14レーナの正体
『人間に会うなど、何百年ぶりか』
「やっぱり喋ってる」
僕は息を飲む。
さっきから耳に入ってくる人の言葉は、明らかに目の前の黒竜から発せられている。
最強種であるドラゴンが人の言葉を使っている。
そんな話聞いたことが無い。
でも、実際に聞こえてくる言葉は、人の言葉。
もし、ドラゴンが人の言葉を発せられるなら、対話が可能と言うことになる。
ここは何か聞かないと。
「あ………貴方は……その、ドラゴンですよね?」
僕の震える口から飛び出た言葉は、誰だって見れば分かるだろうと言う質問だった。
聞かれた黒竜は、大きな首を動かし、鋭い眼光をより、こちらに向ける。
怖い。
『ふむ…そうだな。そなたら人間らは、我らをドラゴン、もしくは竜と呼ぶ』
僕の質問に丁寧に答えてくれる黒竜。
『眠っていたら、突然上で物音がしたから、つい寝ぼけて火を放ってしまった』
「ね、寝ぼけて」
ドラゴンも寝るんだな。
しかも、寝ぼけて火を放った…て。
ドラゴンは欠伸の代わりに火を吐くのか。
アースドラゴンを一瞬で焼き殺すほどの炎。
まぁ…そのお陰で僕らは助かったわけだけど。
「リック………先程から誰と会話を?」
レーナが訝し気に僕の顔を見る。
やっぱり、レーナには、この声が聞こえていないみたい。
僕は黒竜を指す。
「さっきから僕は聞こえるんだよ。あそこのドラゴンが話しているのが」
「話してる?!」
レーナは目を見開いて驚愕する。
それはそうか。
ドラゴンが話しているなんて言ったら、こんな反応をするのが普通か。
同意するように、黒竜は頷く動作をする。
『確かに、先程から、そなたらに話しかけているのは我だ。しかし、不思議だ……数百年前は多くの人間に、”竜の言葉”では無く人の言葉で話しかけても誰も我の言葉が聞こえなかったのだが。そこの女子の隣にいる、そなたは聞こえるみたいだな』
黒竜の目は興味深いように僕を見る。
だけど、僕も僕で気になる事があった。
「竜の言葉?そんなものがあるんですか?」
『ある。ドラゴンならば誰しもが生まれた時から話せる言葉』
僕は、それにハッとする。
心当たりがある。
兄…ペルシャが乗る騎竜のスカイドラゴン…スピアは飛び立つ際に、言葉の様な理解できない声を出していた。
それと同じくアースドラゴンも何度か、理解できない言葉の様なものを発していた。
あれは竜の言葉だったのか。
「でも、貴方は人の言葉を話せるんですね」
それを聞いて、黒竜は口元を緩め、笑ったように見えた。
『ふふ…我は見ての通り、黒竜。ドラゴンの中でも異端の存在。人には興味があってな。独学で人の言葉を学んだ。まさか、役に立つ日が来るとは。長生きはするものだな』
「…………リック」
黒竜と何気なく会話する僕に対して、説明を求める顔で迫るレーナ。
僕はレーナに説明する。
黒竜の会話を。
「竜の言葉…聞いたことがありません。それがリックには聞こえている。私には、唸っているようにしか聞こえませんでした」
「何で、僕だけ聞こえるんだろう」
首を傾げる僕に対して、レーナは少し考えた後、閃いたように顔を上げる。
「もしかして、リックの【ジョブ】…『ドラゴンテイマー』のお陰では?」
「『ドラゴンテイマー』?」
確かに、そう考えれば、しっくりくるかもしれな。
今までドラゴンの言葉が聞こえなかった僕が、気づけばドラゴンの言葉が聞こえる理由なんて、寧ろ…それしか無い気がする。
『ドラゴンテイマー』という【ジョブ】はドラゴンを理論上テイム出来るだけでなく、ドラゴンが話す言葉も聞こえるようになるということ。
そんな話は聞いたこと無いけど、僕みたいな『ドラゴンテイマー』がドラゴンの言葉が聞こえると言っても、頭が可笑しい奴にしか見えないだろう。
『ほお…お主は『ドラゴンテイマー』の【ジョブ】を持っているのか。ならば、我の言葉が聞こえるのも当然か。数百年ぶりの人間と思ったら、中々面白い。『ドラゴンテイマー』を持つお主だけではない』
黒竜は、僕からレーナに視線を送る。
黒竜の目が細められた気がする。
レーナに関して気になる部分があるのか。
いや、気になる部分はあるか。
多分、ドラゴンだから分かるんだ。
”レーナの正体”を。
『これは、また珍しい組み合わせ。『ドラゴンテイマー』を持つ者に合わせて、”魔人”とはな』
「っ?!」
僕は息を飲む。
黒竜が見抜くのを見越していたとはいえ、驚いてしまった。
『違うな。完全な魔人ではない。その娘は、人と魔人との子か。差し詰め…”半魔人”と言ったところか』
黒竜がレーナの正体を暴く。
レーナが何故、人にしては頑丈であり、格闘術があるとは言え、魔物に対して素手で戦えるのか。
それは、レーナが半分、人でないから。
これこそがレーナが抱える秘密である。




