プロローグ
わしの名は、むすび。ここ恋寄駅の管理人を務める者じゃ。年齢や生まれを聞きたいかもしれんが、それを語るのは野暮というものよ。そなたが必要としているのは、この駅がどんな場所か、そしてここで何が起こるのか、ということだけじゃろう?
恋寄駅はわしにとってもそなたにとっても特別な駅じゃ。田んぼと山々に囲まれ、常に夕焼けに染まるこの駅は、そなたたち人間の「恋」を映し出す鏡のような場所じゃ。現れる者は皆、心の中に恋を宿しておる。叶わぬ恋、始まらぬ恋、終わった恋、そしてこれから紡がれる恋 -どんな恋も、この駅でひとときの行方を見つけるのじゃ。
この駅に辿り着く者には一つの共通点がある。それは、わしの相棒、猫又のツキが手渡す切符を受け取った者だけが来られるということじゃ。その切符は、この駅への片道切符。ここで話を聞き、想いを言葉にした者は、汽車に乗り込む。そして、そなた自身の選んだ目的地で新たな一歩を踏み出すのじゃ。
わしの役目は、訪れる者の話を聞くことじゃ。ただ耳を傾け、時には少し助言を与えるだけじゃ。わしが何かを決めることはない。そなたが持つ恋の物語は、そなた自身が主人公なのじゃからな。わしはその物語を紡ぐ手助けをするに過ぎん。
そなたがここに来たのも、何かしらの縁かもしれぬな。恋とは甘く切なく、そして時に苦しいものよ。その旅路には迷いもあるじゃろう。しかし、その迷いを抱えながらも進む姿こそが、人間というものの美しさなのじゃ。
さて、この駅に訪れた者たちの物語をそなたに届けよう。彼らが恋寄駅で何を思い、何を選んだのか。それはそなた自身の恋の旅路にも、きっと通じるものがあるじゃろう。どうぞ、心ゆくまで楽しんでほしい。
さあ、恋寄駅へようこそ。そなたの心にもまた、新たな風が吹き込むことを願っておるよ。




