18憩いの時間
「何て大きな卵でしょう」
レーナが卵に近づき触れる。
続いて僕も触れる。
滑々してる。そして、温かい。
この卵が生きているというのが伝わってくる。
卵は大体、僕と同じ背丈の大きさである。非常に大きい。
この卵は黒竜が光となって消えた後に、出現した。
黒竜は言った。
自身は特殊なドラゴンで、通常の繁殖は出来ず、死ぬときに己の子を産み落とすと。
だから、死んだあと、我が子を頼むとも言った。
あの光となった瞬間が、黒竜の死とすると、この卵が我が子で間違いない。
まだ、状況は急展開過ぎて、理解が追いつけていないけど、取り敢えず黒竜に言われた通り、この卵の子を育てればいいのかな?
見たところ、この卵はまだ生まれそうな気配は無い。
生まれるまで待てってことか。
「どうする、レーナ?」
僕はレーナに聞く。
レーナは顎に手を当て、少し考えてから、
「暫く、そっとしておきましょう。いずれ卵から産まれるかもしれません。今日は休みましょう。いろいろあって疲れました」
「うん、そうだね」
昨晩は僕とレーナも不遇職騒動で追放処分になり、今日は朝から「漆黒の森」に追放され、森の中ではレーナは魔物たちと戦い、アースドラゴンに遭遇し、黒竜にも出会った。
終いには、黒竜から子供を託された。
何と言うか、僕の16年の人生で最も濃い1日を体験した気分だ。
「外は、もう夜になりそうです」
レーナは僕達が落ちてきた穴を見上げて言う。
上の穴からは夕暮れの光が若干漏れている。
もうすぐ夜になる。
僕は黒竜が集めたと言った武器や道具の山に向かう。
そこには、いろんなものが置いてあった。
剣や槍、ナイフ、鎧、縄など。
小さい傷が多く入っているが、使える物も多い。
昔、「漆黒の森」に挑んだ人たちであって、素人の僕でも一級品であるのが分かる。
僕にも何か使えるのは……、
「これはガントレットですね。私にも使えそうです」
僕と同じく武器の山を物色していたレーナが、左右のガントレットを拾い上げる。
それは使い古されてはいるが、まだ使えるぐらいには形を保っている。
早速、レーナはガントレットを付け、握ったり開いたりする。
似合っている。
「防具もあるみたい」
山の中から、いくつか防具も見つける。
見たところ、女性用の防具もある。
武器と同じく、まだ使えそう。
「折角です。着てみましょう」
そう言って、レーナは防具を物色し、気に入った物を手に取る。
僕も着れそうな防具を探す。
「向こうで、着替えてきます」
レーナは防具を持ったまま、広い空間の中でも隅にある大岩の影へ歩いていく。
僕も選んだ防具を素早く着替える。
あんまり見かけない防具なので、着る際に少し難儀したが、着てみれば大したことは無かった。
僕が選んだのは、軽剣士の鎧と思われる防具。
防具の中でも、比較的防御力が高く、それでいて動きやすそうな防具を選び、着用した。
鎧はそれほど重く無く、動きやすさ重視で設計されており、守るべきところは、しっかり守られている。
僕みたいな貧弱な人でも、何とか着れた。
少しだけ、ゆとりがあるけど、戦闘をしない僕には、余り問題ないことだ。
着用した鎧を確かめているところに、レーナが戻ってきた。
「どうでしょうか?」
レーナの防具は、僕が着ているものよりも、さらに動きやすさ重視のものだった。
ガントレットに、足首全体を覆う頑丈なブーツ。
これなら、レーナの突きや蹴りの威力が上がるだろう。
回避優先のためか、腰回りと胸部の身が鎧として覆われていた。
二の腕と太もも、そして腹回りは何も覆われていなかった。
レーナの綺麗な臍が見える。
女性にしては引き締まった二の腕と太ももに、括れがしっかりありつつ、若干腹筋も出ている腹部に、つい目が行ってしまう。
僕は理性で眼を逸らす。
気を紛らわすために、道具の山を、また漁る。
そこで見つけたのは、
「あ!火打石」
道具に山に火打石を発見する。
簡単に火種が作れる。
これで火を起こせるようになる。
僕とレーナは穴の下に落ちている木の枝を出来る限り拾い上げ、火打石で火を付ける。
暖かい火は、座り込む僕とレーナの体温を温める。
焚火による火の明かりで、卵が照らされる。
今は憩いの時間だ。
「人生、何が起こるか分かりませんね。まさか、人と友好的なドラゴンに会うとは」
「そうだね。しかも、子供の事を頼まれるなんて。もしかして、世界で僕達が初めて?」
僕とレーナは、そんな談笑をしていた。
「これから、こういう事が起こるのかな」
今更だが、父から追放された事実が、僕の頭に圧し掛かる。
「漆黒の森」を歩いている間は、考えないようにしていたが、憩いの時間になると、頭の中は追放されたショックで満たされる。
やっぱり、肉親に冷たく追放処分を言い渡されるのは、来るものがあった。
レーナがいなければ、僕の心はどうなっていたか。
「情けなくも、不安になってきちゃった」
心細い声で言うと、レーナが片腕を僕の腰回りに通す。
慰めてくれているのだろう。
本当にレーナは優しい。
「大丈夫です、リック。私も…………不安です。でも、リックがいてくれれば、何とかやっていけそうな気がするんです。リック、ずっと私の傍にいてください」
「…………レーナ」
そうして、気づくと、僕とレーナは向き合っていた。
焚火に互いの横顔が照らされて、半分しか見えていないが、互いが互い眼をしっかり見ているのが手に取るように分かった。
どちらか、ともなく顔と顔の距離を徐々に縮める。
やがて、互いの顔の距離………もっと言うと、互いの唇の距離は零になる。
「「………」」
互いに無言であるが、感じるのは胸に宿る多幸感。
唇に感じる柔らかい感触。
温かみを残す体温。
僕とレーナはキスをした。




