02婚約破棄
実の父親から追放と言い渡され、当然…僕は狼狽する。
「ち、ち、父上?!つ、追放と言うのは?!」
「そのままの意味だ」
父親は表情を動かさず、淡々と答える。
「お前は今日、不遇職である【ジョブ】を授かった。我がアーカイブ辺境伯家に置いて、そのような”欠陥品”は要らん」
実の息子を欠陥品呼ばわり。
その路銀の石を見るかのような視線と乾いた風のような声色に、僕は喉が詰まる感覚を覚える。
僕は父親から要らない者として思われているのだ。
………………いや、考えてみれば、今に始まった事じゃないな。
思えば、僕が物心ついた時から、父親から愛情らしいことを受けた事なんて、記憶の中では一度も無かった。
僕の事を見てくれていないのだ。
「無様だな」
ふと…父親と同じく乾いた声で話しかける者がいた。
「………………兄さん」
僕や父のベルガーと同じ金髪に、父親譲りの鋭い眼光。
父のベルガーと見比べれば、一目で親かだ思うだろう。
実際、その通り。
彼は、僕の兄だ。
ペルシャ・アーカイブ。
アーカイブ辺境伯家の長男であり、父であるベルガーの正妻との子供。
貧弱な僕と違い、兄は体格が良い。
そして【ジョブ】に至っては、『竜騎士』という戦闘系の【ジョブ】の中では最高ランクの【ジョブ】を授かっている。
アーカイブ辺境伯家に相応しい【ジョブ】。
兄と僕とは、異母兄弟だ。
異母兄弟で分かるが、僕は正妻の子供ではない。
僕の母親は側室であった。
小さな男爵家からの出で、生まれつき病弱な体であったために、一年前に病気で亡くなっている。
そして、父は僕の母に対しても冷たかった。
やはり、側室だからだろうか。
父が愛しているのは、正妻と息子の兄だけ。
出来の良い兄さえいれば、僕は不要なのだ。
そう思うと、悲しいと言うより、諦めの感情が渦巻く。
現実逃避から僕は視線を下に逸らす。
だけど、その時、
「………………リック」
鈴の鳴るような綺麗な声が僕の耳に入る。
僕は咄嗟に、声をする方を見る。
そこには、
「レーナ」
僕の視線の先には、通り過ぎる人が二度見するほどの美人がいた。
雪のような白い肌に、細身な体つき。
服の上からでも分かる大きな胸部。
やや吊り目になっている眼球は、金色の輝き。
僕と同じ十六歳であることを考慮しても、背丈は女性にしては高く、男にしては背丈が乏しい僕よりも、少し身長は上だ。
特徴的なのは、髪。
背中まで流した長い髪は、濃い青色であるミッドナイトブルーに染まっている。
彼女の名前は、レーナ・シンギュラル。
シンギュラル公爵家の長女であり、僕の”婚約者”である。
レーナは僕に蔑んだ視線を送ることは無く、心配するような顔で僕を見ていた。
「その……大丈夫………………じゃないですよね」
彼女は僕なんかと違って、頭もよく、今の状況は十二分に理解していた。
僕が不遇職を得てしまったばかりに、父親から追放宣言されたことに。
これは率直に言って、【ジョブ】至上主義であるセイクリッド王国に住んでいる身としては、僕の人生が終わったようなものだ。
周囲が僕を蔑む中、レーナはゆっくりと僕に近づき、
「追放何て、余りに酷いです」
優しく、僕の背中を撫でる。
「レ、レーナ…………」
それだけで、僕は涙が出そうな程、嬉しかった。
レーナは、いつもこうだ。
冷たいような雰囲気を出しつつも、内面はとても優しい。
僕には、勿体ないくらいの婚約者。
一年前の母が亡くなった際、僕は酷く塞ぎこんだ時があった。
何故なら、生まれてから僕に唯一愛情を与えてくれた存在が、母だったからだ。
母無しでは生きられない。
いっその事、死んでしまいたい。
母が死んだ時は、死ぬことすらも考えていた。
父や兄を含め、周りは塞ぎこむ僕を、気に掛けることはなかった。
レーナを除いて。
心の優しいレーナは塞ぎこむ僕を、必死に慰めてくれた。
始めは、婚約者としての役割で慰めているだけだろうと思った。
でも、次第にレーナの言葉で立ち直った。
今では、レーナは僕の母を同じぐらい大切な人だ。
母が亡くなった現状では、レーナがこの世で唯一の僕の大切な人だ。
婚約者である僕は、レーナといずれ結婚できることが嬉しい。
僕はレーナのためなら、どんなことだってする。
だけど、そうして僕がレーナに慰められている時、
「ふん!今日は婚約者を含めた【ジョブ】の儀式に居合わせてみれば」
僕とレーナの元に、初老の男が歩み寄る。
豪華な服を着こみ、手には煌びやかな指輪、首には効果そうなネックレスを付けた……民が抱いている貴族を具現化したような見た目である。
この人は、ナリンガル・シンギュラル。
シンギュラル公爵家の当主。
家名で分かるが、レーナの父親だ。
ナリンガルは僕を見下したような目で一瞥しつつ、僕とレーナの横を通り過ぎ、僕の父の元に行く。
「まさか、婚約者の御子息が不遇職を得るとは。何と、不快不快」
「申し訳ありません。シンギュラル公爵」
僕の父親であるベルガーは僕のへの冷めた態度とは言って変わって、レーナの父親であるシンギュラル公爵に頭を下げる。
そんな僕の父親にシンギュラル公爵は目を細めつつ、次に僕とレーナを見る。
「当然、その不遇職を得たゲテモノとの婚約は破棄だろうな」
「はい。その通りです」
シンギュラル公爵は息を吸うように、僕とレーナとの婚約を破棄を要求し、ベルガーは、それに何の憂いも無く、了承する。
今この時、僕とレーナは婚約者では無くなったのだ。
「「な?!」」
聞いていた僕とレーナは、お互い驚愕した顔をする。




