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『ドラゴンテイマー』 ~追放された不遇職使いの僕は、婚約者だった公爵令嬢と共に生き抜いていく~  作者: 保志真佐


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10/11

10アースドラゴン




 「レーナ…随分、汚れちゃったね」


 『魔闘術』を使い、ゴブリン達を素手で一掃したレーナのドレスには、至る場所にゴブリンの血が付いていた。


 素手なので、当然だが、腕と足回りのドレスの布に血が多く付着している。


 レーナには悪いが、少しだけ匂う。


 「そうですね。もう…これは取っちゃいましょうか」


 ビリ…ビリビリ。

 自身の身体に付いたゴブリンの血を見て、顔を顰めたレーナは、腕と足回りのドレスを引き千切り始まる。


 「これで少しは動きやすくなりますね」


 レーナは何も無いところに突きや蹴りを出し、手足を簡単に動かす。

 肩の先と膝先のドレス部分を破ったため、レーナのほっそりして、綺麗な手足が晒される。


 「これも要りませんね」


 そう言って、履いている靴も脱ぎ、裸足になる。

 レーナの霞一つない素足が地面につく。


 「裸足なんて、痛く無いの?」


 漆黒の森の地面は、至る場所に角張った石や尖った根っこが地面から生えているので、裸足だと痛そうだ。


 「ええ、大丈夫です。靴があると、逆に蹴りの威力が下がります。リックが知っている通り、私…身体は"頑丈"ですから」

 「……うん、確かにね」


 僕は概ね同意する。


 レーナは頑丈だ。

 比喩でも何でもない。

 文字通り、頑丈なのだ。


 これは、レーナ自身が”普通の人間では無い”ことに起因する。

 僕だけが知っているレーナの秘密。




 ハイローウルフを倒し、ゴブリンの集団も倒した僕達(倒したのは、レーナだけだけど)は、また先に進む。


 と言っても、進む目標は無い。

 ただ、アーカイブ領がある西側から離れようと、反対の東に進んでいるだけだ。


 僕とレーナはアーカイブ領から追放され、アーカイブ領の西の国境沿いにある「漆黒の森」に連れられた。


 ならば、別の場所を目指して、東に進む以外道は無い。




 「「「ウガアアア!!」」」


 だが、当然ながら…進めば進む程、魔物の襲撃に頻繁に遭う。


 僕とレーナの前には、身の丈三メートルにも及ぶ、二本の角が生えた怪物が三体いた。


 コイツは、オーガ。

 まさに、さっき遭遇したゴブリンを巨大にして、厳つくした見た目だ。


 見た目通りの怪力を持っており、その皮膚は下手な剣ぐらい弾くほどの耐久性を持っている。


 一体一体が、ゴブリンを三十体足した分よりも強い。

 つまり、三体のオーガは、ゴブリン百体近くに匹敵する。


 一つの騎士団が出動するレベル。


 そんなオーガたちは、僕とレーナを見て、まず僕に襲い掛かる。


 正しい判断だ。

 僕とレーナなら、圧倒的に弱いのは、僕。


 弱い方を狙うのは、自然の摂理。


 「はぁ!」


 けれど、僕を庇うように、レーナは怖気を感じさせることなく、オーガに向かっていく。

 駿馬のように駆けるレーナ。


 自らから向かってきたレーナに、三体の内の一体が、拳を握り締め、腕を振るう。


 その拳で固められたパンチは、普通の人が食らえば、頭がそのまま吹き飛んでしまう。

 そんな威力だ。


 それをレーナは、


 「ふっ!」


 左の片腕で受け流し、一気に懐に潜り込む。


 ドン!

 無防備なオーガの鳩尾に、右拳の正拳突き。


 鉄と鉄がぶつかり合ったような鈍い音が聞こえる。

 そして、吹っ飛ぶオーガ。


 本当に、レーナは人間離れした……と言うか、人ならざる腕力を持っている。


 味方がレーナに吹っ飛ばされるのを見て、残り二体のオーガは、雄たけびを上げながら、レーナを取り囲む。


 二体が一斉に、レーナに両拳を振り下ろす。

 それをレーナは、華麗に躱す。


 それだけでなく、躱したことで、地面に叩きつけられた二体のオーガの拳を踏み台にして、上に飛ぶ。


 飛んだ高さは三メートル。

 丁度二体のオーガの頭の位置がある箇所である。


 「せあ!」


 まず、レーナは片方のオーガの下顎に、肘打ちで打撃を加える。

 脳震盪を起こすオーガ。


 さらに、こめかみへ膝蹴りをお見舞いする。


 下顎で頭を揺さぶられ、トドメとして、こめかみに強烈な攻撃を受けたオーガは、白目になり、崩れ落ちる。


 うん、死んだね…あれは。


 「ほ!」


 そして、レーナは続け様に、もう一方のオーガに攻撃を仕掛ける。


 さっきのオーガのように両拳を合わせて、オーガの頭の天辺に振り下ろし、それと同時に、オーガの顎を蹴り上げるように、膝蹴りを放つ。


 顎と頭の両方から強烈な打撃を受けたオーガは、泡を吹いて、倒れる。


 あれも死んだな。


 「ガアァ!!」


 ここで、初めにレーナの正拳突きで吹っ飛ばされた一体目のオーガが、憤慨した顔で迫る。


 仲間の仇を取るつもりだろう。


 「は!ふ!はぁ!」


 そんな最後のオーガに、レーナは連続正拳突きを叩き込む。


 ダダダダダダン!!!

 重低音が響き渡る。


 一つ一つがレーナの正拳突きが、オーガに衝突した音だ。


 目にも止まらぬ速さの連続突きで、オーガは身体中の骨を砕かれる。

 最後のオーガが瞬く間に事切れたのは、誰にでも予想できることだった。


 こうして、三体のオーガは、呆気なく撃破される。


 僕はレーナに駆け寄る。


 「ありがとう、レーナ。また助けられたね」

 「構いませんよ。服は少し汚れましたが……………」


 レーナが服に着いた砂を払い落としていた…その時、


 「ガガガガアアア!!」


 天に届きそうな程の唸り声が鼓膜に入る。


 その余りにも大音量な唸り声に、僕は瞬時に耳を塞ぐ。

 塞いでいても、鼓膜が痛い。


 レーナも眉根を寄せる。

 明らかに、警戒している。


 今度は何が来たんだ。

 そう思い、周囲を見渡す。


 すると…バキバキバキ。

 次々と、木々が薙ぎ倒される音がする。


 ズシズシズシ。

 次に、大きなものが地面を踏み鳴らす音。


 それは何か巨大な物が木々を倒しながら、こちらに近づいてくる音である。


 暫しして、その巨大な物が木々の間から現れる。


 「…………そんな」


 僕は絶句する。

 そして、恐怖から数歩後退りする。


 それほど、僕の視線に先には、強力な魔物がいたのだ。


 それは、四足歩行の巨大な亀に近い生き物。

 亀に近いとは言っても、姿形だけで、その姿から漂う圧力は、さっきまでのハイローウルフやゴブリン、オーガとは比較にもならない。


 黒光りする鱗が目立ち、前足後ろ足は丸太を削って作られたみたいに太い。

 口から見える牙は、僕なんて簡単に噛み砕けるほどに鋭い。

 その眼光は睨まれただけで、竦んでしまう。


 この圧倒的強者を思わせる魔物には、見覚えがある。


 「アースドラゴン!」


 僕が魔物の名を呼ぶ。


 それはドラゴンだった。

 最強種と呼ばれるドラゴンの、お出ましである。




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