19レーナ・シンギュラル①
私の名前は、レーナ・シンギュラル。
セイクリッド王国にあるシンギュラル公爵家の長女である。
私には、生まれつき人とは違うところがある。
それは私の血は半分、魔人と言う事だ。
魔人は、かつて人と争っていた人型の魔物。
【ジョブ】を持った人間に対し、魔人は高い身体能力に、特殊な力を持っている。
確かに、私は小さい頃から、体の頑丈さには自信があり、身体能力も同年代の女性どころか、男性を凌駕するものだった。
私が半魔人だからだろう。
魔人特有の特殊な力は分からない。
私に、そんな力があるのかどうかすら知らない。
でも、何となく”血”に関係した力なのではと、思っている。
理屈は分からない。
本当に何となくの感覚だ。
どうやら、私が半魔人な理由は、シンギュラル公爵の初代当主が人と魔人との間に、生まれた半魔人だからだ。
何故、初代が半魔人なのか、今となっては分かり様も無い。
初代当主の就任は、人と魔人との争うが集結した数百年前だからだ。
父と母も人なのに、突然私が半魔人として生まれたのは、恐らく先祖返り。
「汚らわしい、化け物め。私にも、同じ血があると思うと鳥肌が立つ」
半魔人の私は、父は激しく嫌悪した。
公爵家では、私は空気見たな存在。
父は私を避け、使用人も極力関わらないようにしていた。
私も私で、間違ってもシンギュラル公爵以外の者に、自身が半魔人と言うことを明かしてはいけない。
そんな私に向き合ってくれたのは、母だった。
母は子爵家の家の者で、父にとっては側室の妻。
母は『魔闘術』の使い手であった。
元々、母の家は近接格闘を得意としていた冒険者が始まりだったらしい。
その子爵家が代々受け継いできた格闘術が、『魔闘術』。
この『魔闘術』を母から教わっている時が、私にとって幸福の時間だった。
毎日の反復練習と稽古。
使用人たちや父は、『魔闘術』を学ぶ私を可笑しな人間として見ていた。
この国では、【ジョブ】が価値基準。
【ジョブ】が、まだ無いのに戦いを学ぶのは、頭が可笑しいと思われるのは当然の考えなのだ。
そこに加え、貴族の女性が格闘術を習得するのは、逆張りも良いところだろう。
でも、私には『魔闘術』を通して母との触れあいが生きがいだった。
母曰く、私には才能があるとのこと。
そうなのだろうか?
しかし、そんな母は流行り病に呆気なく死ぬ。
私は人生で初めて、泣いたのかもしれない。
大切な誰かを無くすのは、こんなにも心に来るなんて。
私は心の拠り所を失った。
そんな私の婚約者はアーカイブ辺境伯の次男のリック・アーカイブだった。
「レーナ・シンギュラルと言います」
「………リック・アーカイブです」
貴族令嬢としての作法でお辞儀をした私に対して、相手の婚約者…リックは、空虚な顔で挨拶をする。
リックの父であるベルガー・アーカイブは、セイクリッド王国では知る人ぞ知る強者。
威風堂々とした立ち姿は、見方を安心させ、敵を震撼させる。
そんなベルガー・アーカイブの息子が婚約者と来ていたので、てっきり筋骨隆々な方を想像していたのに、リックはベルガー・アーカイブと同じ金髪に、茶色の目をしていたが、身体は………はっきり言ってしまえば、貧弱な見た目であった。
私は女性の中でも、かなり高身長な部類に入るが、そんな私よりも少し背丈の小さいのが、リックだった。
リックは、私と初めての挨拶でも、何の色も無さそうな顔をしていた。
それとなく、アーカイブ辺境伯家の使用人に聞いてみると、どうやらリックは、ベルガー・アーカイブの息子でありながら、兄のペルシャ。アーカイブと違って、生まれつき余り体格の良く無いという理由から、父のベルガーからも、兄のペルシャからも冷たい視線で見られていたようだ。
だけど、彼の母だけは、彼を愛していたようだと。
さらに聞けば、どうやらリックも少し前に母親を病で失くしたとの事。
それで納得した。
彼も周囲が蔑む中、大事な人を失って、相当…心に来ているのだと。
周囲から距離を取られ、心の拠り所を失った。
そこに、私は強い共感を持った。
それから私は、リックに会うたびに、深く関わろうとした。
けれど、リックは全く心を開こうともしない。
一応、私の話は聞いてくれる。
だけど、何処か私を信用していない感情が滲み出ていた。
余り、リックとの仲が進展しない状況で、ある時…私はシンギュラル公爵領にある避暑地にリックを連れて行った。
しかし、そこで問題が発生する。
私とリックを乗せた馬車が魔物の群れに囲まれたのだ。




