17黒竜からの頼み
『二人に折り入って頼みがある』
黒竜が切り出す。
頼み?ドラゴンが?
何かと僕とレーナが聞くと、
『二人には、我の子供を育てて欲しい』
「「え?」」
僕とレーナが異口同音で、疑問の声を上げる。
子供を育てて欲しい。
黒竜の子供を。僕達、人間に?
『今日、我が二人と出会ったのは、運命だと思っている』
黒竜が上を見て、語りだす。
『我は黒竜。だが、他のドラゴンとは、大きく違った。人に敵意を抱くドラゴンに対し、我だけは人に興味を持っていた。ドラゴンたちは、そんな我を嫌悪した。しかし、我は他のドラゴンに比べて強く、迫りくるドラゴン共の皆、返り討ちにした』
思い返すのは、息吹一発でレーナでも倒せなかったアースドラゴンを焼き尽くしたこと。
黒竜は他のドラゴンとは、明らかに格が違う。
『いつしか、この森が「漆黒の森」と呼ばれたのは、黒竜である我が頂点であるが故。けれど、我は他のドラゴンたちから孤立した』
まさか「漆黒の森」と呼ばれているのが、黒竜が頂点であったのが理由なのか。
黒竜は首をこちらに向ける。
その眼光は希望を持っているように見える。
『そこで頼みに戻るが、育てて欲しい我の子供と言うのは、今から我が死ぬときに、産み落とされる我の子のことだ』
「死ぬときに産み落とされる?」
『そうだ。黒竜は特殊では、普通の繁殖は出来ん。その代わりに、死ぬときに己の子供となる存在を産み落とすのだ。我も生まれてから既に幾星霜も経った。寿命が尽きるのを待つだけのところに、我の声が聞こえる『ドラゴンテイマー』の者と、半分魔人の者が現れた。まさに、運命。お主らに子供を託しても良いような気がする』
「そ、そんなこと急に言われても」
黒竜の言葉に、僕は困惑するばかり。
いきなり、黒竜の子供を育てろと。
当然だけど、僕はドラゴンを育てたことが無いし、そもそも生き物を飼ったことが無い。
『勿論、ただでとは言わん。アレをお主らにやる』
黒竜が空中に、別の小さな火を灯す。
その小さな火は、移動して、広い空間の別の場所を照らす。
そこは空間の隅っこ。
そこには、火に照らされて、多くの物があるのが目視で来た。
見る限り、武器や防具、道具など…いろいろ。
『あれらは、我が趣味で集めた物。この「漆黒の森」に入って命を落とした者達の遺品だ。決して、奪ったものでは無い。あれらは、お主らにやる』
「あ、あれを?!」
僕は驚くが、見たところ、かなり高価なものに見える。
「漆黒の森」に入るような人たちは、大体高名な冒険者や傭兵になる。
ならば、彼らの武器や防具、道具は高性能なものであるはず。
僕はともかく、素手で戦うレーナには重要な装備になる。
戦力増強の上で、黒竜の提案は有難い。
『それと………お主、リックと言ったか。こっちに来い』
「え?そっちに?」
『そうじゃ。なぁに、悪いようにはせん』
黒竜の顔には敵意など無いので、たぶん大丈夫だと思うけど、改めてドラゴンという最強種の前に行くのは、恐れを感じてしまう。
僕は、ゆっくりと黒竜に向かう。
「リ、リック…気をつけてください」
レーナが小さい声で心配する。
心の中でレーナに感謝しながら、僕は黒竜の前に来る。
前に来て、しっかり見てみると、本当に大きい。
全長どれぐらいだ?
少なくともアースドラゴンの何倍もある。
『そう怖気付くな。お主には、知識をやろう』
「知識?」
『そうだ。我は人の言葉を話せるが、生まれてくる我が子や他のドラゴンは話せぬ。だから、お主の頭に竜の言葉を話せるように知識を送るのだ。………こんな風に』
「…ん?……へ?ああ?!」
突如、僕の頭に何かが大量に流れ込む感覚がした。
濁流のような見えない何かは止まることを知らない。
反射的に、僕は激しい頭痛に襲われる。
僕は咄嗟に、しゃがみ込む。
「リック!」
心配して駆け寄るレーナ。
レーナが僕のそばに駆けつけたタイミングで、頭への何かの流れは止まる。
「大丈夫ですか?」
「うん。何か…平気だな」
問いかけるレーナに、僕は何も問題無いと答える。
さっきは凄い頭痛がしたけど、今はそんなことなかったかのように頭が軽い。
『〜〜〜〜〜えるか?』
「ん?」
黒竜が僕に何か言うが、最後しか聴き取りづらい。
『〜〜〜聞こえるか?』
「あ!聞こえる!」
『おお!良かった!良かった!初めての事だから、失敗したかと思ったが、成功か。どうだ、今…我の言葉がしっかりと分かるだろ?」
「え?ええ…分かると言うか、黒竜さんが人の言葉を話しているから………いや、これは……竜の言葉?」
ここで、理解する。
先ほど、黒竜が話していたのは、人の言葉ではなく、竜の言葉。
今の僕は竜の言葉が鮮明に分かる。
こうなった原因は一つしかない。
『お主には竜の言葉の知識を頭に吹き込んだ。これで、他のドラゴンとも会話出来るだろう』
やはり、黒竜の仕業だった。
ドラゴンが知識を吹き込むなんて、聞いた事ない。
本当に黒竜は他のドラゴンとは明らかに違う何かがある。
『我は、もう死ぬ。我が子を頼む』
黒竜は、そう言って穏やかに笑った…ように見えた。
「死ぬ?ちょっとまっ…………」
『さらばだ』
僕の制止を無視して、黒竜は別れの言葉を言う。
次の瞬間、キイーン!!!
黒竜の体が光を放つ。
「「う?!」」
突然のことだったので、僕とレーナは目を覆う。
目を覆っても微かに光を感じる。
光は数十秒間続いた。
いや、十数秒、もっと短くて数秒かな?
兎も角、光は時間が経ち、収まる。
僕とレーナは目を開ける。
「黒竜が…」
「いませんね」
そこに、いたはずの黒竜が消えていた。
まさか、本当に消えるなんて。
事態が急展開過ぎて、理解が追い付けない。
「いや……待って、あれは?」
「あれとは?」
僕は指を差す。
その先は、さっきまで黒竜がいた場所。
今は何もいない………ように見えたが、何かがあった。
大きな白い何かが。
それは楕円球状の白くて大きな………、
「これは”卵”でしょうか?」
そう、レーナの言う通り、卵だった。
この卵こそが、黒竜の言っていた我が子のことなのだろう。




