第1話:黒薔薇の盟約
森は黄葉の季節。冷たい風が枝を揺らし、落ち葉が舞う。
カインの呼吸は浅く、瞳は薄れていく。
セシルは胸を押さえ、必死に呟く。
「いや……まだ……死なないで……お願い……!」
セシルは必死にカインを抱き上げ、息を吹き込む。
カインは魔女狩りに巻き込まれたセシルを庇い、ほとんど息がなかった。
魔法の炎は消えかけ、体は冷たく硬直していく。
胸の奥で衝動が走った。
──この命を、絶対に救いたい。
魔力も時間も尽きかけ、救う手立てはほとんど残っていなかった。
その時、禁忌の魔法が脳裏に浮かぶ――《黒薔薇の盟約》。
愛する者の魂を代償に、命を救う契約。
代償は大きい。魂を縛ることで、救った命は永遠に魔女の力の中に囚われ使い魔となる。
しかし、セシルは迷わなかった。
「……ごめん、カイン。君を縛ることになるけど……それでも生きてほしい!」
黒薔薇の花びらを浮かべ、契約の呪文を唱える。
光が爆ぜ、カインの体を包み込む。紅い瞳がゆっくりと開く。
魂は永遠にセシルの魔力に縛られ、彼はもう人間には戻れなくなった。
「君……?」
微笑みは確かに彼のものだった。
「……永遠に……これが呪いになる……」
胸に痛みを抱えながら、セシルは呟く。
黒薔薇は森の闇の中で咲き、二人の運命を絡め取った。
カインは生きたまま、セシルの魔力の中で永遠に離れられない存在となった。
「君の中にいられるなら……それでいい」
カインの微笑みは、呪いを受け入れた愛そのものだった。
──これが、狂おしくも甘い《黒薔薇の盟約》の始まりだった。




