごと地面に叩きつけられる。
両腕に激しい痛みが走る。
腕の骨は折れてはいないと思うが、ヒビは少しだけ入ったと思う。
私が半魔人ではなかったら、両腕を粉砕され、頭をかち割れただろう。
「ああ?!」
地面に叩きつけられた私に、オークキングの両脇にいたハイオークが棍棒で叩く。
オークキングほどではないが、オークを上回る力に私は傷を負い続ける。
頭から垂れる血に、鈍い痛みを感じつつも、何とか私は体制を立て直し、その場を逃れる。
ハイオークの1体が私へ駆ける。
まだ、痛みから回復していない私は、震える両腕で構えを取る。
だが、そこで、
「はあ!」
ハイオークよりも、ずっと小さい体の者が突進に勢いで、ハイオークの脇腹に短剣を差したのだ。
それは、リックだった。
私はリックを気にしている余裕は無く、脇腹を差されたハイオークに、大きく飛び、渾身の蹴りをこめかみに叩きこむ。
崩れ落ちるハイオーク。
その後は、力を振り絞り、残りのハイオークとオークキングを倒す。
「ふぅ……」
私は何とかオークの集団を倒せた。
額に滴る汗を払う。
体中に走るのは、鈍い痛み。
やっぱり、1対多数は無謀である。
いくら、私は半魔人とは言え、オークの集団を一人で、しかも素手で戦えば、相当疲弊する。
「………」
ふと…誰かの視線を感じる。
私は視線を向けると、
「リ、リック」
戸惑う私の視線の先には、信じられない物を見るリックの顔があった。




